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大学の人事とスケジュール(1)

文部科学省の設置審(大学設置・学校法人審議会)が認可するよう答申していた大学3校の新設を田中真紀子・文相がひっくり返したという件(「田中文科相、3大学設置認めず 審議会答申覆す」(asahi.com)、どういう話なのかわからない人もいるだろうと思うので多少解説する。

なお私自身がよく知っているのは特定大学特定学部のシステムだけだが一般的な制度に基づいているのでまあそうも違いはなかろう(しかし組織によって一定の違いはあるかもしれない)という点と、「現状としてこうなっている」という話が中心でありじゃあその仕組みでいいのかどうかというのはまた別の話であるという点をお断りしておく。

* * *

まず重要なのは、以前にも触れているが(たとえば「研究職をめぐる問題」)大学教員の人事体系と時間感覚は世間一般と大きく異なるという点。前者は、専門分野ごとに人材として分かれていて代替可能性がごく小さいという話。急に欠員が出たからといって法哲学者が民法を教えるわけにはいかないとか、民法の中でさえ家族法学者と財産法学者では互換性が乏しいとか、そういうことである。事務職員さんなら少なくとも図書系とか財務系とかいった大きなブロックの中では融通が効くのに対し、教員の穴があいたときに埋められるのはその分野の教員だけで、しかも往々にして特定分野の教員は一大学に一人しかいないので、急な手当はできない。

私が今年首都大学東京に教えに行った背景もこういう話で、首都大の担当教員が研究専念期間を取ったので授業ができなくなったところ、(1) カリキュラム上設定されているので授業をしないというわけにはいかず、(2) 首都大に法哲学を教えられる別の教員もいないから、他大学教員に非常勤を依頼して解決したわけ。しかし常勤教員はまた本務校の負担で忙しいのが一般的であり(だから6日間しか空けられなくて毎日5コマ講義するハメになったわけだが)、いきなり頼んでも予定が取れないとか余裕がないとかいって断られてしまうことも多い。分野や組織によって違いもあるだろうが、まあ半年くらいまえにはどの科目で非常勤が必要かをチェックして依頼を始めると、そんな感じになっている。

つまり、まあ今の時期には来年度授業計画の基本がもうまとまっているというスケジュールになる。すると――ここからが関係してくる部分だが――たとえば今年度末で現在の勤務先を辞めて別の大学に移りたいというような場合、いま言い出したのではもう遅いという感覚になるのですな。だって来年度の授業計画にいきなり穴が空くことになるし、それだけの非常勤をいまから手配しても間に合わないかもしれないからね。

もちろん主要科目の場合にはいつまでも非常勤でしのぐわけにはいかないので、後任人事を起こす。それにかかる時間が、公募なり調査なりで候補者を探し、人事委員会を作って業績審査を行ない、教授会に報告して投票まで、うまく行ってまあ半年か。授業計画を作る時点で来年度には誰がいるのかが確定するためには補充人事を春から始めている必要があり、辞職の申し出はそれ以前にされていないと困るということになる。というわけで動くなら1年以上前に言い出すか、そうでなければ後任補充が終わるまで非常勤などで穴埋めを引き受けるというのがある種の相場ということになる。

つまり、一方で大学教員は転職や移籍の多い・日本では珍しく流動性の高い職業ではあるのだが、他方でその「流動」にはかなりの時間がかかるものであって、外資系企業の転職とも・一般企業内の転勤とも違うのですというのがポイントになる。

* * *

なお念のために書いておくと以上は「業界の常識」の話であり、たとえば労働法規制とは異なっている。大学教員も労働者であるから、辞職して他の大学に移るという場合でも退職月の前半だかに申し出れば有効になるはずだし、穴埋めの非常勤を引き受ける義務など法的にはあるはずもない。年末ギリギリに年度末で退職するとか言い出し・穴埋めもせずに去っていった人というのも実際に見たことがあるが、労働法上はそれでOKであって大学側に何ができるわけではない。ただ当該人物は「ひとでなし」だという評判を残したし、学界というのは非常に狭い世界なのでそういった評判がかなり広まりやすい。それを覚悟の上なら別になんでも構わないんだがと、そういうことではある。つづく。

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