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青森八戸は無人機の拠点となる


シーガーディアンの飛行状況。ガスタービンでプロペラを回すターボプロップ機。最高速力は210ノット、航続距離は5000マイル。今回の説明では滞空時間は30時間とされているが別資料では40時間とする数字もある。おそらく搭載物件次第である。写真はGA-ASI社の公式写真。

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・海保は海自八戸基地で無人機の実証試験をおこなっている。

・実用型配備も安全性、基地の余裕、交通から八戸となる。

・青森県の三八地方に無人機雇用が生まれる可能性もある。

海上保安庁は八戸で無人機の試験運用を始めた。防衛省の海自航空基地を拠点とし米製機シー・ガーディアンを用いた実証飛行を実施している。

ただ、その将来の運用拠点は未定としている。無人機の実運用が決定したあとで新規に検討決定する。海保はそのように述べている。

その将来の拠点はどこになるか?

やはり海自八戸となる。なぜなら安全性、基地の余裕、交通の便といった理由で無人機運用に最も適するためだ。


▲写真 八戸で報道公開されたシー・ガーディアン。海保向けを意識して沿岸警備隊組織を意味するレーシング・ストライプが入っている。大ぶりの格納庫は必要はなく、今回も背後のアムルス倉庫が格納庫として貸し出されている。筆者撮影。

■ 海保による実証試験

海保の実証試験は10月15日から始められている。計画では約1ヶ月、予備日を含めれば11月15日まで行う予定である。

拠点は青森県にある海上自衛隊八戸航空基地である。基地北東を海保が間借りする形だ。そこから太平洋や日本海の自衛隊訓練空域まで自力飛行した上で各種の試験が行われている。

使われる無人機はGA-ASI社(General Atomics Aeronautical Systems, Inc.)のシー・ガーディアンである。プロペラ機だが動力はジェットエンジンを使うターボプロップ機だ。通常の飛行機同様に滑走路を使って離着陸する形式である。

特徴は自律性と長距離飛行にある。離着陸は完全自動で行われる。また衛星通信での指示により八戸以外の飛行場にも離着陸できる。飛行距離は最大9000km以上、時間では30時間以上に及ぶ。

ちなみに無人機の操作や整備は同社が実施している。基地の駐機場脇にプレハブを設置し同社社員が詰めて各種作業を実施している。

海保が無人機を検討する目的は「遠距離での海洋監視能力確保」である。海保の航空機には飛行距離や滞空時間の制約があった。それを解決するために無人機を導入する。よく言われる省力化は目的ではないとのことだ。(*1)


▲写真 列線作業。機体は少人数で運用可能。駐機場での各種作業を担当する列線要員は3人でよい。筆者撮影。

■ 実用機も八戸に配置される

海保はこの無人機をどこに配置しようとしているのだろうか?

報道公開時には「導入時の基地は未定」としていた。八戸はあくまでも実証試験の拠点である。実用配備が決まった際には再び検討する。質疑ではそのように返答した。(*2)

だが、やはり八戸となる。その理由は第1に安全性、第2に飛行場の余裕、第3は交通至便である。

■ 安全性を確保できる

第1は安全性である。

無人機運用では危険性が問題となる。今まではなかった新しい飛行機である。なによりも操縦者が乗らない無人である。その点で不安を伴う。もし墜落したらどうなるか。そのような懸念が生じるのは当然である。

だが八戸飛行場ではそれは深刻な問題とはならない。飛行場は海沿いにあり離着陸経路上に住宅地が存在しないからだ。

まず陸上飛行はほぼ行われない。八戸基地は海沿いにある。そのため海上進出や帰投に際しても陸地上を飛ぶ必要はほとんどない。八戸の住宅地等の上は飛ばない。

また離着陸失敗も深刻な事態は引き起こさない。

滑走路東側は海まで550mしかない。また滑走路も標高30mの台地上にある。離陸で失敗しても海に落ちるだけ、着陸で失敗しても基地内に落ちるだけだ。

滑走路西側もほぼ林地である。住宅はなく建物もまばらだ。墜落時に深刻な被害は出がたい条件にある。

この点で無人機拠点に向く。墜落のリスクはあまり問題にならないからだ。


▲写真 エプロンからタクシーに向かう状況。1000馬力級のエンジンであり100mも離れれば騒音は気にならない程度となる。掴みで5m/10ktの向かい風の中で概ね550m程度で離陸した。筆者撮影。

■ 飛行場の余裕

第2は飛行場の余裕である。飛行数や基地面積には余裕がある。このため海保を受け入れる余地は十分にある。

八戸の飛行数はここ20年で大幅に減少した。南西シフトの影響である。また哨戒機の数や在八戸部隊の規模が縮小した結果でもある。

土地の余裕も大きい。滑走路の東側、北側はそれほど利用されていない。また隣の陸自八戸も部隊規模が縮小している。

海保が借りているアムルス地区もそのような場所だ。以前に機雷搭載場として整備された。だが今では用途そのものが消滅しており利用度は高くはない。

この点でほかの基地よりも無人機拠点に向く。

これは海自の海沿いの基地と八戸を比較すれば歴然とする。那覇は飛行数も多く土地の余裕はない。岩国、大村/長崎空港と徳島/徳島空港も概ね同様である。鹿屋基地は土地の余裕はあるが飛行数が多い。練習機も飛行しているからだ。

■ 交通至便

第3は交通の有利である。

八戸は交通の便利がよい。東北自動車道、東北新幹線で東京から1本でつながっている。また青森と三沢空港も近傍にある。

このため部品手配や出張ほかの往来がしやすい。交換部品や消耗品、工具の準備は容易となる。海外から手配しても通関の翌日には届けられる。また技術者派遣や業務調整も東京から容易に日帰りできる。

これも他の基地に対する優位となる。例えば第2で提示した那覇、鹿屋、岩国、大村、徳島よりも東京との交通は便利である。また以前に無人機の試験が行われた硫黄島や壱岐とは較べものにならない。


▲写真 エプロンの仮設囲障には、てるてる坊主が並んでいた。GA-ASI社の社員が作ったとの由。筆者撮影。

■ 無人機整備の雇用も生まれる?

海自も八戸への海保無人機の配置を歓迎する。なによりも悪い話ではない。規模縮小が進む海自の海洋哨戒能力を補う戦力となる。また無人機のノウハウ吸収にも役立つ。

第2で述べたように土地には余裕がある。無人機の利益からすれば今のアムルス地区や滑走路南側の旧空自格納庫を渡してもよいとも考えるだろう。

将来には共同運用の芽もある。両者共同の部隊で運用する。または運用会社に共同で運航を委託するやり方だ。

うまくすれば自衛官再就職先の確保にも繋げられる。海保も使う非武装無人機である。おそらく操縦や整備は製造元ほかの民間企業に委託される。その要員として海自OBを雇用して貰えれば再就職問題の緩和にも役立つ。これは徳島基地の前例が示すとおりである。(*3)

(*1),(*2) 10月29日公開取材の際に質問し回答を得た。

(*3) 徳島基地では海自OBが整備にあたっている。海自はTC-90練習機の整備を徳島ジャムコに委託し、徳島ジャムコは海自OBを雇用して整備を実施している。今までの経験技能を活かせる職場のためOBの満足度も高い。

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