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日大アメフト「悪質タックル」から2年――宮川泰介が新天地で見せた“魂のタックル” - 山崎 ダイ

 奇しくも大学時代と同じ赤いユニフォームに身を包んだ背番号97番は、オフェンスラインのブロックを素早い動きと絶妙なハンドテクニックでかわすと、クオーターバックの死角から、猛スピードで迫る。

【画像】悪質タックル事件で矢面に立つことになった宮川泰介選手

 薄暗さを増したフィールドで、カクテル光線がヘルメットに反射していた。

 パスを投げようとボールを振りかぶったクオーターバックの右腕に対して、一瞬早く手がかかる。

 右手でボールを叩き落とし、左手は相手選手にフルタックルを浴びせる。こぼれたボールは味方選手がカバーし、攻守が逆転する。お手本のように美しいサック&ファンブルフォースだった。

Xリーグデビュー戦となった背番号97の宮川(富士通公式サイトより)

 10月24日に行われたアメリカンフットボールのXリーグ初戦。

 コロナの影響を受けて例年とは1か月以上遅れての開幕ではあったが、会場には多くのファンが詰めかけ、入場制限のため入り切れなかった観客たちの中には、スタジアムの隙間から試合を覗いている者も多くいた。

 冒頭のシーンは、昨季4連覇を達成し、日本一に輝いている富士通フロンティアーズとノジマ相模原ライズの一戦での一幕だ。素晴らしいプレーではあったが、アメリカンフットボールではよく見るディフェンスチームのファインプレーのひとつだといえる。

 ただ、それが多くの人にとって大きな意味を持っていたのは、このプレーを見せた背番号97のルーキーが、宮川泰介だったということだ。

2年前に起きた日本中を巻き込んだ“大騒動” 

 日本ではマイナーともいえるアメリカンフットボールという競技の選手にも関わらず、宮川の名前を憶えている人は多いのではないだろうか。

 2年前の5月6日、調布市で行われた日本大学と関西学院大学によるアメリカンフットボールの名門対決で、日大側の選手が3度のパーソナルファウルを犯し、退場となる事態が発生した。その退場した選手が、当時大学3年生の宮川だった。

突然社会問題化した“悪質タックル”事件

 その中のひとつのタックルは、明らかにプレーが終わったあとの選手を狙ったように見えたこともあり、映像がSNS上で瞬く間に拡散された。そこから当時の監督やコーチによる選手への圧力や、部の度を過ぎた体育会系のタテ社会が明るみに出、連日ワイドショーやニュースで報道される社会問題化していったのだ。

「ほんの1週間前は、TOKIOの山口さんが書類送検されたニュースをワイドショーとかで見て、みんなで『大変なことが起きたね』という話をしていたんです。テレビの中の世界は、どこか別世界の話だった。ところが、あの試合のあとからはどの局の、どの番組を見ても自分たちが取り上げられている。言い方が悪いかもしれませんが、現実感が全然なかったのが正直なところです」

 当時の日大アメフト部員のひとりは、かつての喧騒をそんな風に振り返る。

 反則行為の指示を出したコーチや監督の会見に加え、最終的にはタックルを行った宮川本人までが“実行犯”として会見の場に引きずり出された。そこでは「この先、アメリカンフットボールをやるつもりもありません」という悲壮な言葉まで残すことになった。

1年半後にようやく果たせた「リーグ戦復帰」

 その後、チームは再建のために指導者陣を一新。日大フェニックスは1シーズンの公式戦への出場停止措置を経て、2019年の秋シーズンに、グラウンドへと帰ってきた。

 宮川本人も、「チームを立て直そうとしているチームメイトに対して、あまりにも無責任なんじゃないか」という思いから最終的にはチームに復帰。最後は2018年の公式戦不出場を受けて1部下位リーグに降格していたチームを上位リーグに引き上げて、大学のフットボール生活を終えていた。

 一方で、事件があった年の4年生にとっては、最後のシーズンがなかったということになる。宮川たちの学年も、下位リーグからのスタートということで、最後の年にフットボーラーの目標でもある甲子園ボウルという舞台を追うことはできなかった。

 そこについては復帰後も、「自分がしてしまったことがなくなることはないので、手放しで喜ぶわけにはいかない」と語っていた。

社会人デビュー戦で目にした宮川のタックル

 そんな紆余曲折を経て、ようやく迎えた2020年。

 舞台は変わり、社会人リーグになった。コロナ禍による予想外の船出にはなったが、同じ赤いユニフォームに身を包んでいても、もうそこにしがらみはないはずだ。

 この日、フィールドに立った宮川の体つきは、大学時代と比べてかなりシャープになっていた。体重は変わっていないと言うから、鍛え上げてきたことが窺える。彼が事件の後、ここまでコツコツと努力を積み重ねてきたことが伝わってきた。

 試合前にはヘッドコーチが注目選手のひとりとして宮川の名を挙げ、本人も「新人ではありますが、4連覇をしているチーム、日本一のチームの一員である自覚を持ち、貪欲にプレーしていきます」とコメントを出していた。

 正直に言えば、移り気な世間はもう、「悪質タックル」問題など記憶の彼方に消してしまっている。宮川にとっても、もしかしたらあの一連の出来事は、過去の記憶になっていないだろうか――と、試合を見るまでは思っていた。

 だが、それはやはり少し違うような気がした。そう思ったのは、冒頭の宮川のサックを見た時だ。

 実はその宮川のファインプレーが終わった後、一瞬ゲームが止まった瞬間があった。

 実際は宮川のプレースピードが速すぎたため、クオーターバックがボールをファンブルしたのか、パスを失敗したのか審判団が判断できず、ビデオ確認するためだったのだが、静まり返ったフィールドで、審判団が顔を寄せ合わせている姿を見ると、嫌でも観客たちの頭にはかつてのシーンもよぎったのだろう。

 なかには「なんだかドキドキするね……」という言葉を漏らすファンもいたが、その「ドキドキ」という言葉の響きには、複雑な意味が込められていたように聞こえた。

 フィールド上では宮川に先輩選手が、「いまのは大丈夫」というように駆け寄り、小さく腰のあたりでタッチをしている姿もあった。

超ビッグプレーに対して、宮川のリアクションは……

 しばらくの中断の後、審判の判定が下り、サイドラインに下がった宮川には、チームメイトから手荒い祝福が行われた。

 ルーキーのデビュー戦での超ビッグプレーである。普通なら、大きく吠えたり、感情を爆発させるようなシチュエーションだったはずだ。

 だが、そこでも宮川は感情を表に出すことはなく、ただ淡々とその祝福を受け入れていた。不自然なまでに、クールで、落ち着いていた。老成しすぎていたと言ってもいいかもしれない。

 そんなシーンを見て思ったのは、やはり振り返って2年前、弱冠20歳の青年に降りかかった苦難は、個人に背負わせるにはあまりにも重すぎるものだったように思う。事件そのもの以上に、その後も周囲の大人たちによって振り回され続けた。それによって「フットボールをする資格がない」という発言までさせてしまった。

 ようやく所属も変わり、学生から社会人へと立場も変え、宮川はこうしてフィールドで、忖度なくプレーできるようになった。少なくとも、プレーの上では、この試合で見せた会心のタックルに「躊躇」はなかったように思う。

 だからこそ次は気兼ねなく、素直に感情を爆発させる瞬間を期待したいと思った。

 この試合に48-3で圧勝した富士通フロンティアーズは次節、11月7日に優勝候補のひとつであるIBMとの大一番を迎える。

 次節、宮川はそこでどんな表情を見せてくれるだろうか。

(山崎 ダイ)

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