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仏、「冒涜する自由」で炎上

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仏、マクロン大統領 出典:flickr Jacques Paquier

Ulala(ライター・ブロガー)

【まとめ】

・マクロン氏、表現の自由を擁護し「冒涜する権利がある」と発言。

・イスラム諸国で反フランスデモが激化。

・「表現の自由」を巡り、仏国民とムスリムの歩み寄りが必要。

新型コロナウイルスの新規患者が急増し、フランスは2度目となるロックダウン(都市封鎖)に入った。しかしながら、コロナの感染拡大も心配ではあるが、それよりも、今、一番気がかりなのが頻発するローンウルフ(一匹オオカミ)型テロだ。

パリ近郊でおきた、中学の歴史教師サミュエル・パティさん(47歳)が首を切断されて殺害された事件(参考記事:仏、18歳が中学教師の首切断)を皮切りに、ニース、アヴィニョン、リヨン、パリ15区で未遂も含む、5件の攻撃が発生している。

それらの攻撃は、「表現の自由」を擁護するフランス政府とイスラム教徒との深い溝が原因の一つになっているのはもちろんだが、さらに、ニースの事件直後に発したマクロン大統領の「フランスにおける自由には、信仰を持つ・持たないという自由も含まれる。しかし、これを冒涜的発言の権利を含む自由と区別することはできない」という発言が、イスラム諸国からの反発を過激化させた。

■ フランスとイスラム諸国のすれ違い

フランスでは、革命時に検閲など言論統制なく、自由な意見表明活動をおこなえる権利を勝ち取った。それ以来、「表現の自由」をフランス共和国の根幹としており、民主主義では当然のこととしてきたのだ。そのため、表現の自由を否定し、テロという野蛮な行為で報復することを断固として許すわけにはいかない。

しかし、イスラム諸国からしてみれば、反発しているのは表現の自由にと言うよりも、自分たちが大切に思っている信仰の対象を「侮辱」したことに怒りを募らしている。信仰の対象を侮辱することは、それを信仰する人々を侮辱することであり、人間の良識としてはおかしいだろということなのだ。

だがそれなのにもかかわらず、そこにマクロン大統領が表現の自由を擁護するために発せられた言葉が、「冒涜する権利がある」というものだから、「侮辱する権利がある」と言っていると受け止められて、フランスにさらに怒りを爆発させる人がでてくるのも当然のことだろう。

■ フランス革命後に制定された法律

フランスでは、「表現の自由」自体は1789年に出された人権宣言11条によって保障されている。

「第11条(表現の自由) 思想および意見の自由な伝達は、人の最も貴重な権利の一つである。したがって、すべての市民は、法律によって定められた場合にその自由の濫用について責任を負うほかは、自由に、話し、書き、印刷することができる。」

しかし、人権宣言で定められたのはそれだけではない。人権宣言では「宗教を冒涜する自由」も認められたのだ。

「第10条(意見の自由) 何人も、その意見の表明が法律によって定められた公の株序を乱さない限り、たとえ宗教上のものであっても、その意見について不安を持たないようにされなければならない。」

それまでは、フランスの大きな宗教であったカトリックを冒涜することは、監獄に入れられるか、死刑がまっていた。しかし、革命により、「宗教の冒涜は死に値しない」権利を勝ち取ったのだ。この結果、宗教への冒涜の罪で処刑されたのは、1766年が最後になった。

しかしその後、ナポレオン時代から検閲が再開し、王政復古の時代の1830年には出版の自由が停止されることになる歴史を乗り越え、一度廃止された「宗教を冒涜する自由」が復活して、ようやく第三共和制下の1881年に「出版は自由である」と定める法律が成立した。

これらの法律は、今も有効である。しかし、ここで間違ってはいけないのは、冒涜してもいいのは宗教や神であって、人や団体ではない。人や団体を冒涜した場合は侮辱罪になることが同時に定められた。

フランスでは、このような「表現の自由」、「出版の自由」、および「宗教冒涜の自由」を表現する方法の一つとして、風刺画が使われてきたのだ。そしてその文化は現在まで受け継がれている。

■ 「表現の自由」に対する問題が激化したきっかけ

しかしながら、風刺は常に行われてきたが、現在のような大きな問題になることはなかった。どの時点が大きな問題になるきっかけだったのだろうか。過去をふりかえってみると、2006年にシャルリー・エブドがデンマークの新聞に掲載された預言者ムハンマドの風刺画12点を転載するとともに、表紙にオリジナルの風刺画を載せたことが全ての発端になっているのが見えてくる。

そして、その元になったのはデンマークだった。2005年9月30日、デンマークの有力紙ユランスポステンが,週末版の文化面にムハンマドの風刺画12枚を掲載したのだ。

▲写真 ユランスポステンの看板 出典:tsca

この風刺画を載せたユランスポステン紙の当時のフレミング・ローズ文化部長は次のように説明する。

「宗教をことさら嘲笑すべきではないが,民主主義,表現の自由のもとでは,からかいやあざけりなどを受容することが必要だ。しかし一部のイスラム教徒は,近代社会,世俗社会(のこうした考え)を受け入れず,特別扱いを求めている。このため,われわれはイスラムについて自主規制という危険で際限のない坂をのぼることになった。そこで今回,デンマークの風刺画作家組合のメンバーに,彼らが考えるムハンマドを描いてくれるように依頼した…」(参考記事:ムハンマド風刺画の新聞掲載 イスラム世界に反発と混乱 | 調査・研究結果 – 放送研究と調査(月報)メディアフォーカス

それでもここに掲載された風刺画自体は、ある意味控え目で伝統的な風刺画であった。詳しく事情を知らなければ特に目をひくものでもない。イスラムに関係しない人々にはまったく問題がない風刺画であろう。しかし、イスラム教徒にとっては違った。ムハンマドの姿を視覚的に描写しないのが当然であるから、ムハンマドが描かれている自体が侮辱に相当したのである。

その上、点火された爆弾をターバンのように頭にのせた風刺画は,イスラム教徒をテロリストに結びつける偏見だと反発がでたのにもかかわらず、事はデンマークだけでは終わらなかった。ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、スイス、チェコが次々と掲載。そしてフランスではシャルリー・エブドが掲載したのだ。イスラム教徒反発は反発し、抗議はヨーロッパから中東、アジアへと拡大し、各国で大使館が襲われた。

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