- 2020年10月29日 16:07 (配信日時 10月29日 11:15)
東京は23区なのに、大阪が24区のままで本当にいいのか
1/2大阪市を廃止して特別区を設置する「大阪都構想」の是非を問う住民投票が11月1日に投開票する。都構想の実現にはどんなメリットがあるのか。日本総合研究所マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、「自治体の大合併や道州制の議論を再び始めるきっかけになる」という——。
※本稿は、石川智久『大阪が日本を救う』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

歴史的・地理的要因のなか生まれた大阪都構想
大阪都構想というのは実は維新の専売特許ではない。古くからある議論であり、一人の政治家や政党によるものではない。もしかしたら大阪の人もそんなことを忘れてしまっているのかもしれない。さて、北村亘氏の著作『政令指定都市 百万都市から都構想へ』(中公新書)によると、大阪都構想の源流は1953年に府議会で議決された「大阪産業都構想」と言われている。
なぜそのようなことが議論されたかというと、吹田市や東大阪市といった大阪の周りの衛星都市に一定の規模があり、力も強いので大阪市域の拡大が難しいこと、大阪市外の居住者が大阪市内に勤務し、大阪市から行政サービスを受けているのに、大阪市に納税しないという問題が発生したからである。
府と市の足の引っ張り合いを揶揄(やゆ)した「ふしあわせ(府・市あわせ)」問題もある。仲が悪いだけであればまだ良いが、府が何か作れば、市も負けずにハコモノを作るといった過剰投資がみられた。そして大阪府市ともに財政を悪化させた。こうしたなか、大阪府と大阪市の関係がこれでは良くないという意見が非常に強くなった。
また、大阪都構想が議論される背景には大阪府市の面積の小ささというのもある。私の出身地の北九州市は政令指定都市であるが、福岡県は結構大きく、北九州市のターミナル駅の小倉駅から福岡市の博多駅までは新幹線で20分近くかかるので、福岡市と北九州の合併はあまりイメージしにくい。
一方で大阪府は面積では全国で二番目に小さい。また、大阪市に住んでみるとわかるが区の面積が非常に小さい。大阪の現状の区を3つか4つ合わせると、東京の一つの区になるようなイメージである。私の経験からしても、大阪市内を30分も歩けば2つ3つの区を横切るということは珍しくない。
そうした歴史的・地理的要因のなか、維新が出した答えが「大阪都」構想であった。もちろん、必ずしも合併しなければ大阪府市の問題は解決しないわけではない。ただし、合併というのは争点としてはわかりやすいので議論が盛り上がったというのがこれまでの経緯である。そしてそれが2020年11月に住民投票にかけられる。2015年にも実施されたがそれは僅差で否決された。今回が本当に最後の勝負となろう。
東京都は23区だが、大阪市には24区ある
全国の人からすると、大阪都構想というのはいまいちピンとこないと思う。一方で、大阪ではどうであろうか。
私がみている限り、多くの人が電車のなかや居酒屋、喫茶店などで大阪都構想について議論をしており、かなり理解が進んでいる。しかし、何回聞いてもわからないというコメントも多く聞かれる。それでは仮に住民投票で「大阪都」が合意された場合、どのようになるのか。簡単に概要を説明したい。
大阪都構想というのは、一番簡単に言えば、「大阪市を解体してそれを大阪府と合併させることで政令指定都市(以下、政令市)と都道府県を一体化させる」という構想である。そして、全国の人があまり知らないポイントであるが、政令市である堺市は含まれていない。
つまり、仮に大阪都構想が実現した場合、大阪府の下に4つの特別区、政令市の堺市、大阪府下の市町村が存在するという形になる。また都構想が実現しても、府の名前を「都」に変えるには法律改正が必要であり、名称は大阪府のままとなる。
不自然な区の形にも訳がある
大阪都構想が実現した場合、わかりやすい変化は大阪市内の行政区の数が減ることだ。大阪市は24区ある。東京特別区(23区)と数はほぼ同じである。一方、面積をみると、大阪が約230平方キロメートルであるのに対し、東京特別区は約630平方キロメートルであり、大きな違いがある。
府市統合後、区の名前は淀川区、北区、中央区、天王寺区の4つになる(図表1)。北区、中央区、とくれば東、南、西あたりにすればよさそうであるが、実はこれには深いわけがある。

区の名前というのは全国どこでも同じようにみえて、それぞれ思い入れが深い。そのため単純に決めることは住民感情を傷つける。そうしたなか、大阪府市の担当者の方々は、東京特別区や政令市の名称が方角・位置、地名等、地勢等、古典・その他にちなんでつけられていることを分析した(図表2)。それで旧区をその分類で整理し、覚えやすさなどを考えて各区の名前を決めたものである。

区の形については、少し自然とはいえない形になっている。それは、基礎自治体として住民に必要なサービスを安定的に提供できるよう、各特別区間の財政の均衡を最大限考慮するほか、特別区間の将来の人口格差を概ね2倍以内とし、これまで築き上げてきたコミュニティや過去の合区・分区の歴史的な経緯、住民の円滑な移動や交流を確保するための鉄道網、商業集積の状況、災害対策としての防災上の視点を考慮した結果、この形に落ち着いた。
区の名前をめぐって東京と大阪のプライドが激突
区の名前では東京と大阪で互いのプライドをかけた駆け引きがあった。2020年の2月、4特別区のうち2特別区の名称が「北区」と「中央区」となることについて、東京都の北区と中央区が「混同される恐れがある」として、大阪府市に名称の再考を求めた。
確かに大阪都構想が実現すると、東京、大阪に「北区」「中央区」という自治体が存在する事態となる。そのため、大阪府市が東京の北区・中央区に照会したとき、東京都の北区と中央区は再考を求める文書を送付した。理由は、北区は「基礎自治体としての北区は東京だけにしかない」であり、中央区は「70年間、中央区としてやってきて、銀座などのブランドが築かれてきた。避けてほしい」というものだった。
法律的には、新しい市ができる場合の名称は、既存の市と同一または類似しないよう「十分配慮すること」という1970年の自治省の通知があるが、強制力はない。実際、同じ名称を規制する法律はない。
個人的には日本中に銀座もあれば、富士もあるので、かぶってもそれほど問題はないと思うが、それくらい区の名前というのは当事者からすれば大きな問題ということがわかる事例だ。
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