- 2020年11月08日 16:53 (配信日時 11月08日 11:25)
秋吉 健のArcaic Singularity:戦場にかける通信回線。政府が要望した「20GB/月額4000円」プランの「落とし穴」と「抜け穴」とは【コラム】
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通信各社の20GBプランについて考えてみた!
既報通り、ソフトバンクとKDDIおよび沖縄セルラー電話は10月28日、相次いでデータ通信容量が20GBの新料金プランを発表しました。
それぞれサブブランドとなる携帯電話サービス「Y!mobile」と「UQ mobile」向けの料金プランとなります。
Y!mobile向けの料金プランは、月額4,480円でデータ通信容量20GBと10分以内の国内通話無料となる「シンプル20」で、2020年12月下旬より提供開始予定。UQ mobile向けの新料金プランは月額3,980円でデータ通信容量20GBの「スマホプランV」で、2021年2月以降に提供開始予定となっています。
各社が今回のプランを発表した背景には、2018年より続く日本政府および総務省によるモバイル通信料金低廉化への動きがあります。
当ブログメディアの読者のみなさまにはもはや説明不要かと思われますが、政府がモバイル通信料金の目安として掲げ、海外のモバイル通信会社の料金との比較に用いられていた数字こそがデータ通信容量20GBでの料金であり、その水準が日本円にして4,000円前後でした。
政府としては納得せざるを得ない料金水準を満たしてきた各社のプランですが、果たしてこれで「万事解決」となるのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。
今回はソフトバンクやKDDIによる20GBプランを検証しつつ、そこに存在する「落とし穴」や「抜け穴」、そして技術的停滞への懸念について考えます。
料金も容量もベストに見える20GBプランの「落とし穴」とは……
■欧州水準を目指した政府と各社の思惑
はじめに、これまで政府が求めてきた料金水準についておさらいしておきます。
政府がモバイル通信料金値下げの「根拠」としてきたのは、海外の料金水準との格差です。この点については前々回の本連載にて詳しく解説していますが、欧州の大半の国がデータ通信容量20GBで2,000~3,000円台(ドイツのみ5,000円台)であることから、日本もそれに習うべき、というものでした。
【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:携帯電話料金値下げは是か非か。単純には答えの出ない問題に、通信品質や消費者流動性の視点から考える【コラム】
今回発表された各社の新料金プランは、十分欧州の水準に並ぶものになったと思われる
過去記事で筆者は、通信料金以外にも通信速度や通信品質も十分に加味しなければ正しい料金価値を判断しにくいという趣旨の意見を書かせていただきましたが、今回のY!mobileおよびUQ mobileによる新料金プランは、まさに通信品質を考慮しなければいけない難しい料金プランとなっています。
語弊無きように端的に書くならば、「通信品質は問題ないが5G通信が使えない」ということです。それは各社が意図的に狙った部分でもあり、上位プランとの差別化施策でもあります。
なぜauではなくUQ mobileなのか。そこに答えがある
■マルチブランド戦略に潜む「落とし穴」
ソフトバンクやKDDIは現在、最高品質の通信環境を提供するメインブランドと、データ通信は中容量で価格もリーズナブルなサブブランド、そしてさらに低廉な価格を必要最低限の通信品質とサービスで提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスという、3つのブランドを展開する「マルチブランド戦略」を取っています。
各社のブランド分けの詳細は以下のようになります。●ソフトバンク
・メインブランド(MNO)……ソフトバンク
・サブブランド(MNO)……Y!mobile
・MVNO……LINEモバイル
●KDDI
・メインブランド(MNO)……au
・サブブランド(MNO)……UQ mobile
・MVNO……BIGLOBE mobile、J:COM MOBILE
今回発表された新料金プランはいずれもサブブランドでの展開であり、各社ともにサブブランドでは5G通信が利用できません。これは一体どのような状況を引き起こすでしょうか。まず考えられることは、最新・最先端のスマホを十分に楽しめない可能性がある点です。
例えば、KDDIは9月25日に2020年秋~2021年春発売のスマートフォン(スマホ)として6機種をラインナップしましたが、すべての機種が5G対応となっており、キャッチコピーとしても「auは、全機種5Gへ」と掲げるなど、5Gの普及へ全力を注いでいることが分かります。
これらの5G端末はハイエンドからミッドハイクラスまで幅広く用意していますが、一方でUQ mobileの機種ラインナップを見てみれば、いずれもローエンド~ミッドレンジの低価格帯スマホしかありません。
UQ mobileでハイエンドクラスを使いたければSIMロックフリースマホを用意すれば良いだけの話ではありますが、KDDIが明確に「auは高級ブランド、UQ mobileは廉価ブランド」というカテゴリー分けをしているのは間違いありません。こういったブランド分けはソフトバンクも同様です。
20万円を軽く超えるフォルダブルスマホなど、超高級端末も扱うau
対するUQ mobileは廉価端末のみだ
仮にこのブランド分けのまま新料金プランが浸透した場合、5Gの普及が大きく遅れる可能性があります。
モバイル通信各社および政府は総力を挙げて5Gの普及と推進を図っている最中ですが、現在はまだまだそのエリアも狭く、5Gの恩恵を受けられているユーザーは非常に限られているのが実情です。
そのような中で、さらに5G通信を使えない料金施策が広く普及するとなれば、人々への5G通信の周知や普及は大きく遅延することになります。