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結局、誰も勝者にはなれなかった。

創業から約半世紀の名門家具メーカー、大塚家具が”親子喧嘩”で有名になったのは今から遡ること5年ちょっと前の話。

社長を一度退いた後に返り咲き、定時株主総会で自らの父親と対峙して一躍時の人となったのが、大塚久美子社長だった。

ここ数年は、有名企業でも株主総会を舞台に取締役の選任、さらには実質的な経営権の争奪が繰り広げられるケースが目立つようになっているが*1、2015年当時はまだまだ珍しい話だったし、この会社に関しては、まさに親子世代の経営や店づくりに対する価値観のぶつかり合いが正面から取り上げられていたこともあって、当時はかなり気にしながら見ていたものだった。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

結果的には、この時の”闘争”は、社長側勝利で幕を下ろし、会長だった父親は会社を離れて「匠大塚」を創業。あくまで高級路線にこだわり続ける姿勢を見せた。

一方、名門・大塚家具の方は、接客手法等を大幅に刷新する新しい経営方針をより加速させ、同じ「家具」の店ながら、それぞれの道で競い合っていくかのように見えた。

だが、定時総会直後の”お詫びセール”が活況を呈し、売上増、黒字化を達成したのもつかの間、大塚家具は2016年12月期以降、再び売上減、慢性的な赤字の泥沼にはまっていく。

貸会議室のTKPと資本提携し、ショールームを会議室に転用する等、苦肉の策で何とか苦境を脱しようとしたものの、2018年12月期には無配に転落し、昨年冬にはとうとうヤマダ電機の過半数出資を仰いで「系列入り」する、という事態と相成った*2

そして、今年7月の定時株主総会で、三嶋恒夫会長をはじめとする4名の取締役が送り込まれ、より”ヤマダ色”が強くなったな・・・と思いながら見ていたところで今日の昼流れたのが、以下のニュースである。

「家具販売の大塚家具は28日、大塚久美子社長(52、写真)が12月1日付で辞任する人事を発表した。親会社の家電量販大手ヤマダホールディングス(HD)社長で大塚家具会長の三嶋恒夫氏(61)が社長を兼任する。」
「大塚家具は経営不振から2019年にヤマダの傘下に入った。同社とのプライベートブランド(PB)の共同開発などで経営立て直しの道筋がついたと判断。これまでの経営責任を明確にするとして大塚社長が辞任を申し出た。
(日本経済新聞2020年10月28日付夕刊・第3面)

生き馬の目を抜く小売業界の雄に、自らの経営難で支援を仰いだ時点でこうなるのは分かっていたこと、と言ってしまえばそれまで。

今年に関しては、春先に新型コロナ、という逆風が吹いていたにもかかわらず、同時に発表された業績予想*3ではヤマダ電機との協業で増収増益(といっても利益ベースではまだ赤字脱却には至っていないが)という見通しも示されているくらいだから*4、いかに親会社の販売力とコスト管理能力が高いか、ということは門外漢にも十分窺い知ることができるし、そこまで経営に踏み込まれた以上、創業家社長としても覚悟を決めないといけなかったのだろうな、ということは推察できるところ。

とはいえ、このあまりに残酷な展開には何とも言えない気持ちになる。

退任する社長に対して、「高級路線」で根強い会員顧客に支えられていたビジネスモデルを性急に変えようとし過ぎたのではないか?と批判の矛先を向けるのは簡単。

でも、まさに彼女が経営権を奪い返した2015年以降は、それまでバブル的な活況を誇っていた百貨店が一気に変調をきたし始めた時期とも重なるわけで、たとえそれ以前の路線をそのまま続けていたとしても、状況がよりよくなっていたとは言い難い気がする*5

5年前のエントリーにも書いた通り、自分は、あえて会社を離れて法科大学院の門を叩き、修了後再びビジネスの第一線に戻って来た現社長の生きざまに非常に惹かれていたし、今回、潔く身を引いた(ように傍からは見える)判断も素晴らしいと思っている。

経営者としては、理想主義が先行しすぎていたのかもしれないし、コストを抑えてしぶとく利益を出す、という企業経営者としてのテクニックは十分に身に付けられていなかったところもあったのかもしれないが、「時代に合わせて様々なこと、ものを変えよう」という発想自体は、決して間違ったものではなかったはずだ。

だがそれでも、6年経たずに彼女が再び社長の座を降りなければならなかった、という事実は厳然と存在するわけで・・・。

「どこにも勝者はいなかった」

今となっては5年半前の出来事さえこうまとめざるを得ないのだが、ここから先、経営の立て直しがより加速することで、名門「大塚家具(IDC)」のブランドだけは将来にわたって残ることを、そして、この何年もの間、苦境の会社を救うために東奔西走させられたであろう現社長が、暫しの間だけでも心穏やかに過ごすことができるような環境を手に入れられることを自分は願ってやまないし、父も子も、ここから先の人生で真の「勝利」を掴めるなら、それがまた商売をやるものにとっての一つの希望となるのではないか、と、自ら商売を営む身としても思わずにはいられないのである。

以上、今日のリリースで「ストップ高」となったこの会社の株価チャートを眺めつつ・・・。

*1:昨年のLIXILグループで瀬戸社長が返り咲きを果たして以来、特に目にする機会が増えた気がする。

*2:ヤマダ電機のオーナーと大塚家が旧知の仲、ということもあって、当時は多少の”美談”的要素もあったのだが・・・。

*3:http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/r-2/r2-10-28_2.pdf

*4:もちろん、低価格路線のスーパー、ホームセンターは伸びており、在宅ワークの進展等で「家具需要」が増えているのは事実だとしても、それまでの経営ならおそらく百貨店と同じ運命を辿っていたはず。。。

*5:袂を分かってからの最初の数年は、”本家”をしのぐ勢いを見せていた「匠大塚」も、既に日本橋にあった立派なショールームは閉鎖してしまったようだし(匠大塚「日本橋ショールーム」を閉鎖したワケ | 専門店・ブランド・消費財 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準の記事など参照)、今の状況下でそこまで活況を呈してはいないのではないか、という気もする。

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