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国防か、自然か…米軍訓練の移転計画に揺れる馬毛島 元住民、地権者、首長、経済界、それぞれの思惑は

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■「今までこんなに大きなお金を持ってこようとした人がいますか」



 馬毛島がFCLPの候補地に浮上したのは2007年のこと。しかし、島の99%近くを所有していた東京の民間企業、タストン・エアポート(旧馬毛島開発)は、その前から滑走路の整備を始めていた。当時のニュース番組では、「この巨大な工事が何のために行われているのか、何を作ろうとしているのか、県もそして西之表市も把握できないまま馬毛島の自然は確実に破壊されています」とレポートしていた。

 それから5年後の2012年、この開発が許可した範囲を超え、森林法に違反している可能性があるとして鹿児島県が調査を求めたが、タストン社の立石勲社長は「なんであんた、そんなに人を悪者にするんだ」「今まで鹿児島県にこんなに大きなお金を持ってきたというか、持ってこようとした人がいますか」と真っ向から反論した。

 タストン社から土地を買収した防衛省も、「国有化された土地は開発許可制度の対象外で、原状回復の義務が生じることはない」と主張しているが、西之表市は森林法違反の疑いが解決していないとして、国に現地調査を申し入れる考えだ。



 今年1月のインタビューで、立石社長は「やっぱり誘致に25年かかったんですね。交付金が鹿児島県に落ちるわけだから、大成功だと思ってくだされば助かります」と訴えた。この土地に対するタストン社の鑑定評価額は462億円、防衛省が算出した額は一桁少ない45億円だった。にもかかわらず、防衛省は評価の3倍以上の160億円で売買に同意した。

 どういう経緯があったのか、不動産鑑定をめぐる取引について情報公開請求を行ったが、防衛省は内容を明らかにしなかった。「相手方との信頼関係を損なうおそれがある」というのが主な理由だ。

 防衛省はタストン社に対し、港近くの4万坪の土地を引き続き持つことも承諾している。「私どもには建設業という本業もありますので、5000億とも1兆円とも言われる工事に参画したいために、4万坪を残してそこで事業をさせてもらおうと。生コン工事を2つ、アスファルトコンクリート工事を2つ。現地を見させてもらった業者の人と打ち合わせをしたりしている」(立石社長)。

■「“宝物だよね”と言ってもらえるようにするかを考えていきたい」



 「それこそ野蛮な生活でしたよね。自分たちが行った頃は道も電気もないし、ほんとに大変じゃった」。そう振り返るのは、馬毛島の元住民・山下六男さん。 戦後、馬毛島には開拓団が次々と入植し多いときで500人以上が暮らしていた。山下さんも19歳のときに種子島から馬毛島へと移住、そして結婚し家庭を持った。

 「サトウキビを作って漁船でこっちに積んできよったんですけど、波があったりしたら危ないから、海にサトウキビを放り込んだり。ばからしいからやめようって、みんなサトウキビをやめたんですよ。自分は漁師の子どもだから海で生活できると思って船も作ったりしてなんとかやっていたんだけど、海があんまり得手じゃない他の衆は内地に出稼ぎに出て、家族も付いて行って。そんな人も多いですよ」。

 生活の苦しさから仲間が続々と島を離れる中、山下さんも40歳で開発会社に土地を売り払った。「やっぱり立ち入り禁止になるんですかね。別に自衛隊に反対はせんけども、漁をしたときに不自由だったりして、“こりゃあ自衛隊ができてだめだったな”っていう感じになるのは、あんまり好きじゃないですよね」。



 同じく馬毛島の元住民・森勝幸さんは、「兄弟5人いるんだけど、僕だけが馬毛島で生まれています。普段食べる魚とか、そういうものが無かったので、僕らは小学校のときから海に行って食料を調達していました」と当時の生活を振り返る。

 森さんの家族は、父親が残した2000坪ほどの土地を手放さずにいる。島全体から見れば僅かだが、防衛省が計画している設備に重なっている。「売ってほしいという金額は1回目に提示されていると思います。それはいまの馬毛島の評価額よりもはるかに高いと思います。ただ僕らにしてみれば、ごめんなさいという金額です。うちのオヤジは、もうここを離れないという気持ちで馬毛島に入ったと思う。お金をいくら積まれてもお金で動く人じゃなかったので」。

 防衛省との交渉には今のところ応じておらず、土地を手放すかどうかは、反対派と推進派双方の展望を見極めたうえで決めたいとしている。「オヤジが宝物として扱っていたというのがあるので、生かす方法として考えていきたいと。絶対売らないでもない。かといって、はい売ります、でもない。この島を、どうやったら“宝物だよね”と言ってもらえるようにするかを考えていきたい」。

■「“嘘も方便”というかたちを作られてしまう」



 「基地を受け入れるのは簡単だけど、廃止するのは不可能だと思った方がいい。受け入れる時は、そういう覚悟を決めておかなきゃいけないというのが、今の日米安保のような気がします」。元琉球新報記者で、沖縄国際大学の前泊博盛教授はそう話す。

 国が辺野古への移設計画を進める沖縄県の在日アメリカ軍・普天間基地。実は県外の移設候補地のひとつとして馬毛島も検討されており、2016年には当時の翁長知事も視察に訪れている。

 「宮古島で自衛隊の基地建設が始まりましたけど、最初は“キャンプ程度の場所だ”という風に言っていたのが、実際には3倍の広さになっているんですね。それから貯蔵庫をつくる、という話も、蓋を開けてみると弾薬庫になっていました。そこを追及すると、今度はミサイル基地に変わっていました。沖縄では自衛隊基地が作られる時、全てが嘘で固められた説明が行われ、完成したら別物が出来上がる。

自衛隊だけじゃなくて、米軍との共同使用施設にすることによって、米軍が自由に使えるような環境を作られてしまう。そして、既成事実に弱いのが日本人だとアメリカからも言われてますけども、日本人自身が日本人を納得させるために、“嘘も方便”というかたちを作られてしまう。これが今の自衛隊基地建設の問題点だという風に思っています」。



 軍事基地以外での島の利活用はできないのか。西之表市では、八板市長が言うように島の自然や文化に触れる体験学習の検討を勧め、今年8月6日、馬毛島体験学習を開催した。参加した子どもたちは「国が全部買ったらもう行けないんじゃないかと思ってきました。きれいで、まだ人が住めるなと思いました」「無人島だけど歴史とかあるし、そういうことも色んな人に知ってもらえたらいいと思います」と感想を語った。

 翌日、施設の配置などを説明するため、山本朋広防衛副大臣(当時)が訪れた。八板市長は「防衛省が地元軽視・あるいは無視というような態度に終始しておられることに非常に私たちは怒りさえ感じている」と厳しく批判した。防衛省は土地取得前から、地元に説明のないまま、施設の設計契約を業者と結んでいた。これは明るみになり撤回されたが、市は反発を強めている。

■ネット上には基地に賛同の声も多数



 一方、インターネット上には、基地に賛成の声も多く見られる。

 ニュースサイトのコメント欄には、「日本と日本国民を守るために、八板市長は信念を曲げて賛成すべきである。国民が一丸となって、中国と対峙する空自、海自そしてアメリカの空母機動部隊、日本の空母機動部隊の為にも賛成すべきである」「馬毛島に基地があるほうが抑止力になる」「地元にもできるだけの誠意を示すためにわざわざ副大臣が説明に来てるんだろうが!中共に占領されたほうが幸せだと思っているのか、この市長は。この難癖のつけ方は辺野古の運動家連中とそっくりだ」といった書き込みもあった。



 前泊教授は「おそらく施設、住宅といった施設ができると思います。種子島にも米軍用の施設ができたり、米兵たちが休養のために訪れることになれば、犯罪が起こる可能性が高まってくると思いますよ。それに対してどう対処するかということで、また地位協定の問題を味わうことになる。しっかりとした協定を事前に結んでおく必要があると思います」と警鐘を鳴らす。

 島の周辺では漁業が盛んだが、今後も続けられるかは不透明だ。元住民の山下さんは「そうじゃな…もうなんとも言えないもんな。自分たちに権利が何もない島なんだからね。もうそれこそ土地が無いんで。この島で漁をしていかんばっていう、若い人たちがかわいそうやな」とつぶやいた。(鹿児島放送制作 テレメンタリー『島の宝の島 軍事基地は誰のため』より)

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