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みっともない政権支持派(上)再論・「正義」の危うさについて その4

トップ写真:菅義偉首相(2020年10月23日 首相官邸) 出典:首相官邸 facebook

林信吾(作家・ジャーナリスト)

【まとめ】

・菅政権の支持率急落。安倍政権の「隠蔽体質と驕り」継承を暴露。

・自著で「議事録」の重要性部分を削除。出版社が「忖度」か。

・これを許せば、時の為政者の都合で歴史改ざん、国民洗脳の危険も。

歌舞伎や落語のような伝統芸能の世界では、名前(芸名)を代々受け継いでゆく習わしがあり、それも伝統の一側面だとされている。したがって大きな名前を継ぐ、つまり先代が名人上手と言われる存在だと、襲名するのは大変なプレッシャーであるらしい。『笑点』でおなじみの三遊亭円楽師匠など、先代が偉大過ぎるからと、わざわざ「六代目円楽」と名乗っている、というように。

政治家の場合は、二世、三世は大勢いるが(小泉進次郎氏など四世)、一般に世襲に対しては批判的な見方をする人も多いし、いずれにせよ首相の座にまで上り詰めたような政治家は、前任者とは異なる「自分のカラー」を打ち出そうとするケースが多い。この点、もともと「首相になりたいというほどの野心はなかった」と公言し、内政・外交ともに「安倍路線の継承」を掲げる菅首相は、いささか珍しいケースである。

就任当初、その安定感が高く評価されたと見えて、62%という高い支持率が示された。ところが、秋の声を聞くとともに、たちまち急落。メディアによってばらつきはあるが、各種世論調査で、おおむね10%以上も下落した。

理由は割と簡単で、まずは日本学術会議をめぐる任命拒否問題。続いて、自身の著作の「改訂」問題が表面化したからである。

私見ながらこれは、菅政権が前任者=安倍政権の悪い部分を継承していることを自己暴露したものと思える。なにかと言えば、

「隠蔽体質と驕り」

である。まずは著作の問題から見てゆこう。

2012年3月、当時野党・自民党の議員であった菅氏は政治家の覚悟 官僚を動かせ(文藝春秋企画出版)という本を出版した。版元が文藝春秋社でなく企画出版ということは、自費出版か、それに近い形態だったのだろうか。

この年の暮れに自民党が政権を奪回し、第二次安倍内閣の登場となるのだが、同書には、東日本大震災に際して、当時の民主党政権が対応にかかわる議事録を残していなかったことを痛烈に批判する一文が載っていた。いわく、

「議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」(各紙電子版などによる)

▲写真 『政治家の覚悟』菅義偉著(文春新書)。公文書管理の重要性を訴える部分が削除されていた。 出典:アマゾン・ジャパン

ところが、10月21日に発売された文春新書版では、このくだりを含む章などが削除されていた。

誰もが知る通り、菅首相は安倍内閣の官房長官を長く務めた人で、PKO(国際平和維持活動)に参加した自衛隊の日報問題にはじまり、世にいう「モリ・カケ・桜問題」すなわち森友学園、加計学園をめぐる疑惑や「桜を見る会」に関わる文書について「作成を怠った」どころか、数々の改竄・隠蔽疑惑でやり玉に挙げられた。

朝日新聞の記者が、会見の際にこのくだりを読み上げ、

「この文章を書いた政治家はどなたか、ご存じでしょうね」

とツッコミを入れたところ、

「知りません」

と答えたことまである。

冒頭『笑点』を引き合いに出したのは、実は話がここにつながってくるのだ。ネタだとすれば座布団一枚、差し上げたくなる笑。

真面目な話、こういうことをされると、菅内閣が掲げる「省庁の縦割り打破、ハンコ廃止」にしても、その心は文書作成の責任の所在を隠すためではないのか、などとつい思ってしまうのは、私だけだろうか。

文春新書の編集部はと言うと、あくまでも編集上の都合で

「なんらかの意図に基づく改変などではない」

などとコメントしている。首相となった菅氏のインタビューを新たに収録したため、

「バランスを考えて割愛した」

ということのようだ。

最初にこの報道に接した時点では、私は、個人的な感想ながら《文藝春秋社までが、なにをしてくれてんだ》などと思った。

いささか古い話になって恐縮だが、1995年に当時の中央公論社から『英国101話』という本を出していただいた。そして1999年、同書が中公文庫に所収していただけることとなったのだが、その過程で1章丸ごとの改変を要求された。

タイトルの通り、見開き2頁で1章という構成で、様々な角度から英国事情を紹介したものだが、日英の新聞事情について述べた章がある。その「つかみ」が、読売新聞の勧誘を追い返した話で、

「私は、私の目ではなく、Jリーグの運営にまで口を出す『例の社長』の目が黒いうちは、読売新聞は購読しない」(肩書は当時のもの)

などと書いたのである。

なぜそれが引っ掛かったのかと言うと、この年、中央公論社は読売新聞社の傘下に入り。中央公論新社として再スタートすることなっていたからだ。早い話が「忖度」であった。

結局私は、新社に自身の版権を譲渡することを拒否するという決断を下さざるを得なくなったのである。この顛末は、その後の騒動も含めて『英国101話プラスα』(電子版アドレナライズ)であらためて述べさせていただいたので、御用とお急ぎでなければご参照いただきたい。

話を戻して、こうした経験をしているだけに、文芸春秋社までもが「忖度」したかと、つい思ってしまったわけだ。『週刊文春』誌上では、文書の隠蔽や改竄の問題を厳しく追及しているくせに……というように。

しかし、続報が次々と入る過程で、考え直さざるを得なくなった。

《さすが文春はん、商売上手でんなあ》

などと思えてしまったのだ。カネが絡んだ話題では、つい関西弁もどきになる笑。

実際、この問題をマスコミが大きく取り上げたことで、新書版が大いに注目されることとなり、2012年に出た単行本までが大いに売れ始めたという。試しにAmazonで検索したところ、1冊19,500円からというプレミアがついていた。めでたくコレクターズ・アイテムとなったらしい。

ただしこれは、文春に座布団一枚、では済まされない。本当は笑いごとでないのだ。

ネットには浮かれ者が多いので、朝日・毎日(彼らの言う左翼マスコミ?)がネガティブ・キャンペーンを張ったせいで、かえって本が売れた、などと書き立てる者までいた。

素人の言うことに立腹するのも大人げない気はするが、こういうことを許しておくと、いずれは公的な歴史までもが、時の為政者の都合の良いように改竄され、国民が洗脳されてしまう危険があることまで、考えが及ばないのだろう。

加藤官房長官は、個人の著作だから、で済ませてしまったようだが、これもおかしな話だ。著者は現職の首相という公人中の公人であり、ネットのタワゴトと違って、一流出版社の刊行物とは、それ自体が社会的な存在なのだ。もちろん説明責任は、官房長官ではなく著者たる菅首相自身にあるが。

次回は、日本学術会議の問題で露呈した、政権の驕りについて取り上げる。

(続く。再論・「正義」の危うさについて その1その2その3

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