記事

ドスのきいた「倒すぞ、制圧!」の声…入管収容者が受ける“暴力”の実態に迫る 『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』より #1 - 平野 雄吾

 医師の診察を受けられずカメルーン人の男性が死亡。インド人男性が首にタオルを巻き自殺。ハンストによりナイジェリア人男性が死亡……公式ホームページによると“日本の安全と国民生活を守りつつ国際交流の円滑な発展に貢献”する国家組織「入国管理局」の収容施設でいったい何が起こっているのか。

 共同通信記者の平野雄吾氏による『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』から入管施設に収容された非正規滞在者の声を引用し、紹介する。

◇◇◇

自傷行為・自殺未遂が相次ぐ入国管理センター

 東京五輪や外国人労働者の受け入れ拡大に合わせ、政府が在留資格のない外国人(非正規滞在者)の取り締まりを強化している。不法在留や不法入国、不法上陸、あるいは刑罰法令違反を理由に強制退去の対象となった外国人を次々と入管施設に収容、拘束期間が長期化している。全収容者数の半数超に当たる680人超が半年を超える長期収容となった(2019年6月時点)。3年、4年と収容されている外国人も多く、中には、拘束期間が約8年間に及ぶイラン人もいる。無期限の収容制度には、国際社会から相次いで懸念が表明されるほか、国内の人権団体からも批判が高まる。出口の見えない収容で精神を病む外国人も多く、2018年4月にはインド人男性が東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で自殺、そのほか自傷行為や自殺未遂が相次ぐなど絶望感が広がっている。


最多の収容数を誇る東京出入国在留管理局(2020年6月、東京都港区)©平野雄吾

入管施設内の過酷な環境

 絶望感に拍車を掛けるのが入管施設内での処遇である。入管当局が積極的には広報しないため、多くの国民はその実態を知らない。暴行、隔離、監禁、医療放置……。収容を経験した外国人や入管当局作成の内部文書を基に、取材を進めると、肉体的、精神的に外国人を追い込む入管施設の実情が浮かぶ。外国人支援団体や弁護士からは「命や人権を軽視している」との非難が絶えないが、入管当局は「適切に対応している」との説明に終始する。

 この章では、実際に入管施設内で発生した「事件」を検討しながら、何が起きているのかを見ていく。在留資格がなく、脆弱な立場に置かれた外国人を前に現れる権力の姿がここにはある。法務省の内部部局だった入国管理局は2019年4月、出入国在留管理庁(入管庁)へ格上げされた。巨大化する国家組織が社会から隔絶された密室で繰り広げる様々な「事件」はこの国の深層を映し出している。

「制圧」という名の暴力

「倒すぞ、制圧、制圧」「はい、決めるぞ」。2018年10月9日、強制退去の対象となった外国人を収容する東京入国管理局(現東京出入国在留管理局、東京都港区)。ブラジル人アンドレ・クスノキ(32)の居室に鈍い叫び声が響いた。6人の入管職員がクスノキを抱え上げ畳の床に押し倒す。「暴れるんじゃねぇよ」「抵抗、するなー」。ドスのきいた職員の声に混じり、クスノキの声がかすかに漏れる。「痛え、腕痛い」。職員が後ろ手にクスノキに手錠を掛けた。

「腕が痛い、腕痛い……」

 東京入管職員は同年10月5 日、クスノキに収容場所を茨城県牛久市の東日本入国管理センターに移すと一方的に告げた。職員は4日後のこの日、早朝からクスノキの居室を訪れ移動の準備をするよう指示、クスノキが拒否し、居室内のトイレに長さ約1.6メートルの長机2台をバリケードのように縦に置いて立て籠もったため、実力行使に出たのだった。入管当局はこうした収容者の取り押さえを「制圧」と呼んでいる。

息ができないという訴えも無視される

 職員による制圧は続いた。手錠を掛けられ、身動きの取れなくなったクスノキを五人で抱え上げ、エレベーターに乗り別室へ連行する。うつぶせに倒し、背中や腕、足を押さえ込む。マットを敷いた床に顔面を押しつけ、全体重で頭を押さえつける。クスノキは思わずせき込んだ。「息ができない」。クスノキの訴えもむなしく、一人の職員は「息できてるから」と一蹴した。

「きょう、茨城の入管に行くから」。取り押さえには直接加担していない別の職員が中腰の姿勢で視線を落とし、クスノキに話し掛けた。

「なんでおれが行くんだよ」。頭を押さえつけられたクスノキが言い返す。

「うるさいぞ。静かにしろ」。クスノキを押さえつける職員が濁った太い声を出す。「こいつ、小学生みたいだな」。別の職員の嘲笑じみた声も漏れる。すでに手錠をされているクスノキへの締め上げはこの後、約10分間続いた。

「なんで行かなきゃ行けないんですか」。取り押さえが終わり、地面に座らせられると、クスノキは職員に尋ねた。

「こちらの事情、収容場所を変えるだけ」

「なんで移動なんですか」

「こっちの事情。誰がどうとかではなくて、それはもう決まったこと」

「おれの知り合いは全部東京にいるんだよ。茨城だと誰も面会に来られないんだよ、わかる?」

「それも踏まえて選定している」

自殺者の出ている入管に説明なく移送する

 クスノキのもう一つの懸念は東日本センターでこの年の4月にあったインド人男性の自殺だった。

「自殺もしているだろ、今年。ちゃんと答えてよ」。クスノキは立て続けに質した。

「それは今関係ない。あなたを茨城に移動する話。話はもう終わり」。職員にクスノキと話をする気はなかった。

「なんで答えない?」

「いまはそういう話をする場ではないから」

「自殺するところに行かせようとしているんだから、なんで「話をする場じゃない」となる?一人死んだだろう?なんでそういうところに行かせるんだ?」

「静かにしてください」。クスノキの問いかけに職員が向き合うことはない。制圧が終わると、職員はクスノキを護送車に乗せ、東日本センターへ連行した。

 東日本センターは茨城県牛久市久野町にある。クスノキの懸念どおり、東京から行くのはそう容易ではない。JR上野駅(東京都台東区)から常磐線で1時間、牛久駅で降車した後にバスに乗り30分。さらに10分程度歩くと、雑木林や畑に囲まれる一角に入管施設が目に入る。老朽化した横浜入国者収容所の機能が移る形で、1993年12月に開所した。現在の収容定員は700人。

制圧による怪我で満足に動かせなくなった左腕

 東日本センターに到着した翌日、肩の痛みを訴えたクスノキは庁内の医師の診察を受け、左腱板損傷と診断された。腱板は肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋肉で、その損傷は力士や野球選手らスポーツ選手に多く発生するけがだ。職員が無理やり後ろ手に手錠を掛けた際、クスノキの肩に相当強い力が加えられた可能性が窺える。十分なリハビリができる環境にはなく、クスノキは現在も左腕を自由に動かせない。

「制圧中、本当に息苦しくて死ぬかと思いました。自分はただ、なんで茨城に移動するのか、その理由が知りたかった。面会に来てくれる友達はみんな東京に住んでいます。入管にとってはどうでもいいことでしょうが、自分にとっては収容場所が東京か茨城かは大きな問題でした。茨城では自殺者もいて、恐怖心もありました。茨城に行く理由をきちんと説明してほしかった。「話をするまでは行きたくない」と職員に言いましたが、「説明の必要はない」の一点張りで、制圧です。こんなことまでする必要はあるのでしょうか」

 クスノキは2019年9月、面会に訪れた筆者を前に、唇をかんだ。

「庁内の診察で、医師は「外の病院に行くべきだ」と言いました。だから、その内容を診療情報提供書として書いてほしいと訴えましたが、同席した職員に「そういうことを要求してはいけない」とさえぎられたんです。今も左腕をうまく動かせません。誰かがリハビリの方法を教えてくれるわけでもありません。自分の身体が元に戻るかどうかわからないのが一番心配です」

 クスノキは2019年8月、「不必要な制圧で、違法な暴行だ」として、国に500万円の損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。

「お前らを追い出すために入管があるんだ」人間扱いされない“非正規滞在者”の悲痛な嘆き へ続く

(平野 雄吾)

あわせて読みたい

「外国人」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    「Mr.慶應」性犯罪で6度目の逮捕

    渡邉裕二

  2. 2

    昭和の悪習 忘年会が絶滅する日

    かさこ

  3. 3

    再び不倫 宮崎謙介元議員を直撃

    文春オンライン

  4. 4

    テレビ劣化させる正義クレーマー

    放送作家の徹夜は2日まで

  5. 5

    早慶はいずれ「慶應一人勝ち」に

    内藤忍

  6. 6

    医師が語る現状「医療崩壊ない」

    名月論

  7. 7

    公務員賞与0.05か月減に国民怒れ

    わたなべ美樹

  8. 8

    案里氏 法廷で昼ドラばりの証言

    文春オンライン

  9. 9

    GoTo自粛要請「後手後手の極み」

    大串博志

  10. 10

    ユニクロ+J高額転売でも売れる訳

    南充浩

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。