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福島県県民健康管理調査はこれでよいのか?(2) - 島薗 進

東京大学大学院人文社会系研究科(宗教学宗教史学)
教授 島薗 進
2012年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


県民健康調査の検討委員会の先だって「秘密会」が行われていたことが報道された(毎日新聞10月3日)。これは国民を欺くものであり、この調査そのものへの信頼感を著しく損なうものだった。

この調査では基本調査(外部被曝線量調査)、甲状腺検査、健康診査などが行われているが、とくに甲状腺検査については福島県民のみならず国民の関心は高い。他の調査についても、放射線量の多い地域の住民たちは、調査結果が自分たち、とりわけ子どもたちの健康に大いに関わりがあると考えているはずだ。

調査結果をどう受け止めればよいのか。また調査が適切になされているかどうかについてわいてくるさまざまな疑問がある。こうした問いをめぐる討議が十分になされ、討議の成果が生かされていくためにこそ検討委員会はあるのではないだろうか。ところが実際には討議の筋書きは決まっており、自由な質問はなされようがなかったということであれば、放射能の被害が及ぶことなく健康が維持できることを願う住民の落胆と不安感は高まるばかりだろう。

秘密会が行われていたということは、「提示される情報をコントロールする」意図があるものと受け取られるだろう。では、いったい何が隠されたり、見えにくくされているのか。こう考えるのは自然だ。県民の利益になることをしようとしているのか、そうではないのか。隠さなければならないとすれば、県民の利益に反することがなされているのではないか。

このような疑いが次々に浮かび上がってきてしまう。もちろん県民といっても多様な立場の方々がいるが、不利益をこうむる可能性がある県民が多数いるのではないかと思わせるやり方と言わざるをえないだろう。

そもそもこの調査は県民に健康被害がありうること、健康被害が見えてきた場合、早期に措置をとることを前提にして行われているのだろうか。実はこのことこそ、多くの県民が望んでいることだろう。だが、もっとも強く望まれている、この方向性はほぼまったく示されていない。

というのは、健康被害がないのを示すこと、そしてそれによって「県民の放射線に対する不安除去に貢献すること」が唯一明快な目的として繰り返し提示されているからだ。これは県民健康管理調査の実施責任者側、つまり福島医大、福島県、国(まずは環境省、内閣府)に共通するものだが、ここでは福島医大の倫理審査委員会で承認された研究計画書によって見てみよう。
情報公開クリアリングハウスのHPに記載された「福島県立医大倫理委員会資料」による
http://clearinghouse.main.jp/wp/?p=615#.UHLRjx7yx_I.twitter

。たとえば「福島第一原子力発電所の事故に基づく周辺住民の外部被ばく線量推定のための問診票」、これは浪江町、飯館村、川俣町山木屋地区を対象とした調査で、2011年6月24日付で研究計画が承認されている。そこには以下の記述があるという。

1) 原子力発電所の大規模事故における周辺一般住民の外部被ばく線量の実測を早期に実施された事例はなく、今後の低線量被ばくに対する健康影響解明における学術的な貢献度は高い。
2)上記1)の結果を、今後の県民の健康管理の方向性決定に活用することで、本研究を住民に還元し、対象者のみならず県民の放射線に対する不安除去に貢献することができる。

この調査を行うことで、住民にとってどのような利益があるのか。「住民に還元し」とあるが、それは何を意味するのか。「県民の放射線に対する不安除去に貢献」ということだろう。つまり健康被害は出ないから、県民が安心するのが利益との考えが読み取れる。だが、ほんとうに「不安除去」ができるのだろうか。他の貢献はないのだろうか。

甲状腺検査についてはどうか。倫理審査委員会資料は研究目的をこう述べている。

「先行調査では、放射線の影響のない状態(ベースライン)での、甲状腺疾患の頻度・分布を明らかにすることができる。

本格調査では、放射線の甲状腺に対する影響を評価でき、現時点で予想される外部及び内部被ばく線量を考慮するとその影響は極めて少ないことが明らかにできる」

「先行調査」と「本格調査」については、環境省の資料では、平成23-25年度が「先行調査」、平成26年度からが「本格調査」とされている。
http://www.env.go.jp/jishin/rmp/conf-health/b02-mat10.pdf 

甲状腺がんが発症した場合、早期発見により予後を改善することができる。チェルノブイリではどうだったか。山下俊一氏らは『チェルノブイリ原発事故被災児の検診成績』
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00198/contents/008.htm
(『放射線科学』42巻10-12号掲載、1999)で次のように述べている。

「日本や欧米のデータでは小児甲状腺がんは極めてまれで100万人に対して年間1~2名と言われているが、その大半は思春期以降で、10歳未満の甲状腺がんをみることはまずない」

「しかし、本プロジェクトを開始した1991年5月には、既に6歳、すなわち事故当時の年齢が1歳以下の小児に頚部リンパ節が腫脹した甲状腺がんが発見された。その後、いかに早く小さな結節をみつけても、がんは周囲のリンパ節に既に転移していることが多く、早期に適切な診断が必要であると同時に、外科治療や術後のアイソトープ治療の必要性が痛感された」。

チェルノブイリでは、想像もしなかった幼児の甲状腺がんの早期発症が見出されたのだ。そして、チェルノブイリで4~5年経過する以前から甲状腺がん発症の徴候がなかったという断言は誰もできないだろう。スクリーニング などしていない事故後2~3年の段階でも僅かながら増加しているように見える資料があるからだ。

県民健康管理調査の調査(検査・診査)目的は再考されるべきだ。そして、「不安除去」ではなく、被災によると想定しうる発症を早期に見出す方途について、また、見出された場合の早期対処について誠意をもって取り組むべきだろう。

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