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「僕らは奴隷」30代後半キャリア官僚語るブラック職場と年収

官僚が生き生きと仕事していたのは過去の話? 霞が関では多くの官僚が激務に追われている(写真はイメージ)

 一握りの超エリートしかなれない「キャリア官僚」。だが近年、不況にもかかわらず、公務員の頂点である彼らの人気は落ち込み、“市民の憧れ”の時代は終わりを迎えつつあるようだ。官僚たちに今、何が起きているのか。『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)の著者で、自身も東大出身のライター・池田渓さんがリポートする。

 * * *
「月の平均残業時間は150時間。国会会期中で自分の部署に関係する委員会が開かれている時は、200時間を超えることもあります」

 常軌を逸した残業時間にもかかわらず、涼しい顔でこう語るのは、霞が関の某省庁で課長補佐を務めるT氏(30代後半・男性)だ。東大農学部の修士課程を卒業して総合職試験(旧・国家公務員Ⅰ種試験)と面接をパスして某省庁に入省した、いわゆる「キャリア官僚」である。

「東大からキャリア官僚」といえば典型的なエリートコースだが、近年その傾向は薄れてきている。2019年に行われた東大入試で、これまで文系の国内最高峰であった東京大学文科一類(以下、東大文一)が、合格最低点・最高点・平均点の全てで文科二類に逆転されたという“事件”が起きたのだ。2020年には再度逆転したが、たとえ一時的であっても文一が文二を下回ったのは極めて異例。この理由は、文一の主な進学先である法学部が学生に敬遠されているからだとされている。それはつまり、元々官僚養成校であった東大で官僚を志望する学生が減っているということだ。事実、キャリア官僚に占める東大出身者の割合は年々減少しており、ここ10年で約半分にまで落ち込んでいる。

 長時間労働、国会議員や官邸からのパワハラまがいの指示、劣悪なオフィス環境、多発するうつ病や自殺……これらの悲惨な官僚の勤務環境が世間に周知されてきたということだろう。

「仕事のできる人がどんどん忙しくなっていく職場です。特に東大卒の多くが毎日寝る時間を削って忙しなく働いている印象です」(T氏、以下同)

 官僚としての能力に優れているということもあるだろうが、東大卒には基本的に責任感の強い人が多い。いろいろな仕事を引き受けているうちに、「あの人が詳しいから」ということで新しい仕事が次々と回されるようになる。重要な仕事を多くこなしていれば、当然出世もしやすい。現在、内閣府と省庁全体で官僚のトップである事務次官等のほとんどは東大出身者だ。

「いつも朝の9時30分に出勤しています。定時は18時15分ですが、定時を過ぎてからが仕事の本番。昼間は会議のほか、上司や国会議員への説明などに費やされ、夜になって本来の業務にとりかかれます。時計を見て21時頃だと、『あと6時間も自分の仕事ができる!』と嬉しくなりますね」

 T氏が全ての仕事を終えて家に帰れるのは早くて終電の時間。週の大半で午前2~3時頃までの残業になり、タクシーで官舎に帰る。昼休みの1時間を除くと1日の勤務時間は16時間超えだ。これでは、家族と過ごすこともままならない。

 民間企業の労働者には労働基準法が適用され、原則的に「使用者は1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはいけない」ということになっている。しかし、公務員の中でもT氏のような職種にはこの法律は適用されない。

「仕事で緊張状態が続くので、いつの間にか眠気は忘れています。とはいえ、肉体も精神も常に疲弊していて、朝の通勤の満員電車で立ったまま気を失うように眠ってしまうことはしょっちゅうです」

入省10年、労働時間300時間超えでも年収650万円

 そんな過酷な環境下で働くうち、覚醒剤を使ってしまった官僚もいる。2019年4月、経済産業省に勤務する当時28才のキャリア官僚(東大工学部卒)が覚醒剤を密輸して使用した容疑で逮捕された。2013年に経済産業省に入省した彼が最初に所属した資源エネルギー庁では、残業が多い時で月に300時間(!)もあったという。その後、部署が変わって残業は月100時間に減少したが、逆に心に余裕ができてうつ病を発症。医師からは向精神薬を処方されていたが、もっと効果の強い薬を求めて覚醒剤に行き着いた。もちろん覚醒剤の使用など言語道断であるが、「月100時間の残業で心に余裕ができた」という話には、なかなかつらいものがある。

 労働時間だけではない。例えば、政権の不祥事や与党議員の失言があるたびに行われる「野党合同ヒアリング」も官僚たちにとって大きな負担だ。担当省庁の官僚が野党議員に呼び出され、議長の仕切りもないなか一方的に大声で詰問され、罵倒され、あげくその様子をテレビやインターネットで日本中に公開される。吊るし上げられる官僚は不祥事の当事者でないことも多く、合同ヒアリングは「ヒアリングとは名ばかりの公開リンチではないか」という批判もある。

「私たちは公僕、つまり、公衆の奴隷です。一方で国会議員は、選挙で選ばれた国民の代表者ですから、私たちよりも圧倒的に上の立場です。逆らうことなんてとてもできません。ただひたすら、心を殺して耐え忍ぶだけですね」

 奴隷には拒否権はもとより人権すらない。現に、官僚たちは「働き方改革」の対象からも外されている。なかには、議員からのパワハラにさらされ続けて精神を病む者もいる。

「パワハラで心が壊れてしまいましたが、辞めさせられません。どこに異動させましょう…ということで、元キャリアなのに今は省庁の建物の中で一日中郵便物を配って回っているだけという人もいます」

 そんなブラックな職場で1日に16時間以上も働いて、その「ガマン料」は一体いくらなのだろうか。T氏は「給料は安い」と言う。

「入省10年目の年収は650万円でした。部署の予算はあらかじめ決まっているので、残業代がほとんど出ないんです。当時の私の月の労働時間が305時間、年間3660時間でしたから、時給にすると1800円です」

 仕事に要求される能力、負わされている責任、労働時間に対して、給料が明らかに見合っていない。民間企業で同等の仕事をすれば、年収1000万円は超えるだろう。

「東大に入らなければこんな辛い仕事に就くこともなかったのかな、なんてことはよく考えますよ。なまじ勉強ができて東大なんかに入ってしまったから、官僚養成校の東大ではそうするのが自然だろうと試験を受け、こんなに悲惨な人生につながってしまったわけですから」

 学生の頃のT氏は「官僚の仕事は大変だけど相応にやりがいもあるだろう」と考えていたそうだ。しかし、その考えは甘かった。現実はとてもやりがいを感じる余裕なんてない。

官僚のための働き方改革でさらに残業増

 過重な労働によって心身を壊し、自殺や突然死をする官僚は決して少なくない。人事院のデータによれば、霞が関で2017年度にうつ病などの精神疾患で長期病休をした人の数は3841人。これは、全職員の1. 39%を占める。民間企業ではこれが0.4%だというから、いかに官僚が過酷な職場で働いているかが分かる。同じく、官僚の死亡率も民間企業の約3倍になるという。

「若い人が突然亡くなったという話はよく聞きます。職員がうつ病になって休職しているなんて話は、どの部署でも掃いて捨てるほどありますよ」

 この異常な勤務環境の改善を望む声は、官僚やその家族だけでなく一般の国民からも上がりはじめている。それらを受けて、就任直後の河野太郎行政改革担当相兼国家公務員制度担当相は「官僚の働き方改革」に着手した。まずは官僚の勤務実態を把握するため、全省庁の職員に在庁時間の記録を付けるよう指示を出したが、今のところT氏はその動きを手放しで喜んでいない。

「勤務環境の改善は大歓迎です。ただ、その結果を短期間で求められていて、その業務に追われ状況は悪化しています。半年から1年をかけてやるような改革を数週間から1か月でやらなくてはならず、本来の仕事に加えてですから、結局そのせいで今現在、大量の残業が発生しています」

 冒頭で述べたように、今、東大生の官僚離れが進んでいる。数年前には、T氏の部下になるはずだった東大卒業予定の学生が、「同級生と起業することにした」と省庁内定の辞退を申し出てきたそうだ。「その方が彼の人生には良いと私も思います」とT氏は話す。

 勤務環境の改善が明確に示されないかぎり、今後も東大卒のキャリア官僚の数は減少の一途を辿るはずだ。優秀な人材の流出は霞が関全体の質の低下につながり、国民に大きな不利益をもたらすだろう。もはや一刻の猶予もない。

【池田渓】
 1982年兵庫県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学生命科学研究科修士課程修了、博士課程中退。フリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。近著に『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)がある。

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