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「会議でこんなこと言ってないのに」別人が演技して捏造…分析官が聞いた“驚くべき音声たち” 日本音響研究所・鈴木創氏インタビュー #3 - 平田 裕介

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黒塗りの車がグルグル、国会議員が「数億円渡すから」と…一家が「命の危険」を感じた事件の顛末 から続く

 フィリピンのアキノ氏暗殺事件(83年)、グリコ・森永事件(84~85年)、日航ジャンボ機墜落事故(85年)などの音声分析・声紋鑑定を務めた鈴木松美氏(79)を父に持つ、日本音響研究所の所長・鈴木創氏(49)。

 2012年に引退した松美氏の後を継いで所長となった創氏に、父や仕事に対する想い、音声分析・声紋鑑定が刑事事件、民事事件でどのように活用されているのかなどを語ってもらった。(全3回の3回目。#1#2を読む)

聴覚にも「ゲシュタルト崩壊」のようなものがある

ーー自分の父親が、音声分析や声紋鑑定といった特殊な仕事をしていると意識したのは何歳くらいからでしょう。

鈴木 小学校の高学年あたりですかね。大きい事件が起きるたびに、マスコミの方々や警察の方がうちにやってくるので、普通の仕事ではないんだなとは感じていました。また、音の仕事をしていることもあってか、家にはハイエンドなステレオ・セットが置いてありました。それを使って小さい頃から音楽を聴いていたので、そういった面からも我が家が音にまつわることをやっているんだなとぼんやり認識していました。

ーーお父様は徹夜で仕事されることがあったとお話しされていましたが、あまりオンとオフの切り替えはされなかったほうでしたか。

鈴木 オンとオフははっきりさせていましたね。私もそうなのですが、仕事に集中しすぎると耳が麻痺するような感じになる。階段を降りていくと急につまずきそうになるゲシュタルト崩壊みたいなものが、聴覚にも生じるんですね。

 何回も同じ箇所を聞いていると、違うものに聞こえてきたりする。でも、一度リセット、リフレッシュして聞き直すと、また新鮮な感覚で聞けるんですよ。だから、研究所から一旦離れてテレビを観に家のほうに戻ってきたりしていたので、常に仕事という雰囲気ではなかった。

 また、この仕事はこちらから営業をかけて取れる仕事ではなく、必要とされた時に取り掛かる仕事なので、忙しい時とそうでない時の差がわりと激しくて。自由にできる時間も結構あったので、子供の頃はいろんなところに連れていってくれましたね。

父にどう近づけるのかは常に考えています

ーー自然と父親と同じ職業に就こうという気持ちになられたのですか?

鈴木 家にあったステレオで音楽を聴いているうちに音楽が大好きになって、音というもの自体に興味を抱くようになったんですね。そうこうしているうちに父から頼まれて、高校時代からテレビのバラエティの検証企画に使われる6mmテープの編集などをしていましたね。

 大学もとりあえず応用物理学を専攻したので、ゆくゆくは手伝うことになるのかなとは思っていましたが、キヤノンの就職試験を受けて内定をもらったんですね。1993年だったかな。で、内定式にも出ていたんですけど、その頃に音声分析をめぐる環境が急速にデジタル化したんですよ。

 私は卒論もコンピュータを使って書いていたけど、父はずっとアナログ。それで研究所のデジタル化を助けてくれと言われて、キヤノンをお断りして研究所に入ったという流れ。タイミング的に、コンピュータが急激に発展し普及したのが大きいですね。

ーーそれから27年が経過していますが、その間に“父親の壁”みたいなものにぶつかったことは? また、それを乗り越えられたと思えたのはいつのことでしょう。

鈴木 強いて言うならば、壁は父のネームヴァリューですかね。いつまで経っても音声分析といえば鈴木松美という認識が皆さんにあるので、そこにどう近づけるのかは常に考えていますけど。

 壁を乗り越えるというわけではないんですけど、近いような出来事は研究所に入って早々にありましたね。甲府信金OL誘拐殺人事件(93年)の脅迫電話の音声データをコンピュータで一気に分析してみせたら、「これは凄いぞ。今後はデジタルだな。おまえ、これでやっていけ」と言われて、この仕事を続けていこうと強く思いました。

別人が演技して存在しなかった会話を捏造していたことも

ーー大きなものではない刑事事件や民事事件でも音声の分析と声紋鑑定をなされているとのことですが、刑事事件になると年に何件ぐらい依頼が来るのですか。

鈴木 平均したことはないですが、刑事事件は年に10件程度。民事のほうが数は上です。持ち込まれた音声を分析して裁判の証拠として出すわけですが、裁判を起こした方からの依頼が多い。

 ノイズを取って明瞭にしてほしいというものもありますが、この時の会議で私はそんなことを言っていないのに、他の日の発言を入れた改竄がなされているのでそれを証明して欲しいという“言った言わない”をめぐる案件が目立ちます。この日の会議で絶対に言った言葉が入っていないと訴えてきた場合は、削除された形跡を探すんです。

 ひどい場合だと、まったくの別人が演技して存在しなかった会話を捏造していたこともあります。「私、そんなこと言ってない」と言われて持ち込まれた音源で声紋鑑定したら、別人だと判明しました。

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