
イセエビやトコブシが豊富に獲れる漁場で育った元住民たち。島の自然と文化に価値を見出す人たち。開発のため、島のほとんどを買収し国に160億円で売却した元地権者。島をアメリカ軍の訓練施設として活用する計画を進める国。そして再編交付金や自衛隊駐留による経済特需を期待する地元・西之表市の住民たち。
様々な思惑に揺れる南西諸島の小さな島の現状をレポートする。(鹿児島放送制作 テレメンタリー『島の宝の島 軍事基地は誰のため』より)
■硫黄島から空母艦載機の離着陸訓練が移転か

この島の利活用をめぐり、日本とアメリカは2011年、アメリカ軍の訓練移転の候補地とする文書を交わした。地上の滑走路を空母の甲板に見立てて空母艦載機が離着陸を繰り返す、FCLP(陸上空母離着陸訓練)の訓練地として検討されているのだ。

防衛省は去年、島の大半の土地を持つ地権者と売買の合意に達した。ゆくゆくは2本の滑走路を持つ自衛隊基地を新設し、150~200人程度の隊員を常駐させる計画だ。資料では、アメリカ軍のFCLP訓練は年に2回・あわせて2カ月ほどの使用を予定する、とされている。
■「外国を攻撃するための軍隊が馬毛島に来て、仲良くなんかできないですよ」

「売買が成立する前から辺野古の予算を何百億近くも流用して、質問しても答えない、隠す。国会の論議がないままどんどん進んでいるのでとんでもないやり方なんです、国は」と不信感をあらわにするのは、「馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会」の三宅公人会長だ。
「僕は下西の鞍勇といって、馬毛島が見える景色の中で育ってきたんです。皆が不安に思っているのは、本当に米兵が遊ぶところもなんもない馬毛島だけにいるのだろうかということ。屈強な男たちが2週間近くいてね、西之表に遊びに来ないのだろうかと。これはアメリカの人と仲良くするのとは全然別のことですからね。外国を攻撃するための軍隊が馬毛島に来て、仲良くなんかできないですよ」。

■「やはり国土防衛は国の最重要課題ですから」

「このタイミングを逃したら、今後どうなるだろうという不安だらけですよ。人はいなくなる、税収は少なくなる、公共サービスはできなくなる。西之表、種子島の未来がなくなるということから考えて、馬毛島を犠牲にするじゃないけど、FCLPを支援してやっている市だということで観光に結び付けてですね、そうやって伸びていく島だと僕は認識しているんですね」。
自衛隊基地が建設されれば、隊員の家族が移り住み、街がにぎわう。アメリカ軍の訓練移転が決まれば、さらに数十億円とみられる再編交付金が地元の経済を潤す。そのため推進派には、商工会や建設組合などのトップも名前を連ねているという。

日本大学危機管理学部の吉富望教授(元陸上自衛官)は「2018年に長崎県佐世保市に水陸機動団が設置されていますけど、いま日本を見回したときに上陸訓練ができる場所というのは極めて限られている。もう一つ、南西諸島は1000km以上の長さがありますので、必要な物資を必要とされる場所・時間に届ける後方支援が結構難しい。馬毛島を備蓄の拠点とし、そこに飛行場と港ができれば、南西諸島に物を運ぶという意味では非常に大きな意義がある」と説明する。