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政府と日銀の共同文書はアコードなのか

 10月30日の日銀の追加緩和での最大のサプライズは、政府と日銀の共同文書であった。この共同文書作成への内幕に関して、11月1日付けの日経新聞に「幻に終わった政府提案 共同文書、日銀との攻防」との記事があり、これも参考に今回の共同文書の意味を考えてみたい。

 30日の総裁会見で、この共同文書がアコードであるかとの質問が記者からあり、それについて白川総裁は次のように答えている(日銀サイトの総裁会見要旨より)。

 「アコードの定義は定かではありませんが、いわゆるアコードとしてよく知られているのは、中央銀行の独立性に対する意識が高まる中、円滑な戦費調達のためにFRBが行ってきた国債金利上限維持政策の終了を宣言するため、1951年に米国財務省とFRBが公表した共同声明文です。要するに、FRBの独立性を回復した共同声明文がいわゆるアコードです。」

 これについてもう少し説明すると、第二次世界大戦後、国債の利払いコストを抑えさらに利上げによる国債価格の下落を回避しようとしたアメリカの財務省と、インフレ抑制のために金融引き締めを主張するFRBとの対立が激化した。このため1951年にトルーマン大統領の調停により、財務省とFRBとの間で「アコード」が成立し、国債管理政策と金融政策が「分離」され、これによって低金利政策は廃止され、FRBは政府からの「独立性」を強めたのである(拙著「マネーの歴史(世界史編)」より)。
「マネーの歴史(世界史編)」
キンドルストアー


 白川総裁のアコードに対する発言は、あくまで米国で歴史上行われたアコードと今回の共同文書は異なることを指摘している。ところが、前原経済財政相を含めて民主党の議員からは政府と日銀の「アコード」を求める声が以前から強かった。これは米国のアコードの意味合いではない。これについては日銀出身で民主党の大塚耕平議員が、マクロ経済運営で中央銀行当局と財政当局間で共通価値観、何らかのアコードはあり得ると述べており、「共通価値観」という意味合いでのアコードとして使ってきたようである。その意味では今回の共同文書は日本流のアコードと言っても良いものであろう。

 共同文書の内容そのものには目新しいものはない。これで何かしら日銀への拘束力が強まったわけでもない。しかし、証文ではないがこのような文書が日銀と政府の連名で出されたことには大きな意味がある。そのあたり、この文書を巡っての攻防が日経の記事に書かれており、それからもこの重要性が理解できる。

 記事には三者が合意に至るまで水面下では激しい綱引きが繰り広げられたとある。この三者とは共同文書に署名のあった前原経済財政相と白川総裁、そして城島光力財務相である。

 前原氏は「日銀の外債購入とアコードを実現するための検討」を職員に指示したが、外債購入は財務省の猛反対で早々に見送りが決まったとある。「城島財務相にしてみれば所管する外国為替特別会計の領空侵犯につながりかねない。」(日経新聞)。

 前原氏は、物価上昇率を前年比1%にする時期を明記した協定を目指したが、財務省はこれにも強く抵抗したとされる。結局時期は示さず「早期」という表現にぼかした(日経新聞)。

 消費増税へデフレ脱却を狙う「首相」は文書を了承し、政府は先週後半、白川総裁に提案した(日経新聞)。このあたり追加緩和の内容(10兆円の資産買入の増加額など)は事前に報じられていたものの、共同文書についてはまったく表に出なかったことも興味深い。そして白川総裁は1日悩み抜いた末、「『お互いの自主責任という形ならよい』と土俵に乗った」(日経新聞)。

 前原氏は、もし日銀が共同文書を受け入れなかった場合、決定会合で政府側から共同文書を作成する議案を提出することも検討していた(日経新聞)。そこまで準備していたのは驚きであった。政府は新日銀法で議決延期請求権とともに、議案を提出することが認められている。2000年8月の決定会合で、政府は議決延期請求権を行使したことはあるが、過去に独自の議案提出は例がない。

 30日に発表された共同文書は特に目新しい内容ではなく紙切れ一枚である。しかし、その紙切れが重要な意味を持ってくる。日銀はこれでデフレ脱却に向けた努力がさらに求められることになろう。その結果が数値として現れるまで、日銀は積極的に緩和策を講じなければならなくなる。今年に入り、日銀の金融政策は2月の物価の目途の設定などで大きく変わった。今回の共同文書も日銀の変化の現れと捉えておく必要があると思われる。今回の共同文書は明らかに政府と日銀の新たなアコードであろう。ただし、これがどのような結果を招くのかも、しっかり見守って行く必要がある。

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