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仏メディアも「なぜもっと抗議しないの?」学術会議問題、菅首相が“逃げ切れる”理由 - 坂田 拓也

「手詰まりですね……」

 菅首相が日本学術会議の新会員候補6人を任命拒否した問題を取材している記者の1人は、こう漏らした。

 日本の科学者を代表する首相所轄の特別機関として設立され、210人の会員を中心に提言や答申を行っている日本学術会議。

 日本学術会議法の第3条で「独立して職務を行う」と保障され、会員は、学術会議が候補者を選考して内閣総理大臣に推薦し、総理が任命すると規定されている(7条2項と17条)。


©AFLO

「菅首相はヒトラー以上の独裁者」

 1983年、「総理の任命は形式的」という政府見解が出され、首相が任命を拒否したことはこれまで無かった。

 今回、初めての任命拒否に対して実に480の学会が反対声明を出し(10月23日時点)、学問の自由を保障した憲法23条に反すると猛反発している。

 10月23日、任命を拒否された当の研究者達が日本外国特派員協会で会見を開いた。

 東大の加藤陽子教授(日本近現代史)は欠席したが声明を寄せ、「法解釈の変更なしには行えない違法な決定を、菅総理大臣がなぜ行ったのか、意思決定の背景を説明できる決裁文書があるのか政府側に尋ねてみたい」と記した。

 会見に出席した早大院の岡田正則教授(行政法)は、「学術会議の独立性を侵害するもので、任命拒否は破壊行為であり、憲法23条に違反」と主張。また、首相の任命は形式的という政府見解を根拠に、「(日本学術会議法にも)違反している」と続けた。

 会見では、「菅首相はヒトラー以上の独裁者」という声まで出た。

 政府は軍事研究の推進を目指しているが、学術会議は軍事研究への協力を拒否する声明を1950年、67年、2017年と繰り返し出してきた。今回、政府は、安倍政権下の安保法制・共謀罪・秘密保護法に反対した人文社会系の研究者を狙い撃ちして任命を拒否し、さらに学術会議のあり方にまで踏み込もうとしている。

 政府は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利」と定める憲法15条を根拠に、国民の負託を受けた国会議員の中から選ばれた内閣が公務員の任命を拒否することは合法、としている。

「違憲」「違法」を裁判に訴えるまでに至らないのはなぜか

 立命館大の松宮孝明教授(刑事法)は、「(菅首相が)どのような公務員でも、自由に選び、または選ばないことができると宣言したものであり、怖ろしい話です。ヒトラーでさえ独裁を行うに当たって特別立法を必要としたのに、菅首相は憲法を読み替えて独裁を進めようとしている」と強調した。

 こうして当事者のみならず、多くの学会や研究者が任命拒否は「違憲」「違法」と主張している。しかし裁判に訴えるまでに至らない。なぜなのか。

 10月14日、任命拒否に反対する憲法研究者の有志5人が衆議員第二議員会館で会見を開いた。

 この時出した声明には憲法研究者138人が賛同。賛同者の数は、沖縄の辺野古基地問題の124人、愛知トリエンナーレ問題の91人、新型コロナ特措法問題の63人に比べて多い、と強調した。

 しかし声明では、「(任命拒否は)憲法23条の趣旨を十分にふまえておらず……」と弱く、「憲法に反する」と明確に打ち出すことは無かった。

「賛同者を多く集めたいという気持ちもあるし……」

 会見でこの曖昧さを問われた稲正樹・元国際基督教大学教授(憲法学)は、「確かにボヤッとしています。賛同者を多く集めたいという気持ちもあるし、(任命拒否を憲法違反に)繋げるロジックは大変なので……」と濁し、「出席者の気持ちはこれまで述べた(違憲・違法の主張の)通りです」と付け加えた。

 質疑応答で、『報道特集』(TBS)キャスターの金平茂紀氏が、「今後の行動として、提訴は?」と聞くと、東亜大院の根森健・特任教授(憲法学)は、裁判の原告になるためには具体的侵害が必要だが、憲法研究者の立場としては「具体的侵害が(無い)……」と回答。

 金平氏が「(拒否されたという具体的侵害があるため)任命を拒否された6人は原告になれるのでは?」と聞くと「6人は提訴できるかもしれませんが……」、金平氏が「学術会議(が原告になるの)は?」と続けると、「具体的な侵害があるか……」と煮え切らず、金平氏が「学術会議が一番被害を受けているでしょ!」と声を大きくした。しかし5人の憲法研究者から言葉は出なかった。

仏メディアも「もっと強く抗議しないのか?」

 前述の外国特派員協会での会見ではより強く、「もっと強く抗議しないのか? 裁判に訴えないのか?」とラジオ・フランスの特派員が聞いた。

 早大院の岡田正則教授は、「これは学問と政治の問題であり、是正を求めるもの。問題の性格上、いきなり裁判ではなく……」と、同じく提訴には消極的だった。

 法律の専門家がこぞって「違憲」「違法」を主張しながら、裁判へ訴えることに消極的な姿勢。「手詰まりですね……」と記者が漏らしたのも、学問の自由への侵害という大義が繰り返されるばかりで、手をこまねいている印象を持ったためだ。

 今回、学術会議が推薦した105人のうち99人は任命されている。10月14日の会見で、日体大の清水雅彦教授(憲法学)は、「任命された99人が就任を拒否する。私はそれぐらいのことをすべきだと思います」と訴えたが、そうした動きは見えていない。

 この問題は、モリ・カケ問題や桜を見る会、検察庁の人事問題などに比べて世論の盛り上がりに欠けている点もある。

 それには学術会議の存在が国民に遠いという原因もあり、ある教授は「言い方は悪いかもしれませんが、世論には反エリート主義があり、私たちへの嫌悪もあるでしょう。私たちの努力不足もありますが、メディアにも(追及を)お願いしたい」と漏らした。

 10月26日に臨時国会がはじまり、野党は学術会議問題を追及する構えを見せている。立命館大の松宮教授は会見で、国会での追及に期待すると共に「今後の内閣支持率がどう変わるかに注目しています」と話した。野党が国会で追及して内閣支持率が下がるのか、このままでは心もとない。

(坂田 拓也)

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