記事
  • WEDGE Infinity

どちらが大統領になっても日本に求められる3つの視点 トランプvsバイデン 戦の後にすべきこと - 秋元諭宏 (笹川平和財団米国会長兼理事長)

1/2

トランプ大統領とバイデン候補は、政策的には両極に位置する水と油だ。政治、経済、社会、文化の全ての面で対立し、共通点は全くと言ってなさそうに見える。


4年前にニューヨークで開催された「Japan Day」のようす。多くの日米の若者が積極的に相互の文化を理解し、交流することで、関係もより深まっていく (PACIFIC PRESS/GETTYIMAGES)

ところが両候補には共通点がある。共に「国内問題最優先」の姿勢を示している点だ。米国内の保守とリベラルの決定的な対立、経済的格差の拡大、トランプ氏による国民の分断に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大、経済活動の停止と雇用の喪失、黒人に対する人種差別を巡る混乱などが理由だ。さらには、トランプ氏の新型コロナ感染、大統領選の結果を巡る混乱、あるいは結果さえ通常の大統領選のようには明らかにならず、混迷が深まる可能性さえある。

米国が今世紀前半に直面する、最大の課題は中国だ。ブッシュ政権ではゼーリック元国務副長官が中国に対して「責任あるステークホルダー論」を唱えた。オバマ政権ではスタインバーグ元国務副長官が中国に対して「戦略的再保証論」を唱えた。両者に共通するのは、中国が外交、安全保障、経済などで国際的に受け入れられた規範に基づいて行動していないという、中国の基本的な姿勢に対する疑念だ。

しかし、中国には米国の経済的パートナーという面もあり、安全保障面では軍事力増強や領土拡張で緊張が高まるが、冷戦期の旧ソ連のように全面的な対決姿勢にはならない。このため米国は中国に対する国家として一貫した大戦略を構築するに至っていない。バイデン陣営の外交顧問たちも対中政策について侃々諤々の議論を行っている最中と伝え聞く。

両国の絆を支えるのは

企業人・若者の日米交流

このような状況の下、日本はどのような役割を果たすべきか。そもそも日本にとり中国は永久に離れることができない隣国である。同時に、日本にとり中国は最大の脅威であり、機会でもある。中国は14億人規模の巨大な市場であり、文化的親和性があり、生産性を有する労働者もいる。加えて、気候変動、環境、海洋資源など本来は共通の課題がある。また、北朝鮮問題など外交的な連携が望ましい課題もある。

強大な中国との関係を安定させ、アジア太平洋地域の平和と国際秩序を維持し、日本の国益を増進させるためには、日本と歩調を合わせた形で米国をいかにこの地域に関与させていくかが、重要な政策課題だ。そのためには、次の三つの視点が重要になる。

第一は、米国の国際関与、特にアジア太平洋への関与を継続するよう働きかけることだ。歴史の必然として、進行するグローバル化に背を向けることは、米国が国際社会の規範や制度の構築に参画しないことを意味し、米国の国際社会における影響力や国益を失うことに直結する。

中でも、世界の経済成長の原動力であるアジア太平洋地域への関与を低減させることは、中国が地域の覇権国として君臨し、米国の戦略に決定的に重要な地域における国益を排除することに繋がりかねない。こうした点をワシントンの政治・政策コミュニティだけでなく、米国各地の有権者に継続的に説明し、米国が孤立主義の誘惑に負けないようにする。さらに、日米との同盟関係が米国を利する安全保障の枠組みであり、両国の国益に資する制度的資産であることも併せて伝えていく。

第二は、米国がリベラルな国際秩序の重要性を訴え続けるよう働きかけることだ。米国が国際社会やアジア太平洋地域に関与するにあたり、自由で開かれた国際秩序が重要である。経済力と軍事力を背景としたハードパワーに頼り、自国の国益を追求するだけならば、米国も中国と同様、強引な「力の国」になるだけだ。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が唱えたように、米国の国際社会における存在意義は、一人一人の自由と幸福を求める権利を擁護する、全人類に共通の価値観である「ソフトパワー」にある。

冷戦時代を通じて米国が国内外で困難や矛盾に直面しながらも、国際社会の基本的な支持を得て世界の指導的役割を果たしてきたのも、価値外交が背景にあったからに他ならない。民主主義、自由、市場経済、法治、透明性などの価値は、米国の建国の理念に深く刻まれており、米国が「丘の上の輝く町」であるという神話にも合致し、本来的には米国人の琴線に響くものだ。

第三は、日米間の人的交流の多極化と重層化を促進するよう働きかけることだ。日米はアジア太平洋地域を中心とした安全保障や経済を中心とした国益、リベラルな国際秩序の基盤となる価値など、共通の国益を有している。こうした日米関係を下支えするのは、両国間に築かれた、信頼と尊敬に満ちた人的関係である。

しかし、日米間の大学生・大学院生の留学はピーク時の半数近い低位に定着し、日本政府・企業のプロフェッショナルスクール派遣は減少、グローバル化に伴い政府・企業が米国以外の多方面へ展開するなど、日米間の人的ネットワークの交流は日米関係の重要性に鑑みて十分とは言えない。次世代、次々世代の日米間の人的交流の厚みを増すことは急務だ。

なお、米国では約500万人の中国系を筆頭に、インド系、ベトナム系、韓国系など、アジア系米国人の人口が急増しており、約150万人の日系人は政治的発言力が限定されている(下図)。今年4月には日米関係の深化に日系人の立場から尽くし日系人のリーダーの一人であったアイリーン・ヒラノ氏(故ダニエル・イノウエ上院議員夫人)が死去した。米国ではエスニックも政治に影響力があるので、日系人との関係構築も大切だ。


あわせて読みたい

「菅義偉」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    竹中平蔵氏は教え子が引退勧めよ

    田中俊英

  2. 2

    中国に反論せず 茂木外相の失態

    WEDGE Infinity

  3. 3

    バラマキ予算作成が最優先の怪

    鈴木しんじ

  4. 4

    セルフレジが「改悪」になるお店

    内藤忍

  5. 5

    歴史に残る読売の安倍氏スクープ

    文春オンライン

  6. 6

    眞子さま結婚に浮かぶ若者の苦悩

    木村正人

  7. 7

    感染増の地域 知事がTV映え優先

    山内康一

  8. 8

    大塚久美子氏が辞任 戦略に矛盾

    東京商工リサーチ(TSR)

  9. 9

    文在寅氏が恐れる致命的な事件

    高英起

  10. 10

    専門家の給与 世界基準に上げよ

    ヒロ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。