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「ソーシャルメディアが変革する日本政治」~日本政策学校シンポジウムレポート~

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左から上杉隆氏、東浩紀氏、鈴木寛氏
左から上杉隆氏、東浩紀氏、鈴木寛氏 写真一覧

日本政策学校主催のシンポジウム「政治を可視化・双方化する」の第2弾。公職選挙法により、未だに選挙期間中にネットを使った選挙活動を行うことが禁止されているなど、「政治におけるIT活用」で世界に大きく遅れをとっているとされる日本。では、この現状を招いている要因は一体何なのか?そして、それはどうすれば解決し、ITを活用すると政治はどう変わるのか?アメリカの例などと比較し、政治におけるソーシャルメディアの活用について、元ジャーナリストの上杉隆氏、哲学者の東浩紀氏、民主党参議院議員の鈴木寛氏の3人が、それぞれの考えを話し合った。(取材・撮影:濱田敦子)


金野索一日本政策学校代表理事(以下、金野):今日は「ソーシャルメディアが変革する日本の政治」がテーマです。まずは、海外の活用と日本の比較から話を進めていきましょう。日本のネットの活用状況について、民主党参議院議員・鈴木寛先生のお考えをお願いいたします。


ネットには政治に無関心だと言われる若者の割合が多い

鈴木寛氏(以下、鈴木):日本ではネット選挙運動も解禁されていない状況というのは確かなのですが、今日はひとつソーシャルメディアが、既に政策形成に大きな影響を与えた例があるというお話をしたいと思います。

これは、文部科学省の例なのですが、少し前に内閣官房が公開の場で翌年の予算配分を決める『政策コンテスト』を開催したんです。この時、189の予算項目に対してネットを通じて33万通のコメントが集まり、1位から8位までを文科省関連の項目が独占したんですね。その結果どうなったかというと、予算が9%増えた。

例えば、1位を獲得したのは大学の授業料の減免に関する予算でしたが、これについて意見を求めたところ「是非やろう」という賛同の声をたくさんいただきました。面白いのが33万通のうち10万通くらいが政治に無関心だと言われる若者、つまり10~30代からの投稿だということ。ネットの中では若者の占める割合が大きく、選挙権がない10代が、政策形成にコミットできる点も興味深いと思います。

ではなぜ、文科省関連の予算に多くのパブリックコメントを集められたかと言えば、それを後押ししたのがソーシャルメディアなんです。実は文科省ではこのコンテストの半年ほど前から、いろいろな学校と組んで実際に顔を合わせながらの熟議と、ネットによる熟議を行っていたんですね。そういう活動を続け、熟議を重ねたコミュニティが300万ほどに達したころ、タイミング良く政策コンテストが開かれ、コミュニティの10%くらいの人たちが投稿をしてくれた。メディアはこのことをあまり報じていませんが、ソーシャルメディアは、少なくとも「政策は変えることができる」と言える例だと思っています。

金野:ありがとうございました。日本の例が出ましたので、上杉さんには海外の政治におけるソーシャルメディア事情をうかがいたいと思います。


海外の前時代レベルに過ぎない政治のネット事情

上杉隆氏(以下、上杉):宣伝になりますが、私が代表をつとめる『NO BORDER』のプロジェクトのひとつ 『News Log』 をはじめ、クリエイターのためのソーシャルネットワーク『FREE WORLD』や、広河隆一さんの『DAYS JAPAN』など、日本もメディア自体は進化してきていると思います。しかし、これが政治となるとネット選挙すら解禁していない。

2008年11月の大統領選の時、私はオバマ陣営のSNS活用の巧みさに驚きました。そこで、今年は代表選挙そのものよりも、この4年間でSNSの活用がさらにどのように変化し、使われているかに注目して見ています。

オバマ氏のtwitterで優れているのは、サイトに飛ぶだけでなく寄付ページにも飛び、その場で簡単に寄付が出来るようになっている点です。さらに、政策アーカイブ一覧の他、党大会の最中は、オバマ夫人の演説や、ビル・クリントンの演説にもリンクし、こうしたコンテンツをfacebookやtwitterを含むあらゆるメディアを駆使して徹底的に有効化していました。アメリカは正に大統領選挙によって、政治におけるネットの使い方が進化しているとも言えます。

それと比べると、日本のネットにおける政治の状態は、正直な話、野党ですら海外の前時代的なレベルにしかない。使う政治家の方も、ほとんどの方が世界的な流れについていっていないというのが実感ですね。


僕たちが今必要なのは世の中をうまくまわせるシステム

東浩紀氏(以下、東): 3.11以降、憲法改正の機運が高まり、自民党の安倍総裁などは憲法改正を次の選挙の焦点にしようとしています。しかし、草案を見ると「今の憲法に愛国のエネルギーを注入しよう」というような、冷戦時代と言うか、昭和時代的なイデオロギーに囚われている。しかし、本来憲法は統治システムの設計図で、それをどう使うかのマニュアルのようなモノでしょう。そう考えると、今僕たちの国に必要なのは、愛国精神がどうとかではなく、上手くまわせるシステムを作ることだと思うんです。

既に熟議だけではもう、政治をうまくまわせなくなっていますよね。さらにはITの進展で新しく出てきた“ビッグデータ”と呼ばれる大量の個人情報を、うまく使えていないという問題も、日本に限らず、21世紀の国家が抱えている1つのジレンマでしょう。

インターネットがある今は、バーチャルでデモを起こし続けることができます。
インターネットがある今は、バーチャルで
デモを起こし続けることができます。写真拡大

去年出版した『一般意志2.0』に、「そもそも民主主義とは何だったのか」をルソーの時代まで戻りつつ検証して考えた「新しい国家像」について書きました。そこで僕が提示したモデルは、「熟議を集合知で取り巻く」という発想なのですが、今年起こった官邸前デモは、そのモデルに近いと思います。閉鎖的な熟議が行われているその周りに、デモ隊がいるという構造。デモには決定権はありません。決定権をもつのはあくまで国会議員。だけど、国民の意志が形としてはっきり見えてしまうと、選ばれた政党はそれを無視することが難しいんです。

民意を汲み取って毎週のように選挙をしたり、国民の意見を反映していたら、当然運営が不安定になります。だから、ある一定の期間、選挙によって選ばれたエリートが責任をもって国を統治していくというシステムがあるのであって、これはこれからも続くでしょう。でもインターネットがある今は、バーチャルでデモを起こし続けることができます。エリートたちの議論がおかしいと思ったら、ソーシャルメディアを使ってプレッシャーをかけることができる。そういった意味で今、熟議と大衆の民意の新しい関係性が生まれつつあると思います。

いずれにしても、ネット選挙の解禁など、現実的な働きかけも大切です。上杉さんがおっしゃったように、アメリカはもっと先を行っている。さらには、情報技術の発展は、政治が報じられるとかそんなレベルではなく、行政と市民の関係性を変えたり、選挙そのもののシステムを大きく変えるかもしれない可能性を秘めています。そこまで考えて、「情報技術を政治に生かす」という強い意志が、今の政治に必要です。でも、残念ながら、「facebookやtwitterをどう使う?」という理屈に留まっているのが現実ですね。


政治家とは何を託された人なのか?

金野:オバマ氏はネットを中心として、2008年に円換算で700億円ぐらいの献金を集めたと言われています。日本にも楽天の献金サイトで『LOVE JAPAN』ができ、オンラインドネイションができると言う意味では、アメリカと同じインフラが整いましたが『LOVE JAPAN』で集まった金額は実際総額で3800万程度(2012年10月現在)。 インフラがあるのに集まらないというのは、日本にはマーケティングや、負担する有権者の意識の問題があると思います。このあたり鈴木さんのご意見はどうですか?

鈴木:『LOVE JAPAN』は、金額もさることながら寄付した人は極一部の人たちに偏っていて、政治献金を草の根から集めるという目的を考えると、「個人献金ゼロ」とも言える状態です。僕もマーケティング下手ですが、その次元の話ではないと思っていて、東さんの話をもっと深めていく必要があると思います。

ネットは政治に限らず、そのコミュニティの持っている良いところも悪いところも暴くものです。だから、結局日本の政治のガバナンスが変わらない限り、どんなにITが進化してもダメ。例えマーケティングでかわしても、化けの皮が剥がれて政治不信がさらに進むだけです。

一方で、先日ノーベル賞の山中さんが献金を集めたことが話題になったように、日本に寄付文化がないわけではないんですよね。所得税の税額控除ができるようになり、寄付税制も整いました。体制があるのにダメだということは、日本人の政治に対する信頼関係や、コミュニケーションを変えていかないと解決しない深刻な問題なんですよ。「政治家って何する人なの?」という、ここの定義から始めないといけません。個別利益を誘導してくる自民党政治に対してNOを出して政権交代となりましたが、残念ながら今も「政権交代後に政治家が何をするのか」が、シェアされていないというのが現実です。

東さんが言う“集合知”の勢いに押されて「マニフェスト」というものが出てきたんですが、今は既にマニフェストの構造自体が時代遅れになってしまった。と言うのも、政治家は最早「こういう政策がありますが、イエスorノー?」という選択肢を示す人ではないと思うんです。じゃあ何者なのかと言えば、東さんの言葉で言うとアーキテクチャ、僕の言葉で言うと編集長なんですよ。

政治をするのに言論空間を作らなければなりませんが、その言論空間は編集長の方針次第でどうにでもなってしまう。そうなるとイデオロギーや政策の中身よりも、コミュニケーションデザインのほうが重要になるんです。つまり、選挙に選ばれた人は、言論空間のコミュニケーションデザインするイニシアティブを託されている。これ、“託されても舵を取られてしまうことがある”んだけど(笑)、まず握ることを委ねられているのが、まさに選挙で選ばれた政治家だと思うんですね。

ガバナンスはコミュニケーションの編集次第なので、僕は政治家の定義や、役割、政治家と市民がどういう風に一緒に政策を作っていくのか、その役割分担なんかについていつも考えています。こういう議論をした上で、「そのソーシャルコストにこれぐらいかかり、そのパフォーマンスをあげて健全性高めるために投資をしてください」と提示する必要がある。そういう議論のプラットフォームを作らない限り、道具だけが先行しても難しいと思います。

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