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Too Little, Too Late, Again - 片岡剛士

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9月19日の『Real-Japan.org』(http://real-japan.org/2012/09/19/1035/)に、筆者は「Too Little, Too Late」と題した論考を寄稿した。これは9月18日・19日に開催された日銀政策決定会合の内容を踏まえてのものである。本題に入る前に少しこの話をさせていただきたい。この論考の内容をかいつまんで記すと次のようになる。

まず9月政策決定会合では、資産買入等の基金を70兆円から80兆円に10兆円増額することが決まった。これはFRBが決定したQE3を念頭に置けば、買い取り額のペース・規模は少なく(Too Little)、かつ、わが国の景況が急激に悪化する中で増額分は2013年に対応するものであって即事性を持たないという意味で遅すぎる(Too Late)。

持続的なデフレと円高を打破するには「当面1%の物価上昇率」という「目途」を、思い切って例えば3%に引き上げる。その上で、現行の資産買い取りの枠組みを維持しながら、別途、長期国債の買い取りを毎月5兆円のペースで、3%の物価上昇率が半年間持続するまで「無制限」に続ける。さらに、状況を見て不足であれば、米国債といった他の資産も含めて購入することを否定せず、法改正が必要であれば、政府との協力の上で果断に実行するといった思い切った政策も検討に値するのではないか。以上のように述べた。

そして10月に入り、ふたたび政策決定会合のタイミングが訪れた。10月4日・5日に開催された政策決定会合の結果は「現状維持」であり、10月30日に開催される政策決定会合で追加緩和が決定されるのではないかという期待が膨らんだ。10月30日には10兆円の追加緩和策が行われるのではないか、いや20兆円の追加緩和策が行われるのではないかといった観測記事が、早くも10月半ばにはまことしやかに掲載され、前原経済財政担当大臣が政策決定会合に出席するといった情報を交えながら、新聞の経済面を飾った。為替レートはジリジリと円安にふれていき、例えばドル/円レートは80円台をつける状況に至った。

こういった状況の中で、10月30日がやってきたわけである。さて同日新たに公表された展望レポートの見通しを睨みながら、会合の結果を一言でまとめるとすれば、筆者はふたたび「Too Little, Too Late」と言わざるをえない。

なぜか。以下では今回の政策決定会合における、資産買入等の基金の増額(2013年末の基金残高を80兆円程度から91兆円程度に11兆円程度増額)、貸出増加を支援するための資金供給の枠組みの創設、経済財政担当大臣・財務大臣・日銀総裁連名による「デフレ脱却に向けた取組について」の公表という三つの点を念頭に置きながら述べてみることにしたい。


■展望レポートの結果と基金増額の関係

今回の展望レポートでは、2014年時点の見通しが新たに公表された。図表1は展望レポートにおける物価上昇率の見通し(政策委員の見通しの中央値)を、2012年4月時点、同7月時点、同10月時点と並べた上で、ESPフォーキャスト調査における民間エコノミスト40名による経済予測の中央値(ただし2014年度の値は平均値)を参考値として付したものである。黒色の数値が展望レポートの値、赤色の数値がESPフォーキャスト調査の結果である。なお、2014年度に予定されている消費税増税の影響(2%の物価上昇率)を除いた数値を掲載している。


図表1 展望レポートにおける政策委員見通しの推移(物価上昇率)

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(資料)日銀展望レポート(4月、7月、10月)およびESPフォーキャスト調査(10月:回答期間9月25日~10月2日)より筆者作成。ESPフォーキャスト調査における2014年度の数値は中央値がないため、特別調査として行われた2014年度CPI上昇率予測の平均値から消費増税の影響分(2%)を差し引いた数値とした。


これを見ると明らかなのは、展望レポートの公表時期が推移するにつれて、物価上昇率の見通しは下方修正を続けているという事実である。

当面前年比1%の物価上昇率を「目途」として公表した2月14日から、2ヶ月後の4月時点の物価上昇率の見通しは、2012年度0.3%、2013年度は0.7%と、十分とはまったく言えないものの、2014年度以降の「目途」達成へ含みを持たせるものであった。

しかし、「目途」達成を目指して強力な金融緩和を推進していくとの白川総裁の言及とは裏腹に、その後の物価上昇率の展望は下方修正を続け、ついに10月展望では2012年度の物価上昇率の見通しはマイナスとなった。これは白川総裁在任中にはデフレ脱却が困難であることを示唆している。

そして、10月展望で新たに公表された2014年度の見通しでは、消費税増税の影響(物価上昇率2%)を除いた場合の物価上昇率は0.8%となり、2014年度においても当面前年比1%の物価上昇率を達成することが困難であることが明らかとなった。

ちなみに、10月展望における物価上昇率の見通し(2014年度0.8%)は、民間エコノミストの予測と比較すれば高めの水準であることにも留意すべきだろう。展望レポートに関しては、民間エコノミスト出身の木内・佐藤政策委員が、物価は「マクロ的な需給バランスの改善などを反映して、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014年度は(目標とする)1%に着実に近づいていく」との文言をめぐり異論を示したとのことだが、民間エコノミストの予測と比較しつつ検討すれば、木内・佐藤政策委員の主張の方が現状を正確に捉えているようにも思われる。

いずれにせよ、予想対象期間中には、「目途」達成の見込みはまったく立っていないということを、日銀は自ら明らかにしたということだ。

以上の展望レポートの内容を前提にして、今回の資産買入等の基金増額の意味を検討すると、次の点を指摘できる。

まず今回の増額幅は11兆円。内訳は長期国債5兆円、国庫短期証券5兆円、CP・社債・REIT等のその他資産の買取りが1兆円であり、11兆円の増額分は2013年以降に追加されるとのことである。ちなみに、9月政策決定会合で決定した基金の増額分は10兆円であり、これも2013年以降に追加される。

図表1では、7月展望から10月展望にかけて、物価上昇率の見通しが悪化していることが読み取れるが、日銀はこのような判断を下す中で、2012年12月末までの期間の基金増額は7月展望の公表以降一切行わず、2013年に基金増額を実行しようというのである。

たしかに、物価上昇率見通しの下方修正を見据えながら、2013年以降の基金増額で対処するという考え方もありえるのかもしれない。しかし、今回の資産買入等の基金増額を反映した上で、基金残高と前月比・前年比伸び率の推移をまとめた図表2を見ると、物価上昇率の見通しが下方修正されたにもかかわらず、前月比・前年比で見た資産買入等の基金の伸びは2012年末までの基金残高に変化がないことから、2012年10月以降低下すると考えられ、さらに2013年以降の伸びも低下していくことが予想される。

つまり、4月展望と比較した10月展望の物価上昇率の見通しが低下する一方で、基金増額のペースは落とすという、矛盾をはらんだ政策を行っていると考えられるのだ。


図表2 10月政策決定会合を踏まえた資産買入等の基金残高の推移(見通し)
 
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(注)2012年10月~11月、2013年1月~5月、7月~11月の値は2012年12月末65兆円、2013年6月末78兆円、2013年12月末91兆円を元に線形補完した値。
(資料)日銀統計および政策決定会合資料より筆者作成。



さらに指摘すれば、10月展望にて公表された、2014年度の物価上昇率の見通しに対応した基金買取り額の推移がどのようになるか、つまり「目途」未達状態での2014年度の政策運営は緩和なのかそうでないのかを、日銀は具体的なかたちで明らかにしていない。

総裁会見でも記者から質問があったが、白川総裁は物価安定の「目途」を達成すべく、金融緩和を続けることを明確に示しているという説明に終始した。こうした曖昧な説明は「目途」達成へのコミットメントへの信認を損ねる、もしくは市場との対話をより困難にしていると指摘されても仕方ないだろう。やはり今回も「Too Little, Too Late」と言わざるを得ないのである。

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