- 2020年11月06日 08:18
コロナ禍で急増の自殺 データは何を語るのか - 高橋義明(中曽根平和研究所)
1/2自殺で亡くなる方が増えている。
筆者も本年4月に新型コロナウイルスの心理的影響を懸念し、レポートをまとめた。経済的不安の高まりが若年層を中心に心理的ストレスを高めていることを明らかにした(詳細は筆者の研究レポート「新型コロナウイルス感染症が国民の心理に与える影響:感染拡大は自殺リスクを高めているのか」参照)。
その後、7月から9月まで3ヶ月連続で自殺者数が前年同月を上回り、それが現実になってきている。1997〜98年には金融危機が自殺者数を押し上げた。今回はどのような要因が影響しているのであろうか。厚労省公表の詳細データなどを分析した結果から言えることを報告したい。
データを自殺日・居住地でみるべき事情
自殺に関するニュースで使われる数値は発見日・発見地、つまり亡くなられた方が発見された日、発見された場所で計上されているのをご存知であろうか。
筆者が自殺統計の集計に関わった経験からすると、発見日と実際に亡くなったと推定される自殺日の関係では5〜7%が発見月以前に亡くなった方であった。その中には数年から10年以上前に亡くなられた方が発見されるケースもあった。
また、発見地と居住地の関係をみると、例えば、東京都で亡くなった方の8%程度は他道府県居住者であった。近隣の埼玉県、千葉県、神奈川県在住が多いが、北海道から沖縄県までの居住者を含んでいた。現下のコロナ禍との関係を考える上でも今現実に起きている自殺の状況を捉えるには自殺日・居住地での数値をみる方が相応しい。
以下ではニュースではほとんど触れられない自殺日・居住地のデータで比較検証してみたい。分析方法は米国疾病予防管理センター(CDC)が新型コロナ感染症の際にも超過死亡推計に使用しているFarringtonアルゴリズムを使っている。この方法によって人口変動をコントロールしながら過去の傾向よりも死亡者数が急増しているかを探知することが可能となる。
子ども・若者の自殺が6月から増加
まず年齢階層別でみると、図1の通り、10代の自殺は8月で急増しているが、男女とも過去のデータから取り得る統計的な最大値(95%上限閾値)に6月頃から近づいていた。
特に女性では既に1月、2月も最大値近辺と高い水準となっていた中、緊急事態宣言が出されていた4月、5月は少なくなっていた。他の年代でも女性では20代、30代、50代、60代は7月、40代が8月から最大値を上回っている。
男性でも20代が7月から最大値を上回っている。97〜98年のときには男性の50〜60代の無職が自殺者数を押し上げていたことと比較すると今回は女性、若年が中心となっている。日本財団調査(日本財団自殺意識調査2016)によると、近年、若年層、女性は死にたいと思っている者、自殺未遂の経験者とも多くを占め、自殺のリスクが高い層であった。
図1:10代の男女の自殺者数の推移
(1)男性
(備考)厚生労働省「地域における自殺の動向」から作成
健康や学校問題が動機と考えられるケースが増加 芸能人の自殺報道も影響か
職業別でみると、女性では学生・生徒、雇用者、主婦、無職が増加し、自殺者全体を押し上げている(図2)。一方、男性では雇用者が最も増加に影響し、学生・生徒、無職者が次いだ。
動機・原因別ではどの年齢層でもこれまで1番の動機とされる「健康問題」が原因であると考えられる者が増えている。しかし、職業別の動機・原因からは、女性では「学校問題」を動機とする者が増え、さらに雇用者では「勤務問題」が増えている。
一方、男性でも「学校問題」が動機と考えられる者が増えているが、雇用者では「勤務問題」も総数では多いものの、増加に影響しているのは「健康問題」とともに「男女問題」であった。
ただし、動機・原因が「不詳」のケースも増えており、コロナ禍で動機・原因の解明も困難化していると考えられる。詳細な動機・原因の分析は年1度の厚生労働省の発表を待つ必要がある。例えば、「勤務問題」は従来、仕事疲れ、職場の人間関係が上位にあったが、新型コロナの感染拡大がこうした職場の状況に影響を与えている可能性がある。
また、そもそも動機・原因は遺書や聞き取りから分かる範囲のものであり、真の自殺の原因を明らかにするには困難が伴う。例えば、政府の自殺データではいじめを苦にした自殺は2019年に10代で618人中2件(0.3%)、20代で2120人中2件(0.1%)とされる。一方、私がリーダーを務めた日本財団第3回自殺意識調査報告書では18〜22歳の自殺未遂経験者が最も原因として挙げたのは「いじめ」であった(27%)。



