記事

「お前らを追い出すために入管があるんだ」人間扱いされない“非正規滞在者”の悲痛な嘆き 『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』より #2 - 平野 雄吾

ドスのきいた「倒すぞ、制圧!」の声…入管収容者が受ける“暴力”の実態に迫る から続く

 収容している人々が命を落としても、なぜそのような事態に陥ってしまったのかが詳細に説明されることはない。恣意的で不公平、不透明な決定がまかり通るともいえる苛烈な環境の「入管」に、現在もなお数多くの非正規滞在者がとどめられている。彼ら彼女らはどのような苦悩を抱え日々を過ごしているのか。

 共同通信記者の平野雄吾氏の著書『ルポ入管――絶望の外国人収容施設』から、巨大化する国家組織の知られざる実態を紹介する。

◇◇◇

問われているのは「体質」

 全国の入管施設で、職員の制圧による収容者の負傷が相次いでいる。クスノキ(編注:前編で取り上げた)の例に加え、東京入管で2017年5月、イラン人男性が首や足首を捻挫したほか、同じ東京入管ではトルコ出身のクルド人男性が2018年5月、首を負傷した。大阪入国管理局(現大阪出入国在留管理局、大阪市住之江区)では2017年7月、トルコ人男性が右腕を骨折したほか、同一二月にはペルー人男性が腕の骨にひびが入る重傷を負っている。また少し溯れば、西日本入国管理センター(大阪府茨木市、2015年に閉鎖)で2002年4月に中国人男性が肋骨を骨折した事案もある。

※写真はイメージです ©iStock.com

「権力を行使する者が収容者の人権に配慮する体制がきちんとできておらず、同じことが繰り返し行われている。今後、そういうことのないようにという思いも含めて提訴しました」

 大阪入管で骨折したトルコ人男性、ムラット・オルハン(34)は2018年5月、制圧は違法な暴行に当たるとして、国に約450万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。オルハンの代理人弁護士、空野佳弘が提訴後に開いた記者会見で問題提起したのは長年変わらない入管施設の体質だった。

「外国人は人間扱いされません」

 オルハンは2017年7月、少なくとも7人の職員に制圧され、右腕骨折の重傷を負った。大阪入管作成の内部文書によると、オルハンが睾丸の痛みを和らげる薬を飲んだ際、職員がその服用を確認しようとしたところ、オルハンが拒み本を投げつけたため別室へ連行、うつぶせに倒し手錠をかけた。オルハンが痛みを訴えたため外部の病院を受診、右上腕骨折と診断され、手術を受けた。

「うつぶせに倒され腕をひねられたとき、激しい痛みで動けなくなりました」。オルハンは大阪入管の面会室で2018年5月、筆者にそう証言した。

 本を投げつけた理由については、服用確認のときに職員の挑発があったと語った。

「いつもは「口を開けてください」と言うのに、この日は(大人が子どもに言うように)「あー」とかでした。ばかにした態度で、怒りが湧いたんです。手術後のリハビリも十分に受けさせてもらえず、まだ腕がうまく上がりません。ここでは、外国人は人間扱いされません」

まかり通る権力の濫用

 入管施設は法務省令「被収容者処遇規則」に基づき運営され、この規則は要件を定めた上で、職員による収容者への実力行使を認めている。規則第17条第2項は次のように定める。

「被収容者が遵守事項に違反する行為をし、又は違反する行為をしようとする場合には、その行為の中止を命じ、合理的に必要と判断される限度で、その行為を制止し、その他その行為を抑止するための措置をとることができる」

 遵守事項に違反するかどうかや合理的に必要な限度がどの程度なのかを判断をするのは入管職員である。大阪入管が制圧事案を自ら広報することはないため、その判断が妥当だったかどうかは裁判でも起こさない限り、誰も検証できない。空野と共にオルハンの代理人を務める弁護士の中井雅人は「骨折するまで腕をひねりあげるのは合理的な範囲を超え、違法な公権力の行使に当たります。オルハンさんは抵抗しておらず、制圧する必要もありません」と批判する。空野が言葉を継いだ。

「オルハンさんは中に小さな窓とトイレしかない隔離室に連れて行かれ、入管当局からすれば、ここに放り込むだけで自傷他害の防止という目的を達成できるのに、職員は足をかけてオルハンさんを倒した後、押さえ込んで手錠をかけています。権力の乱用であって、人権保障の考えは微塵もありません。制圧は収容者に言うことを聞かせるための脅しであり、制裁なんです」

 一方、国側は訴訟で、オルハンは興奮しており、暴れて職員を攻撃する可能性があったため、制圧は必要だったと主張している。「骨折の傷害を負ったことをもって合理的に必要と判断される限度の実力行使を超えると評価されるものではない」と付け加え、制圧行為の正当性を訴えている。

今に始まったわけではない収容者への実力行使

 職員による収容者への実力行使は、1990年代にも散発的に発生している。毎日新聞によれば、東京入管第二庁舎(東京都北区、2003年に閉鎖)で1993年5月、イラン人男性が職員から頭や顔、腕を殴られたり蹴られたりする暴行事件が発生、1994年11月には違反調査中の中国人女性が顔面を殴られ負傷している。現在は殴る蹴るといった暴力行為は鳴りをひそめたが、日常的に実践される多人数による取り押さえでも負傷事案は後を絶たない。命の危険を指摘する医療関係者もいる。入管施設での面会活動を続ける内科医の山村淳平は「首や胸を押さえつけ、喉の気管も狭くする制圧行為は、場合によっては窒息死を招く可能性があります」と危険性を訴える。

「大切なのは収容者との対話や説得であって、取り押さえるのは、入管当局が自らの説明能力の欠如をさらしているようなものです」

 入管職員には、収容者と向き合い丁寧な対話を重ねるという態度はほとんどみられない。入管施設では、一般職員が名前を明らかにすることはなく、名札の代わりに番号札を付け収容者に対応する。対等な人間関係はここにはなく、匿名性が無責任体質を生み出すとの批判もある。

「嫌がらせ」は日常茶飯事

 制圧という実力行使に至らないまでも、日常的な「嫌がらせ」は数多く伝えられる。東日本センターでは2011年8月、職員が中国人男性に「外国人をいじめるのが楽しい」と暴言を発したことが報じられた(同年10月13日共同通信配信)ほか、大村入国管理センター(長崎県大村市)は2017年10月、職員が中国人男性に対し「ボケ」「あほんだら」と発言、センターが規則違反行為として厳重注意処分をしていたことが内部文書で明らかになった。

 東日本センターに収容中、制圧を経験したトルコ出身のクルド人男性デニズ(40)は「ここが快適な場所だったら日本から出て行かないだろう。お前らを日本から追い出すためにここがあるんだ」と職員から言われたと証言する。収容者の対応に当たる入国警備官には服務心得がある。その第3条は「基本的人権を尊重し、個人の自由及び権利の干渉にわたる等その権能を濫用してはならない」(1981年改訂)と定めている。それがどの程度、徹底されているのかはこうした事例から判断できる。弁護士の中井雅人は言う。

処分されているのは氷山の一角

「暴言の話は収容者からよく聞き、処分されるのは氷山の一角に過ぎません。収容者の人権を尊重する研修を入管当局がしっかりと実施すべきです」

 制圧という名の暴力が相次ぐ背景には、無数の暴言があり、多くの場合それを容認してきた入管当局の姿勢がある。制圧の違法性を問うオルハンの訴訟で、代理人の空野佳弘や中井雅人が問いかけたのはそんな入管職員の気質と入管施設の体質でもある。

(編注:本訴訟について、大阪地裁で2020年9月29日、国側が謝罪し300万円を支払うことで和解が成立した)

(平野 雄吾)

あわせて読みたい

「入国審査」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    収監された周庭さん 12人部屋に

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    安倍氏に弁護士「虚構だった?」

    郷原信郎

  3. 3

    注文待つ「Uber地蔵」街中で急増

    NEWSポストセブン

  4. 4

    コロナで始まった凄いデリバリー

    東龍

  5. 5

    みのもんた パーキンソン病告白

    文春オンライン

  6. 6

    GoTo見直しで焦る日本の敗戦模様

    文春オンライン

  7. 7

    猫の目が…奇跡の失敗写真が話題

    BLOGOS しらべる部

  8. 8

    菅氏はカジノより介護を優先せよ

    毒蝮三太夫

  9. 9

    桜問題で安倍前首相に再び窮地

    ヒロ

  10. 10

    安倍前首相の疑惑「詰んでいる」

    ABEMA TIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。