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一番の被害者は真っ当に過ごすベトナム人 - 出井康博 (ジャーナリスト)

群馬県など北関東で相次ぐ家畜や果物の盗難被害——。その犯人として、ベトナム人たちの関与が疑われている。

10月末に入管難民法違反容疑(不法残留)で逮捕された男女13人のベトナム人グループの中には、豚を丸焼きにする動画をSNSにアップしていた者がいた。彼らが住んでいた家からは、警察の家宅捜査で冷凍された30羽余りの鶏も見つかった。さらには、無許可で豚を解体し、逮捕された別のベトナム人グループもいる。

一連の盗難事件が、ベトナム人の犯行なのかどうかは断定できない。しかし、外国人犯罪全体に占めるベトナム出身者の多さは際立つ。在日外国人の14パーセント程度に過ぎないベトナム人が、検挙数では外国人全体の35パーセントにも上っている。

こうして検挙されるベトナム人の8割近くは、「実習生」もしくは「留学生」として来日している。今回逮捕されたベトナム人も、大半が現役の実習生や元実習生の不法残留者、そして留学生だった。

実習生や留学生に対しては、「コロナ禍の影響で仕事を失い、生活に困っている」といった同情的な声もある。確かに、新型コロナで苦しい生活を強いられている者は少なくない。とはいえ、困っている外国人は何もベトナム人だけではない。

イメージ写真(Drimafilm/gettyimages)

多額の借金を背負い入国

なぜ、ベトナム人は犯罪に走るのか。その要因として、新型コロナにも増して「制度」の問題があると筆者は考える。

ベトナム人の実習生や留学生は、大半が多額の借金を背負い入国している。借金を背負わずには来日できない仕組みが存在するのだ。

実習生の借金は、ベトナムから日本へと彼らを派遣する「送り出し機関」へ支払う手数料によって発生する。手数料に関し、ベトナム政府は送り出し機関が徴収する上限を「3600ドル」(約38万円)と定めている。だが、全く守られておらず、中には100万円以上もの手数料を要求する機関もある。

ベトナム人の実習希望者には、現地で仕事にあぶれた、貧しい層の若者が多い。そのため手数料は借金をして支払う。日本で働き、返済しようと考えるのだ。

そうした手数料は、すべてが送り出し機関の収入になるわけではない。日本側で実習生を仲介する「監理団体」関係者へのキックバッグも横行している。実習生のリクルートで現地を訪れた関係者が、送り出し機関の接待を受けることもよくある。そんな接待費にしろ、出処は実習生の借金なのである。

実習生が来日した後には、監理団体の中間搾取が待っている。受け入れ先となる企業や農家などは、「監理費」として月3万〜5万円程度を監理団体へと支払わなくてはならないのだ。監理費の負担は、実習生が受け取る賃金へと跳ね返る。結果、賃金は手取りで10万円程度に抑えられてしまう。

実習生の賃金は「日本人と同等以上」と定められている。だが、都道府県ごとの「最低賃金」さえ支払っていれば、問題にはならない。

残業の多い職場へ派遣された実習生には、月15万円以上を得るような者もいる。しかしコロナ禍によって、残業が減った職場も少なくない。つまり、もともと借金を背負い入国し、低賃金で働いているところに、新型コロナが追い打ちをかけているわけだ。

そんな状況も、実習生が職場から失踪し、不法就労する動機となっている。ただし、コロナ禍の影響で人手不足が緩和され、以前ほど簡単に就労先は見つからない。結果、犯罪に手を出してしまう者が現れる。

留学生に至ってはさらに悲惨だ。ベトナム人にとって日本への留学は、実習と同様に出稼ぎの手段になっている。留学生に「週28時間以内」のアルバイトが認められることに着目し、留学を出稼ぎに利用するのである。

ベトナムでは、実習生には「底辺労働者」とのイメージが強い。その点、同じ出稼ぎであっても「留学」は耳障りがよい。うまくいけば、日本で就職できるかもしれない。そう考え、実習よりも留学を選ぶベトナム人が少なくない。

実習生よりも負担の大きい留学生

ただし、留学生となると実習生以上に費用の負担が大きい。その額は留学斡旋業者への手数料に加え、留学先となる日本語学校への学費の支払いで、150万円前後にも上る。

留学希望者も実習生と同様、たいていは貧しい若者たちだ。留学費用は、実習生の手数料と同じく借金に頼ることになる。

コロナ禍の前であれば、日本語の不自由な留学生にもアルバイトは簡単に見つかった。とりわけ夜勤の肉体労働は人手不足が深刻で、アルバイトをかけ持ち、月20万円以上の収入を得る者もいた。かけ持ちすれば、「週28時間以内」の法定上限を超えてしまう。しかし借金返済と学費の支払いのため、留学生の違法就労は当たり前のように横行していた。

だが、新型コロナで状況は大きく変わった。留学生が多く働く飲食業では、閉店や時短営業が続出している。また、コンビニなどの人手不足も急速に解消しつつある。そのためアルバイトを失い、苦しい生活に陥る留学生は少なくない。

そうした留学生の困窮を伝える報道は、最近になって新聞やテレビで目立っている。しかし、そもそも日本の留学ビザは、アルバイトなしで留学生活を送れるだけの経済力のある外国人に限って発給されるはずなのだ。アルバイトがなくなった途端、学費が払えなくなったり、困窮するような留学生が受け入れられていること自体がおかしい。しかし、なぜか大手メディアは、その点には全く触れようとはしない。

実は、留学生にはメディアが取り上げない「不都合な真実」が存在する。ベトナムなどアジア新興国から出稼ぎ目的で来日する留学生たちは、捏造書類を用いてビザを取得しているのだ。現地の留学斡旋業者経由で行政機関や金融機関の担当者に賄賂を渡し、親の年収や預金残高が改ざんされた証明書を発行してもらう。そうやって経済力があるよう見せかけて取得したビザで入国する。

新興国の庶民としては有り得ない金額の年収などが載っているのだから、日本側で書類を審査する法務省入管当局、在外公館、また留学先の日本語学校にしろ、書類の捏造を見破るのは難しくない。しかし、書類を厳格に審査すれば、留学生は増えない。政府が進めている「留学生30万人計画」も達成できなかった。そこで政府は捏造を黙認し、出稼ぎ目的の留学生までも受け入れ続けた。彼らを底辺労働者として利用し、日本語学校、さらには日本人の少子化で経営難に陥った専門学校や大学の学費収入を増やすためである。

来日時の書類捏造は、多くの実習生にも共通する。実習生には、母国で就いていたのと同じ仕事を日本でやり、帰国後は復職するとの規定がある。実習に応募する際には、母国での職歴を書いた履歴書も提出しなければならない。

だが、ベトナム人の実習希望者は多くが農家の出身で、農業以外に仕事をした経験はない。そのため送り出し機関を通じ、履歴書を捏造する。たとえば、建設業の会社で実習生となる場合、ベトナムでも同様の仕事に就いていたように履歴書をでっち上げるのだ。

犯罪者が入国してしまうことも?

履歴書のでっち上げは、これまで筆者が取材してきた留学生にも何件もあった。東京都内の日本語学校に通っていたあるベトナム人留学生は、兵役に就いていた過去を履歴書には載せず、その間の1年半は専門学校に在籍していたことにしていた。ベトナムで兵役に就くのは、貧しく、学力のない若者とのイメージがある。そのことを案じた留学斡旋業者が、履歴書を改ざんして日本語学校へ提出していた。

こうした証明書類の改ざんは、日本ではまず起こらない。でたらめな履歴書をつくっても、企業や学校に確認すればすぐにバレてしまう。だが、ベトナムでは賄賂さえ払えば“本物”が簡単に手に入り、後で問題になることもない。

履歴書までも簡単に書き換えられてしまうのであれば、ベトナムで犯罪を犯した人間が、過去を隠して日本へ入国することだってできるかもしれない。そんなデタラメがまかり通るのも、政府が外国人の底辺労働者を確保するため、実習生や留学生の「数」を増やしてきたからなのだ。そのツケが今、「犯罪」となって現れ始めている。

多額の借金を背負っての来日、また捏造書類を使ってのビザ取得にしろ、他のアジア新興国出身者の多くに共通する。ただし、ベトナム人の場合は、在留者数が断トツに多い。実習生では全体の半数以上に当たる約21万人、留学生も約8万人が受け入れられている。

犯罪に走るのはごく一部だとはいえ、家畜の盗難などに絡んでベトナム人の逮捕が相次いだ結果、「ベトナム人」のイメージは大きく傷ついた。最も迷惑し、また心を痛めているのは、真面目に暮らす在日ベトナム人たちだろう。

「留学生や実習生の受け入れ制度は絶対におかしいです。早急に見直さないと、犯罪だってどんどん増えていく」

筆者の周囲のベトナム人からは、口々にそんな声が聞かれる。

ベトナム人らを実習生や留学生として受け入れる際には、絶対に借金を背負わせてはならない。そしてビザ申請時には、書類の審査を厳格に実施すべきである。その2点だけでも実行に移されれば、ベトナム人犯罪は大幅に減っていく。それは日本人のみならず、ベトナム人たちにとっても好ましいことなのだ。

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