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過労死等防止対策白書で浮き彫りになる日本のメンタルヘルス環境 上司への相談、産業医のシステムに課題も?

政府が30日に公表した2020年版の「過労死等防止対策白書」で、日本の労働実態が改めて浮き彫りになった。

 今回の白書では、2015年4月からの2年間で過労自殺した167人を分析。その結果、半数がうつ病などの精神障害を発症してから29日以内に自殺していることが判明。さらに、6割の人が医療機関の受診歴がなかったという。

・【映像】相談遅れや診断遅れが起きるワケ 産業医と考える"命の守り方"

 また、「仕事上のストレスを相談できる人がいる」と答えた人は92.8%である一方、相談相手は「家族・友人」が79.6%、「上司・同僚」が77.5%となっており、「産業医」(8.8%)、「主治医など」(5.6%)が意外にも少ないことが分かる。

 30日の『ABEMA Prime』では、産業医として、のべ3万人の会社員を診察してきた大室正志医師に話を聞いた。

■「身近な人でも外部でも、気軽に相談できる存在を」

 過労自殺の半数が精神疾患の発症から29日以内に発生しているという、衝撃をもって受け止められているデータについて大室医師は、「残念ながら6割の人が受診していなかったということもポイントだ。普通であれば“辞めた方がましだ”と考えるはずだが、長時間労働が長く続くと視野が狭くなってしまう。

そういう時に“少しおかしいよ”と周囲が教えてあげれば気づくこともできるが、不運にもそういう人がいなかったパターンが多いのではないか。また、医療機関での初診から29日以内にということだとすれば、相談した瞬間には遅れていたということだと思う。“明らかにおかしい”と感じた周囲の人が受診を勧めたり、連れて行ったりしたという可能性が高い」との見方を示す。

 「相談相手は医師だけでなく、カウンセラーでも、友達・上司などでもいい。相談できた人の場合、自殺率は下がる。不幸にも自殺してしまった人は、おそらくそれらが無かったということだと思う。ただし、気分転換でなんとかなるケースと、本当に医療対応が必要になってくるようなケースを見極めることは必要だ。飲みやゴルフに誘ったりするくらいしか“球種”が無い上司も中にはいる。

これからは上司の“一般教養”として、医療対応を勧めるということも自分の“フォルダ”に入れておいてほしい。うつや自殺とハラスメントは不可分になってきていて、大企業ではeラーニングなどを導入して改善もされているが、セクハラに関しても多くの人が“腹落ち”するのに10年くらいかかった。まだ過渡期だなという感じを受けている」。

 ただ、その管理職が自殺に追い込まれるケースも少なくない。

 大室医師は「日本の場合、7割くらい男性が自殺率は高く、やはり相談できない、人に弱みをみせてはいけないという立場の管理職にしわ寄せがいっていると思う。日本の場合は友人や同僚に愚痴をこぼすが、もう少し外部の人に相談してもいいと思う。アメリカの映画などで“カウンセラーに行ってみたら?”とシーンを見かけるが、海外ではそのくらいカジュアルになものになっている」と訴える。

 「自分で気づくサインでいうと、お腹が痛い、頭が痛いといった体の不調から始まる。会社員は年平均で2日くらいしか体調不良にならないが、月に一度、何かしら起きるというような時には、もしかしたら、ということになるかもしれない。また、うつは“脳のCPU低下”をもたらすため、仕事がうまくいかなくなる。例えば今まで1時間でできていたものが1時間半かかるようになった、というようなことに気づいてもらえればいい。ただ、精神科はカウンター6席の人気の寿司屋みたいなもので、常に常連で回っていて、初診の予約が本当に取れない状況にある」。

■企業内の「産業医」は役に立っているのか?

 そこで身近な相談窓口になりうるのが、大室医師のような産業医の存在だ。しかし、『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「50人以上の従業員がいる企業は産業医を置くことになっているが、企業に雇われている以上、“労働基準監督所に行ったほうが良いですよ”とか“診断書書くから休んじゃいましょうよ”とか、従業員に寄り添う形のアドバイスはしてくれないのではないか」と疑問を呈する。

 大室医師は「1000人を超える事業所は専属で付けないといけないことになっているので、大企業には社員や契約社員、あるいは業務委託扱いで産業医がいるし、健康管理室に保健師がいることもある。一方、50人以上の企業の場合は顧問契約なので、弁護士や税理士のように、複数の企業を担当しているケースが多いし、従業員が50人未満の場合、いない方が多い。

また、そもそも日本の産業医制度は、戦争で負けて帰ってきた軍医が似たような職場はないか、ということで炭鉱や工場に雇われたことに端を発しているといわれている。軍医というのは、その兵士が戦えるかどうかを診る。産業医も同様で、病気が治っているかというよりも、働けるかどうかを診るというのが基本的な考え方。糖尿病でもメンタルでも、治っていなくても薬を飲みながらであれば働けるから大丈夫、ということになる。例えば車の運転は視力0.7以上が必要だが、視力0.04の僕も眼鏡をかければ1.2なのでOKということと同じだ」と説明。

 その上で「確かに企業からお金をもらっているが、法律上、従業員と会社の双方に中立であれと定められているし、自分の意見を曲げてまで会社に寄り添うほどの額をもらっているわけでもない。医師免許を持ち、レピュテーションリスクもある中、そんなにあこぎなことはしないのが実際のところだ。産業医には『意見書』という形で企業に是正を勧告できる権利もある。それでも、いくら言っても聞いてくれなかいこともある。僕も“工期が迫っている”という理由で意見を聞いてくれず、歯がゆい思いをしたことはある」と明かした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

▶映像:相談遅れや診断遅れが起きるワケ 産業医と考える"命の守り方"

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