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2度目の住民投票で葬り去られた大阪都構想 維新は何に負け、何に勝ったのか


松井大阪市長「けじめをつけなければ」

[ロンドン発]大阪市を4つの特別区に分け、広域行政は大阪府に一本化する大阪都構想を問う住民投票が行われ、前回2015年に続き否決されました。大阪維新の会代表の松井一郎市長は「けじめをつけなければならない」と、23年4月の任期満了で政界を引退することを表明しました。

10年間に及んだ大阪都構想を巡る政争はこれで完全に終止符が打たれました。

投票率は前回を4.48ポイント下回る62.35%。今回、公明党の支持を取り付けたにもかかわらず、得票数で賛成票は前回69万4844票から67万5829票と1万9015票も減らしました。

大阪市選管のデータをもとに筆者作成

僅差とは言え、維新の完敗です。票を減らしたのは大阪都構想をぶち上げた橋下徹元大阪府知事というカリスマを欠いたからでしょうか。

大阪生まれの大阪育ち、20世紀最後の1987年から2000年まで産経新聞大阪社会部に所属した筆者にとって大阪市と言えば、上から下まで公費を食い物にしてきた「伏魔殿」のイメージが強く残っています。インフラさえ整えれば成長は後からついてくると、府も市も血税で大型プロジェクトを次々と展開しました。

市の幹部から職員まで公費で北の新地で豪遊する悪慣習が続き、山口組加茂田組元若頭で当時カタギになっていたI氏の協力で新地のクラブを回り、市幹部や職員の乱脈を裏付ける帳簿を見た時の衝撃は今も忘れられません。長年、悪慣習に目をつぶってきたメディアも同じ穴のムジナです。もう30年も前の話です。

I氏の情報で豪華ホテルで開かれた市幹部の誕生パーティーに潜り込んだことがあります。結婚式のような派手なケーキがテーブルの上に置かれ、きらびやかな着物で着飾った新地のママさんたちが大集合し、市幹部をもてなしていました。

そしてバブルが崩壊。大型プロジェクトはバベルの塔のごとく無用の長物と化しました。

共同通信社

大阪都構想の言い出しっぺは橋下氏ではない

大阪都構想を言い出したのは橋下氏が初めてではありません。2000年2月、大阪商工会議所の小池俊二副会頭が「大阪府と大阪市の合体による『大阪都』の誕生」を提案。太田房江知事が同年9月発売の雑誌プレジデントで「まじめに物事を考えるなら、大阪都の実現は避けて通れない」と踏み込みました。

磯村隆文市長(いずれも当時)は「府市協調」の総論では賛成したものの、「市は今の規模が市民のためにもいい。現実的に大阪都は無理だ」と反発。府は「大阪都」、市は「特別市的な大都市制度」、財界は「府市を統合し、首長と議会を一本化する『大阪州』」を口々に唱え、足並みがそろいませんでした。

大阪府と大阪市は昔から仲が非常に悪く、2頭立ての馬車がそれぞれ乱開発を進める「府市合わせ(不幸せ)」な状態が続いてきました。財政難の中、広域行政を一本化して二重行政を解消するために市はなくせても府はなくせません。その意味で維新の大阪都構想は2度否決されたものの、方向性は決して間違っていません。

日本政府観光局によると、大阪府の外国人延べ宿泊者数は11年の217万6790人から昨年には1586万9040人と、約7.3倍に膨れ上がりました。ビザ緩和によるインバウンド(訪日外国人観光客)の激増が大阪の経済を浮揚させ、維新の追い風となりました。

16年の統合型リゾート(IR)推進法成立を受け、大阪府と大阪市は力を合わせて夢洲へのIR誘致を進めています。そして2025年には大阪・関西万博が開かれます。大阪市が単独で目指した08年大阪五輪開催が01年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で102票中たった6票しか集められなかった惨めさとは対照的です。

そして新型コロナウイルスの流行では吉村洋文府知事と松井市長が息の合った漫才コンビのような記者会見を開き、次々と思い切った対策を打ちました。維新はシングルイシューのポピュリズム政党と批判されますが、政治を庶民に近づけ、「大阪を一つに」した威力を実証してみせました。

共同通信社


維新最大の敗因とは

にもかかわらず2度目の住民投票で維新が手痛い敗北を喫したのはどうしてでしょう。菅義偉首相と松井市長の関係は良好です。国政レベルで自民党と連立を組む公明党が大阪都構想に賛成して政治情勢は変化したものの、大阪市の人口構成が5年前と全く変わっていなかったことが最大の敗因です。

大阪市の24区ごとに65歳以上人口の割合(高齢化率)と賛成率(賛成票を賛成票と反対票の合計で割った割合)を回帰分析すると、高齢化率が上がれば上がるほどその区では賛成率が下がるという強い相関関係が浮かび上がります。

大阪市の最新データをもとに筆者作成

前回の係数(傾き)はマイナス0.7298だったのに比べ、今回はマイナス0.8406と相関関係が一段と強まったことをうかがわせます。人間、年を取ればどうしても保守的になります。住所が変わるのは煩わしいし、初期コストや行政コストがかさむと住民サービスが低下すると心配する高齢者は多かったはずです。

これから、高齢化が進めば現状維持を望む声が強くなるのは必至です。2045年には大阪市の高齢化率は平均で32.4%となり、大正区や生野区、住之江区、平野区では高齢化率は40%を超える見通しです。

逆に生産年齢人口割合と賛成率を回帰分析してみると、生産年齢人口割合が上がれば上がるほどその区の賛成率が上がるという強い相関関係が見られます。インバウンドを柱にした維新の成長戦略が軌道に乗り税収増が見込めるとしても、高齢者の不安を取り除くことはできませんでした。

大阪市の最新データをもとに筆者作成

大阪都構想は死んでも実は残る

24区ごとの1人当たり税収では企業が多い中央区181万1522円、北区107万769円、西区42万4566円、それに対して西成区は9万6233円と大きな開きがあり、1人当たり税収が増えるほど賛成率が高まるという相関関係がありました。

大阪市の最新データをもとに筆者作成

大阪市が存続する限り、こうした税収は均等に配分されます。しかし4つの特別区に分けられると単純計算で次のようになります。

新・中央区=42万6138円
新・北区=29万8485円
新・淀川区=19万7368円
新・天王寺区=14万682円

4つの特別区に移行しても住民サービスは低下せず、均等に配分されると言われても、現状維持なら住民サービスは変わらないので高齢者は不確実な大阪都構想より大阪市の存続を選んだことは容易に想像できます。


大阪市が昔のような輝きを取り戻すことは100%あり得ません。大阪市単独で都市開発やインフラ整備などの広域行政を担うこともできないでしょう。大阪都構想が葬り去られても府と市は協力を強めていかざるを得ないのです。大阪市も24区は住民サービスを維持していくため、いずれ再編を迫られるでしょう。

大阪市の住民に政令指定都市の大阪市を廃止しても良いですかと尋ねて2回とも半数近くの人が賛成した事実は無視するわけにはいきません。いずれにせよ府と市は維新が唱えた大阪都構想のかたちに少しずつ近づいていかざるを得ないのではないでしょうか。

共同通信社

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