5.1つのことに集中することを善しとする
「いいんだ善逸 お前はそれでいい 一つできれば万々歳だ 一つのことしかできないならそれを極め抜け 極限の極限まで磨け」
(4巻第33話「苦しみ、のたうちながら前へ」より) 桑島慈悟郎
善逸が、那田蜘蛛山で蜘蛛にされかけたときに、思い出した「じいちゃん」の言葉です。
善逸は器用ではなく、「雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃(へきれきいっせん)」しか使うことができません。それを恥じたり、悔いたりしてモチベーションが下がった時期もあり、自信が持てない要素になっています。
しかし、戦いの中で思い出すのは、自分を信じて「それでいい」「一つを極めろ」と励ましてくれた師匠の言葉でした。ゼネラリストにはなれないけれど、スペシャリストにはなれること教え、善逸の善いところを認め行動ができるように働きかけてくれています。
1つを極めることも大変なことですが、1つを極めるまでの愚直さは、人生を好転させるきっかけとなっていくことを示してくれています。
6.未来を見据えて今を考える
「君には未来がある 十年後二十年後の自分のためにも今頑張らないと 今できないこともいつかできるようになるから」
(12巻第103話「縁壱零式」より) 竈門炭治郎
炭治郎が刀鍛冶の里を訪れたときに出会った刀匠見習いの小鉄にかけた言葉です。先祖から受け継がれてきた戦闘用絡繰人形「縁壱零式」を壊され、自分では直せないと悲観していたときに、炭治郎がその気持ちを汲み取って送ったエールなのです。
この言葉の「君」を「私」に置換えて読んでみてください。しみじみと勇気が湧いて来ませんか?
先のことが判らないから悲観するのではなく、未来があるから今を頑張るというポジティブシンキングです。すぐに結果を求めるのではなく、先に「できる自分」を思い描く。未来志向は、意欲につながっていきます。
7.心の中で衝動をコントロールする
「貴様の下らぬ観念を 至上のものとして 他人に強要するな」
(20巻第170話「不動の柱」より) 悲鳴嶼行冥
岩柱の行冥が、上弦の壱である黒死牟こと継国巌勝と戦っていたとき、鬼になることのメリットを説かれた行冥は、人であることに誇りを持ち、命を懸けて鬼殺隊にいることを侮辱するなとばかりに、正論を放った1コマです。
私たちの生活の中で起こる理不尽なことの1つに、「自分の意見は正しい」と押し付けて来られるものがあります。それぞれの立場、状況によって異なる見解があって良いところ、一方の見方のみが正しく、従わないことがおかしいと思わされる状況です。
面と向かって反論すれば喧嘩になりますが、この言葉を心の中で唱えると落ち着いてきます。言いたいことを発話しなくても言語化しているからです。そして相手と距離を取ることができるので、クールに対応することができるようになります。
同じように、鱗滝左近次の「判断が遅い」(1巻第3話「必ず戻る夜明けまでには」)も、心の中でつぶやくと、自分や人に喝が入り、コントロールができるようになります。
レジリエンス(再起力)を構成する要素がシーンに込められたセリフを紹介しました。心を震わせ感動する言葉やシーンは他にも沢山あります。『「鬼滅の刃」流 強い自分のつくり方』(アスコム)にも多く示していますので参考にしてみてください。
セリフはシーンを知ることでその意味がより一層深く理解できますので、ぜひ原作を手に取っていただくことをお勧めします。
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井島 由佳(いじま・ゆか)
大東文化大学社会学部社会学科助教 心理・キャリアカウンセラー
1970年、東京生まれ。東京家政大学大学院家政学研究科人間生活学専攻修了。博士(学術)。心理・キャリアカウンセラー。専門は教育心理学、キャリア心理学。ライフキャリアとマンガ
に関する研究を行う。CDA、産業カウンセラー。キャリアデザイン、チームビルディング、メンタルヘルスなどの専門家。自治体や企業等で研修講師を務める。キャリアカウンセラー養成講座を長年担当。中学生・高校生・大学生・社会人にキャリア教育を展開。大学では、心理学・教育心理学・行動分析学・キャリアデザインなどを担当。マンガを使った講義・研修・セミナーが人気。
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