記事

善逸くんが堂々1位…『鬼滅」キャラランキングに見る今ドキの理想の「男の子」「悪役」とは - CDB

2/2

鬼の側では逆転現象

 しかしながら目を引くのは、鬼の総大将である鬼舞辻無惨(23位735票)よりも、その部下である上弦の鬼、黒死牟(14位2938票)や猗窩座( あかざ 17位1982票)の方が上位に来ている点である。

 無惨様というのはドラゴンボールやジョジョで言えばフリーザやDIOにあたるボスキャラで、少年漫画では時に悪のボスにも人気が出ることがあり、無惨様も第一回の時点では11位285票と鬼側ではトップに座っていた。しかし鬼殺隊における善逸くんとは逆の現象で、部下の鬼たちがあまりに魅力的なので第二回では無惨様票が分散して割れた可能性はある。

 また、『鬼滅の刃』という作品の特徴として、鬼たちが人間をやめるに至った悲劇性の描写があり、特に猗窩座などは人間時代の記憶が邪魔して女性を殺して食うことができない、といった複雑な精神性が読者を惹きつけるのに対し、無惨様は平安貴族だった人間時代からささいな理由で善良な担当医師の頭をナタのようなものでホームランしてしまい、そのせいで不死と太陽光に弱いという謎が解けなくなって1000年生き迷うという、非常に庶民が共感しにくいライフストーリーが災いした面もあるだろう。

 ここで注目したいのは鬼の中でも「下弦の鬼」と呼ばれるやや弱めのグループからトップ20にランクインしている「魘夢(えんむ 16位2435票)」である。驚くべきことに、比較にならないほど強い上弦の鬼である猗窩座( あかざ 17位1982票)や童磨(18位1589票)、ボスである無惨様(23位735票)よりも人気がある。しかもこの魘夢の場合、猗窩座のように読者の感情移入をさそう悲劇的なストーリーは特にないのである。強いわけでもなく、かわいそうなわけでもない。普通ならここまで人気になるキャラクターではないように見える。

 しかし僕はこの魘夢というキャラクターは、強さや悲劇性とは別のところでやはり優れた造形の悪役キャラクターであり、ある意味では現在歴史的大ヒット中の『「鬼滅の刃」無限列車編』の大成功の立役者であると思っている。そのポイントは彼、魘夢の「斬られっぷりの良さ」「ちょうどいい悪党」感にある。

空気の読める悪役

 劇場映画となれば、鬼滅の刃のメイン層である子供たちは炭治郎、善逸、伊之助、禰豆子といった自分と同年代の「鬼殺隊低年齢チーム」が大活躍するのを期待して劇場にやってくる。『鬼滅の刃』の物語上、子供観客の人気が高い低年齢チームはこの段階では猗窩座たち上弦の鬼にはまだ太刀打ちできず、かと言って弱い鬼をゾロゾロ出せばいいのかというと、首を斬らなければ鬼は死なないという設定上、映画の大銀幕に大量の生首が転がりまくるという非常に好ましくない状況になる。

 魘夢というキャラクターの優れた点は、たった一人で鬼殺隊の相手を引き受けつつ、走行する列車を乗っ取って触手を伸ばして乗客を食おうとすることで、「触手を斬り払って乗客の命を守る」という絶好の活躍の場を鬼殺隊チームに与えてくれる点である。これなら剣を振るうたびに毎回ザコ鬼の生首が転がって「さすがにコレちょっとどうなの」と親御さんに思われることもなく、斬っても斬っても生えてくる触手を薙ぎ払う炭治郎や善逸を安心して応援できるわけである。

 魘夢は映画の前半から登場し、「せっかく映画館に来たんだから、炭治郎の水の呼吸が見たいな! 大暴れしたいな!」とワクワクしている子供たちの前で、炭治郎や善逸たちのそれぞれの得意技でバッサバサと触手を斬られてみせる。煉獄さんという格の違う炎柱に対しては、斬られる触手の数で炭治郎たちとのパワー差測定もわかりやすく示して見せるし、「首が斬られて転がったけどこの列車と一体化したから死なないよーん」というまさかのビックリ仕掛けも、ある意味では生首描写のフォローにもなっているという行き届き方である。

 まさに映画のレーティングをPG12でなんとか収めた立役者と言っていいだろう。悪名高い無惨様のパワハラ会議を舌先三寸で生き延びただけあって、とにかく空気の読める悪役なのである。

 しかも魘夢の素晴らしいところは、最終的にやっつけられる時も「炎柱の煉獄さんは乗客を助けるのに忙しいので、炭治郎たちだけで倒さなくてはならない」という状況を設定し、子供の自立心も育成する点である。

 倒されたあとは鬼殺隊のメンバーを一人一人回想モノローグで挙げながら「あいつのこの技のせいだ…そしてあいつのこの技で負けた…しかもあの娘(禰豆子)…鬼じゃないか…」と「一人一人の良かった点、頑張った点」を読み上げていくという、金八先生最終回レベルの褒めて育てる捨て台詞を吐き、最終的には「ああこんなに人質を取ったのに1人も殺せなかった…みじめだ…やり直したいやり直したい…」と言って、「はい、頑張った君たちは全員平等に100点満点でした。悪者は反省し後悔しながら消えていきます」という実に教育的な最後を迎える。実際の話、魘夢はパニック映画の王道である「列車暴走」を盛り上げるだけ盛り上げて、ハラハラさせながら子どもたちの良い所を引き出し、終わってみれば一人の乗客も殺さずにやっつけられるという困難な仕事を見事に成し遂げているのだ。なんという仕事のできる悪党なのだろうか。

子供たちに学ぶ楽しさ、目標達成感を与える

 この魘夢の部分はほぼ原作通りなのだが、ここを映画化部分に選んだスタッフの判断も素晴らしいと思う。劇場映画に求める暴走列車のスペクタクル、鬼殺隊メンバーの個性と技を戦いの中で一人ずつ紹介できるわかりやすいサンドバッグぶり、すべてが劇場映画の前半導入にうってつけなのだ。

「俺にも実はこんな可哀想な過去があったんだよね」的アピールも特になく、メインイベントの煉獄さんVS猗窩座の悲劇的カタルシスに繋げてさっさとリングを降りていく引き際も見事である。悪役レスラーとしても屋上ヒーローショーの怪人としてもプロと言わざるをえない。子供たちの心に「とにかく魘夢をやっつけて面白かった。またやっつけたい」という成功体験として残り、ランキングに入るのも納得の結果だろう。

 これが無惨様であったらどうだろうか。そもそもバカ強いので現段階の炭治郎たちではまるで歯が立たない上に、心臓が7つ脳が5つあるので斬っても斬ってもまるで効かず、子供たちに学ぶ楽しさ、目標達成感を与えることができない。しかも平安貴族出身のくせにやたらと他人を上から罵倒するので学習意欲を阻害し萎縮効果も生んでしまうだろう。まことに悪役として教育的問題があると言わざるをえない。

 日本中のお父さんたちが今、子供たちが水の呼吸で振り回す丸めた新聞紙で斬られてみせたり、サランラップの芯をくわえた我が家の禰豆子にひっかかれたりしていることと思うが、子供たちを育てる悪役は無惨様ではなく魘夢。これを覚えていただきたいと思う次第である。

それぞれのキャラクターに人生と思想がある

 すべてのキャラクターに言及する余地がなくなってしまったが、ランキング全体を見渡して思うのは、誰が何位かという話とは別に、本当によく票が分散している、これだけ多い登場人物にそれぞれちゃんとファンがついているということである。これはキャラクターの魅力と個性が立っている作劇の見事さに加え、『鬼滅の刃』キャラクター一人一人に内面と信念があるということも大きいと思う。

 たとえば甘露寺蜜璃という女性キャラクターは一見コケティッシュでグラビア的なアイキャッチキャラに見えるが、大食と髪の色で女性らしく見えず見合いに失敗するというジェンダーロールからはぐれた戦う大正女性として描かれ、女性ばかりの一族で生贄として育ったため女性が苦手な男性剣士・伊黒小芭内と恋に落ちる物語が描かれる。

 善逸という少年の描き方も含め、弱者男性やフェミニズムというビビッドなモチーフを持ち込みながら、それを一捻りもふた捻りもして作品に昇華している。空前のヒットによって多くの『鬼滅の刃』分析論が書かれているが、『鬼滅の刃』という作品は右派と左派、ヒット作品をめぐってしばしば対立してきた両陣営から同時に支持されるという不思議な傾向がある。

 作者が押すひとつのイデオロギーで作品が染められているのではなく、それぞれのキャラクターに人生と思想があるマルチイデオロギー的作品として、右派と左派から同時に自己を投影されて支持されているのがこの作品の特異な点であるのかもしれない。

 最後に、この第二回ランキングは今年の春に締め切られ、新型感染症の影響で集計が延期されていた、連載完結のかなり前の人気投票であることを付記しておきたい。物語が幕を閉じた後、映画の大ヒットで作品に触れる観客はさらに桁外れに膨らんでいる。

 もしも第3回の投票があったら、ランキングはどう変わるのだろうか。「人の評価は棺の蓋を覆うまでわからない」という諺があるが、無惨様という稀代の「憎まれ役」の評価はその死によってどう変わるのだろうか。ぜひ知りたいものである。

(CDB)

あわせて読みたい

「鬼滅の刃」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    KDDI「povo」への批判はお門違い

    自由人

  2. 2

    PCR検査で莫大な利益得る医院も

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    橋下氏 いま日本は「欠陥の車」

    橋下徹

  4. 4

    広島県の大規模PCR検査は愚行

    青山まさゆき

  5. 5

    菅首相発言が「絶対アカン」理由

    郷原信郎

  6. 6

    菅首相発言に漂う日本崩壊の気配

    メディアゴン

  7. 7

    渡邉美樹氏 外食産業は崩壊危機

    わたなべ美樹

  8. 8

    青学・原監督の改革を学連は黙殺

    文春オンライン

  9. 9

    車移動に回帰? ペーパー講習混雑

    井元康一郎

  10. 10

    慰安婦判決は異常 迷走する韓国

    コクバ幸之助

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。