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「科学の進歩」に逃げ込む誤判・冤罪体質

「現段階の証拠関係からは被告人を有罪と認めることができない」。10月29日に行われた東電OL殺害事件再審初公判で、検察側はこう述べたと伝えられます。裁判は即日結審、無罪判決は確実となり、検察側はもちろん上訴権を放棄、確定へ。事件の犯人とされたネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリさんの人生を、逮捕後15年間狂わせた先にあった、日本の司法のあっけない幕降ろしです

「検察官が従来の主張を変更したのは、確定審の段階では技術的に困難だった鑑定が、その後の科学技術の進歩によって可能となったことなどによるものであり、また、検察官がことさらに証拠を隠したなどの事実も認められず、その捜査・公判活動に特段の問題はなかったと考えているが、結果として、無罪と認められるゴビンダ・プラサド・マイナリ氏を、犯人として長期間身柄拘束したことについては、誠に申し訳なく思っている」

閉廷後の東京高検次席検事は、それこそ申し訳のような謝罪コメントを発表しました。すべては科学の進歩が解決してくれた。心ならずも長期拘束なったことは、お気の毒なことだった、という弁明調の言葉からは、およそもっと早くコビンダさんを解放できたこと、あるいは一つ間違えれば、いまだ獄につなぐ結果だったこと、そして「冤罪」としての強い反省を読み取ることはできません。

以前、書いたように、ゴビンダさんは、ある種の「幸運」によって、命からがら本国に戻ったというのが現実です。今回、高検が有罪主張維持を断念した決め手としたとされているのはDNAですが、そこにつながるものとしてDNA再鑑定で冤罪が確実となった菅家利和さんの足利事件がありました。さらには布川事件、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件。ノンフィクション作家の佐野眞一氏の言葉を借りれば、司法の不祥事の「逆バネ」が存在していたのです(「『司法』からの奇跡的な脱出」)。

本当にもっと早く今回の結論に達することができなかったのか。弁護側が求めていた鑑定に対する姿勢や、本当に「証拠隠し」がなかったのかという真相。科学の進歩に逃げ込みを決めて「心ならずも」の意見表明で、検察はこれ以上の検証はせずに、この件に幕を下ろす考えのようです。

しかし、前記証拠改ざん事件、さらには最近のパソコン遠隔操作の誤認逮捕事件でも、語れないはずの手口と動機が詳述された上申書が作られ、その内容が地検の自白調書にも書かれていたという事実。それこそ、ネットという世界の新たな技術的問題がある一方で、冤罪に巻き込まれないのは運頼みとも、表現したくなるような、捜査側の現在進行形の体質的問題を私たちは見せつけられています。

もちろん、検察だけの問題ではありません。ゴビンダさんに関しても、一審でいったん無罪を出しながら、強制退去を間近に控えたゴビンダさんに対する東京地検の控訴と、執拗な再勾留要請に対し、東京高裁の再勾留決定、弁護団の異議申し立て棄却、最高裁の特別抗告棄却、控訴審逆転有罪、最高裁の上告棄却。再審開始請求から8年で決定という結果になったのか。これら裁判所というシステムの現実も、すべて「科学の進歩」をいう「心ならずも」で、国民が理解すればよいということにはとてもならないように思えます。

無実の人間に罪を被せないということは、いうでもなく、そもそも「国民の期待」にこたえるとか、「市民のため」などという言葉で括られる以前の、絶対にあってはいけない「犯罪」的行為の防止、司法が最低限、最優先させなければならないテーマのはずです。

国民の参加を求め、それが司法への信頼を深めるなどといっている、今回の司法改革が、冤罪・誤判防止を真正面から取り上げず、最低限・最優先テーマと位置づけていないことが、改めて不思議でなりません。

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