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白鵬・鶴竜、横審から「激励」でも最後通告となる理由 - 新田日明 (スポーツライター)

また休場かよ――。そんな嘆き節とともに世間から白鵬と鶴竜の2横綱が激しい反発を食らっている。白鵬は6日に日本相撲協会へ「右膝関節鏡手術・術後血症で今後2週間の加療を要する見込み」との診断書を提出。これにより8日から両国国技館で初日を迎えた11月場所を休場することが決まった。すでに鶴竜も腰の状態が悪化していることを理由に11月場所の休場を決めている。2場所連続で複数の横綱が初日から休場するのは1場所15日制となった1949年夏場所以降、史上初の〝汚点〟だ。


(c11yg/gettyimages)

両横綱ともに35歳。角界の最高位に君臨しながら力士たちの「壁」となり、私たちの知らない舞台裏では壮絶な重圧とも戦いつつ、連日に渡って激しい稽古で自らの身体を磨き上げている。しかしながらそれも年齢面を考えれば、徐々に限界へと近づいている感は否めない。

ちなみに鶴竜は途中休場を含め、これで3場所連続の休場となる。今年3月の春場所は出場したものの、その前も昨年9月の秋場所から今年1月の初場所まで休場するなど〝3休1勤〟を繰り返している有様だ。白鵬も3場所連続休場、2場所連続となる初日からの休場はいずれも初めてだが、本場所での休場は実に通算17度目。好角家のみならず世間の多くの人が「横綱はこんなに休んでも許されるのか」と突っ込みを入れたくなるのも当然だろう。

それでも横綱はいくら休場しようとも大関以下の番付と違って、その座位から陥落することもない。出処進退については自分の意志に委ねられている。極端に言えば事実上、いくら休んでも永久に安泰なのだから大相撲の横綱の地位は〝特権階級〟だ。とはいえ、これだけ休みまくりの両横綱には世間からの風当たりが厳しくなる一方であることから、さすがに今回ばかりは進退問題へと発展しそうな勢いとなっている。

そうした声に押される形で来年1月の初場所はさすがに出場するとみられているが、こればかりは当人のコンディションが絡んでくることから保証できるような話ではないだろう。仮に両横綱が来年の初場所も休場ということになれば、引退を迫る世論がより激しさを増すのは必至であり、日本相撲協会や横綱審議委員会の面々も我慢の限界に達するはずだ。

新型コロナウイルスの影響で春場所後から中止となっていた横審の定例会が9月末、8カ月ぶりに開催され、この時点で秋場所全休の白鵬、鶴竜に委員から厳しい声が相次いだ。ここでは両横綱に対して11月場所に万全の姿勢で出場を果たしてほしいと強く求められていたにもかかわらず、当人たちは結局今場所も初日から土俵に上がれなかった。その11月場所での再起が果たせなかったことを考えれば、初場所の出場可否うんぬんではなく今の時点で厳しい声を取りまとめ、何らかの決議が取られても不思議はない。

横審には「激励」「注意」「引退勧告」を行うことができる内規があるが、果たして〝最大級の勧告〟が下されることになるのだろうか。世間の多くは固唾をのんで見守っているかもしれない。いや、しかしながら何だかんだと言われながらも、そこまでの「引退勧告」の決議実施にはまず至らないと言い切れる。

実際に横審の矢野弘典委員長は、この厳しい声に〝待った〟をかけている。2018年には長期休場や連敗が続き、窮地に追い込まれていた横綱稀勢の里に「激励」を出した例があった。実を言えば前回開催された定例会でも2横綱に対して決議が検討されたのは、この「激励」どまり。その決議挙行ですら矢野委員長は慎重な姿勢を貫いて各委員に「もう1場所待ちましょう」と呼びかけ、了解を取った。もしこのまま次回以降の定例会において休場を続ける両横綱に何らかの決議を取る流れになったとしても「激励」になるとみられる。

ただ3つの段階が設けられている決議の中で最も程度の低い「激励」とはいえ、そう簡単に易々と出せるものではない。矢野委員長はそのように判断したと推測されるが、感情的にならず非常に冷静な調整を行ったと言える。角界では基本的に横審が内規に基づく決議を挙行すること自体が異例ととらえられているからだ。

直近では一昨年、前記した稀勢の里が8場所連続休場という不名誉なワースト記録を更新し、その直後の同年9月場所では勝ち越すも次の11月場所で5日目からまたしても休場するという体たらくの末に横審の決議によって「激励」された。

2002年7月に7場所連続で休場した横綱貴乃花には当時の横審委員長を務めていた渡辺恒雄氏(現読売新聞グループ本社代表取締役主筆)が翌場所での再起と復活を印象付けるような取口を厳命し、それが果たせないのであれば「自ら決してくれということ」と述べて事実上の引退を勧告したケースもあった。

その貴乃花の場合でも横審の決議は諮られておらず、あくまでも引退勧告は「事実上」というエクスキューズが世間によって付けられていた。ちなみに、この後者の貴乃花は再起をかけた同年9月場所で武蔵丸と激しい優勝争いの末、賜杯こそ逃したものの12勝3敗の成績を残して復活を印象付けている。

前者の稀勢の里は先にも触れたように成績不振と低迷から横審の決議による「激励」を受けた異例の流れであり、結局再起を促された昨年の初場所では初日から3連敗の後、引退を申し入れている。結果論でモノを言うわけではなく、横審が決議挙行に踏み切る場合はそれなりの根拠も求められる。つまり成績不振や休場続きの横綱に対する決議については、それが「激励」であろうが「注意」、あるいは最大の「引退勧告」であろうとも最後通告と解釈しなければいけない。

そういう意味で考えれば、もし近々に白鵬と鶴竜に横審から「激励」が言い渡されるとなると、それは本当に両横綱の終焉が近づくということになる。NHKでテレビ解説を務めている元横綱の北の富士勝昭氏も8日の11月場所初日の放送中、白鵬と鶴竜について「2人とも35歳。年齢的にもそろそろ限界じゃないかという気がしないでもない」と厳しい意見を口にしていた。だが、これは紛れもない世間大半の見解だ。

次の主役は誰か?

11月場所の休場が決まる前、白鵬は横審の面々から苦言が集まったことについて問われ「ケガから帰ってきた時にしっかり成績、結果を出している。その辺もう少し分かってもらいたいなとも思いますけどね」と反論していた。先場所優勝で新大関となった正代を合同稽古では一切妥協せず子供扱いしていただけに、この反論が悪態や単なる強がりでないことは理解できる。それならば、なおさら11月場所は出てほしかった。

横審から「激励」される時、白鵬、そして鶴竜は土俵際に追い込まれることになる。来年の初場所で両横綱と次代を担うべき若い力士たちの取組が次々と実現し、その中で今度こそ真っ当な形で世代交代を予感させるような〝次の主役〟の誕生を望む。特にいつまで経っても「白鵬の壁」を打ち破れない次世代を担うべき若い力士たちにとって、このタイミングこそ天下取りの大チャンスである。

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