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増加する財政赤字 歳出の議論もセットで行え - 原田 泰 (名古屋商科大学ビジネススクール教授)

政府の赤字は続いている。2020年度は、新型コロナウイルス感染症対策による歳出増加と税収の減少により、さらに大きな赤字となるだろう。この赤字に対し、多くの識者は増税で埋めるべきと考えているようだが、歳出に関する議論が少ないと感じる。増税して赤字を埋めても、無駄に使えば将来ばかりでなく現在の日本も貧しくしてしまう。

コロナ対策予算は、後から考えてみれば無駄だったというものもあるだろうが、状況が分からない中での支出を後から非難しても仕方がない面がある。事後の検証は必要だが、政策論としては無理があると思う。また、コロナが終息すれば支出は不要となる。基本的には、コロナ以前の財政状況について、歳出の面から考えてみたい。

下図は、国の一般会計予算の歳出と税収、その差の財政赤字を示したものである。通常の歳出に入っている債務の元本を返済するための債務償還費を除いている。債務償還費を赤字に入れると、家計が住宅ローンを前倒しで返済したら赤字が増えるのと同じになる。国際比較に使われる国内総生産(GDP)ベースでの財政赤字はどの国も債務償還費を歳出に入れていない。

(出所)財務省資料などを基にウェッジ作成
(注)2018年度までは決算、19、20年度は補正後予算による
(イラストレーション=藤田翔 Sho Fujita)

ここ数年、歳出は微減、税収は景気回復と消費税増税のおかげで増加し、結果的に財政赤字は縮小している。アベノミクスが始まる前の12年度から18年度までで税収が16.5兆円増加し、歳出を1.3兆円減額した結果、財政赤字は24.2兆円となっている。ただし、上図には、コロナ対策の歳出増は入っているが、コロナ不況による税収減は、まだ考慮されていない。

1年だけの財政赤字を考えても仕方がないので、累積の赤字、つまり債務残高を考えてみよう。それは18年3月末現在、1239兆円となる。これは政府の持っている金融資産を引かない粗債務の数字である。政府債務残高は、子孫に残す借金だと言われるが、借金であれば、金融資産の方も考えないといけない。親の負の遺産は、借金から金融資産を引いたもので考えるべきだから、政府債務も純債務で考えるべきである。純債務は848兆円である(財務省「財政関係資料」より。純債務は、国の貸借対照表の負債合計から現金・預金、有価証券、貸付金、運用寄託金を差し引いたもの)。

これは日本人一人当たり668万円になる。どのくらいの負担かというと、年収400万円で40年間働くと生涯年収は1億6000万円になる。668万円は、その4.2%に当たる。

政府債務は次の世代に残す借金であるなら残っている実物資産、ひいては何に使った結果の債務かが大事ではないか。

金融資産はともかく、借金を作らず首都高を作らなかったのと、借金を残して首都高を作るのとどちらが良かったか。私は、少しぐらい借金があっても首都高があった方が良いと思う。ヨーロッパの都市では、都心から高速道路の距離が離れていて大変である。都心からすぐに乗れる首都高は日本の大発明で超効率的なインフラである。

教育も同じである。財政赤字で大学教育を無償化するのは、全国民へ強制的に、将来税金で返済しなければならない奨学金を給付することである。それが良いかどうかは、大学教育の質による。大学教育の質が高ければ将来世代のためになるだろうし、そうでなければ無駄になる。大学教育の質が十分であるかどうかは、私を含め、大学教員の努力による。

要するに、政府支出と税収を比べて、その差だけを問題にするのは意味がない。たくさん税を取って、それを無駄なことに使えば、財政赤字がなくても、現在と将来の国民を貧しくしているだけである。親がワンルームマンションを3室も残してくれたり、私立大学医学部に進学させてくれたりすれば、多少借金が残っても良いが、それが売れないリゾートマンションや山林原野では困るということである。

歳出の無駄は誰かの所得

かつては経済学者が歳出の中身を議論していた。井堀利宏・東京大学名誉教授は、『「歳出の無駄」の研究』(日本経済新聞出版社)などで、無駄を問題にしていた。井堀教授の指摘する無駄は、公共サービスの質を劣化させないで削減できる歳出、建設費用の割には便益を生まない公共事業、医療における過剰な検査・薬漬けなどを例とし、国と地方を合わせて14兆~21兆円の無駄があるとしている。

ただし、無駄と言っても、人件費や事業費が高すぎるというものなので、無駄をなくせば、政府からの仕事を受注する企業にとっては売り上げの減少、政府で働く人にとっては賃金の引き下げになる。これを考えると、学者が歳出の無駄について発言しないのも理解できる。歳出を議論すれば、誰かの所得や売り上げを減らせということになるからだ。しかし、増税しろというのも、誰かの所得を減らすことだから、なぜ最近の学者の多くが増税のみに熱心なのかは分からない。

大阪市による阿倍野再開発事業2000億円の損失をはじめとする箱物行政の壮大な無駄が指摘されてきた(松浪ケンタ著『大阪都構想2.0』祥伝社)。もちろん、これらの無駄も、受注した業者には売り上げで、そこで職を得た人々にとっては所得である。

いずれも話が古いという批判があるかもしれない。ここ10年で競争入札は拡大され、大阪の無駄は日本維新の会の活動により削減された。しかし、コロナ禍で、あぶりだされた無駄もある。

コロナ感染を恐れて人々が病院に行かなくなった。厚生労働省「病院報告」によれば、本年5月の1日平均外来患者数は95.3万人で、昨年に比べ約3割も減少している。もちろん、子どもの予防接種が減少しているなど、明らかに問題が生じている面もあるが、死亡者は増えていないようである。これは、医療提供体制が過剰であったとも言える。ただし、これももちろん、医療関係者の所得が減った上での無駄の削減である。

政府の無駄が減らないのは、役人の予算獲得競争もあるだろうが、無駄が誰かの所得であることが大きいのではないか。あまりにひどければ維新のような政党が出てくる余地がある。しかし、小さければ誰も気が付かない。そこに気が付くことが、現在と将来の日本を豊かにすることではないか。

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