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特集:ジョー・バイデン新政権を考えてみる

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いよいよ来週火曜日は米大統領選の投票日。データを見れば、民主党のバイデン元副大統領の優勢が鮮明ですが、4年前のことを考えると素直には受け止められません。そして土壇場のトランプ大統領は、「病み上がり」とは思えないほど猛烈な選挙運動を展開しています。おそらくは、簡単に「参った」と言ってくれる相手ではないのでしょう。しかるに投票日は5日後。ここはひとつバイデン新政権になる、と決め打ちして、人間ジョー・バイデン氏を取り上げてみたいと思います。本誌の見るところ、バイデン氏は「わらしべ長者」であり、「国対族」の政治家となります。また、連邦議会選挙も上院の逆転が十分にありそうなので、「トリプルブルー」になった場合の思考実験も加えておきましょう。

●「地殻変動」が起きている予感

10月25日(日)の午後8時。NHK総合の『麒麟が来る』の冒頭画面と重なって、「富山県知事選挙で新田八朗氏が当選確実」とテロップが流れた。まったく別の名前(現職の石井隆一知事)が出ると思っていたから、テレビの前で呆然としてしまった。県民の自民党員比率が日本一1で、山口県や和歌山県と並んでもっとも保守的と称されるわが富山県において、よもや現職知事が負けることがあろうとは。そしてNHKが当確を「ゼロ打ち」しただけあって、結果は6万票の大差であった。

なぜこれだけのサプライズが起きたかというと、答えはまことに簡単であった。「4年前の投票率は35.34%で、今回は60.67%だったから」である。投票率がいきなり25ポイントも上昇したら、それは民意に地殻変動が起きている証拠である。過去の常識は通用しないと考えるべきであろう。

いや、もちろん県知事選について語るのが本号の目的ではない。米大統領選挙において、同様の地殻変動が起きているかもしれないのだ。期日前投票が、10月29日時点で既に7500万票を超えている2。2016年選挙の総投票数が約1億3900万票なので、投票日の6日前に既にその半分以上の投票が行われたことになる。ちなみに前回の期日前投票数は、約5000万票(約36%)であった。

○2020 General Election Early Vote Statistics
Last updated: 10/29/2020 01:16AM Eastern Time

・Total Early Votes: 76,535,747(期日前投票)
・Mail Ballots: 50,727,926(郵便投票)
・In-Person Votes: 25,807,821(不在者投票)

実際にどんなことが起きているのか。今週の”The Economist”誌のコラム”The Blue Tsunami”は、激戦州のひとつノースカロライナ州における「期日前投票フィーバー」を伝えている(本号のp7参照)。2020年選挙はCovid-19の影響もあって、郵便投票の比率が高くなることは以前から予想されていた。しかし実際には、投票所に足を運んで投票している有権者もその半分程度いる。不在者投票のための要件が緩和された州が多いこともあるが、それだけ「両陣営が盛り上がっている」という見方もできる。

2020年選挙の投票率は、かなり高くなりそうだ。どちらが新しい票を掘り起こしているかと言えば、たぶんバイデン候補の方だろう。民主党側が、今まで一度も選挙に行ったことがないマイノリティや若者の票を、大規模に動員しているのではないだろうか。逆にトランプ支持層には、それほど「伸びしろ」がない。そしてご本人も、もっぱら従来からの支持者に向けてメッセージを発しているように見える。

だからと言って、大差で決着するとは限らないのが悩ましいところである。郵便投票の開票には時間がかかるので、結果が出るまでには数日を要するだろう。ただし激戦州のうち、フロリダ州、ノースカロライナ州、アリゾナ州の3州は、期日前に郵便投票の集計作業を行ってよいルールになっている。ゆえにこれら3州の結果は早いうちに出る。ここでバイデン候補の勝利が判明した場合、特に29人の選挙人を有するフロリダで勝った場合、トランプ大統領が「負けを認めない」で粘ることは一気に難しくなるだろう。

逆にこれら3州でトランプ氏が勝ち、もしくは形勢不明に持ち込んでいる場合、結果が出るのはかなり先のことになるだろう。米大統領選挙は、どちらかが「敗北宣言」をしてくれないことには、終わらない仕組みになっている。そして今年の選挙は、各地で訴訟や暴動が起きかねないような危うさをはらんでいる。投票日にあっさりバイデン勝利!となる可能性もあるのだが、泥沼の長期戦入りもあり得る、と心得ておく必要があるだろう。

●「バイデン=わらしべ長者」説

10月22日、第2回目のテレビ討論会で印象に残ったシーンがあった。トランプ大統領が「民主党は左傾化している。サンダースはこんなことを言ってるぞ」とけしかけたときに、バイデン氏がこんな風に言い返したのである。「あなたは誰の話をしているのか。あなたが戦っているのはこの私、ジョー・バイデンだ」。このフレーズは自分でもお気に召したようで、わざわざ終了後にこんなツィートを発している。
“He’s a confused guy. He doesn’t know who he’s running against. He’s running against Joe Biden.”
バイデン氏は、今までずっと「弱い候補者」であった。それがこんな風に大見得を切れるようになったのだからたいしたものである。おそらくバイデン陣営の選挙スタッフたちは、ここまで来られたことを奇跡のように感じているはずだ。何しろ1年前のバイデン氏はほとんど泡沫候補で、選挙資金の集まりも若い他候補のはるかに後塵を拝していた。ところが今年になってから、数々の幸運に恵まれるのである。以下、順に思い起こしてみよう。

(1)年初にペローシ下院議長がトランプ大統領を弾劾手続きにかけた。これで他の上院議員候補(サンダース、ウォーレン、クロブチャーなど)は弾劾裁判にかかりきりとなり、選挙活動を封じられてしまった。バイデン氏は完全にフリーであった。

(2)それなのに2月3日の緒戦アイオワ州党員集会において、バイデン氏は5位に終わった。この時点で普通は「足切り」となる。ところが選挙開票アプリに不具合があり、正確な結果が出なかった。その結果、彼の5位は「なかったこと」にされた。

(3)2月29日のサウスカロライナ州予備選挙の直前に、地元選出のクレイバーン下院議員がバイデン氏をエンドースしてくれた。それで一気に黒人票が集まり、初めてトップを取って、候補者としては奇跡的な復活を遂げた。

(4)そのすぐ後の3月3日はスーパーチューズデーだった。「左派のサンダース氏を勝たせちゃいけない」と、中道派のブティジェッジ市長とクロブチャー上院議員が立候補を取り下げ、バイデン支持に回ってくれた。まさに「棚からボタモチ」。

(5)その後はサンダース上院議員との一騎打ちが待っていた。2人で討論したら、悪いがバイデン氏に勝ち目はない。ところがここにコロナがやってくる。「人が大勢集まってはいけない」という状況下、遊説の機会は封じられてしまう。かくしてサンダース氏は選挙戦から撤退。民主党大統領候補は一本化された。

(6)さらに5月25日にはジェームズ・フロイド氏の死亡があり、「ブラック・ライブズ・マター」の抗議活動が追い風となる。自身はデラウェアの自宅地下室に籠っていただけなのに、トランプ大統領の拙い対応も手伝って、どんどん優勢になった。

(7)副大統領にカーマラ・ハリス上院議員を指名したところ、選挙資金の寄付が急に増える。8月、9月には資金量でトランプ陣営を逆転してしまう。

(8)加えて9月18日にRBGことギンズバーグ最高裁判事が死去。これでリベラル陣営の危機感が高まり、ますます選挙資金の集まりが良くなっている。

こうしてみると、まるで「わらしべ長者」である。個々の局面で恵まれただけではない。バイデン氏の基本戦略は「2020年は現職に対する信任投票」と割り切って、コロナ問題を最重要視することであった。ゆえに自身は外出を避け、ヴァーチャルの選挙戦術に徹した。逆にトランプ氏はリアルの選挙戦にこだわり、その過程で自らコロナに感染してしまう。

しかも投票日の直前になって、再び全米の感染者数が増加に転じている。期待の高いワクチン開発も、思うに任せないようである。これが逆であれば、「コロナはたいしたことない」というトランプ氏の言葉にむしろ説得力が生じるところであった。

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