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ライブ×ネットの「共鳴」×「共有」を分析してみる

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ソーシャル時代に音楽を“売る"7つの戦略 “音楽人"が切り拓く新世紀音楽ビジネス

posted with amazlet at 12.11.01山口 哲一 松本 拓也 殿木 達郎 高野 修平
リットーミュージック
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 音楽業界の中でも、先進的な取り組みをなさってきた4名の著者による『ソーシャル時代に音楽を"売る"7つの戦略』。音楽に限らず、ネットでコンテンツを扱うことに対するヒントが散りばめられているのでとても参考になった。

 例えば、殿木達郎氏が担当した第二章では、ネットを含めた「ニュース」がユーザーに届けるにあたって、どのようなリリースが効果的なのか論じられていて、PR・マーケティングの関係者ならば必読の内容だろうし、山口哲一氏が音楽におけるパッケージビジネスが瓦解するのではなく、CD・配信・ストリーミングが共存していくという展望をしているのは、電子書籍をめぐる出版界の状況にも通じる部分がありそう。単純に音楽ビジネスの「これから」を考えるだけでなく、コンテンツビジネスを手がける上でのエッセンスがつまった一冊といえるだろう。

 ただ、一点。音楽ビジネスにおいて重要性が増すと言われているライブに関して、第六章で、【共有】・【共感】・【共鳴】のサイクルの説明がフジロックにおけるツイート数を例になされているのだけど、それがいかに多くのユーザーに拡散して、なおかつ「お金を払ってもらえるコンテンツにするのか」というところまでは踏み込まれていなかったのは、やや残念だった。

 なので、同書で提示されたサイクルが見事に回っている例として、ニコニコ動画における『THE IDOLM@STER』(以下『アイマス』)を中心に考えてみたい。

 『アイマス』は2005年にアーケードゲームとして登場したアイドル養成シミュレーションゲーム。2011年にはアニメ化もされ、出演声優が一堂に会するライブの開催も7回を数えている。

 このゲームが、爆発的な人気を集めたのは、Xbox360版が発売された2007年。ここで、自分がP(プロデューサー)として育てたアイドルをニコニコ動画に投稿する文化が生まれ、ゲーム内の楽曲だけでなく、様々なジャンル〜J-POPから演歌・ジャズ・オペラに至るまで〜と合わせるMADムービーが毎日量産され一大コンテンツとなった。

 ここで特筆すべきなのは、キャラクター人気を支える声優が、歌に対して本格的に取り組み、ファンが集まるライブの場でも本職のアーティストとも遜色ないか、それ以上のパフォーマンスを発揮している、ということだ。ゲームのキャラクターの性格に加えて、担当声優にもそれぞれのファンがつくという好循環が生まれている。
 
 さて。2012年6月に横浜アリーナで2日間に渡って開催された「THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに!」では会場のみならず全国の映画館でライブビューイングを敢行。アニメが大成功したことも合わせて、Pのほとんどが「過去最高」という高評価を得たイベントになった。

 それで、ファンの動きとして重要なのは、イベント前後でニコニコ動画において、楽曲のメドレーなどをユーザー同士で「予習」「復習」する動画が投稿され、再生回数・コメント数・リスト登録数とも多いコンテンツとなっていることだ。

 まず、事前にイベントで流される楽曲を「共有」してイベントへの熱を高める。そして、イベント後には「二次会」と称して、セットリスト通りの順番になった動画が投稿され、ライブでの感動の場面が反芻され、ライブ組・ライブビューイング組・未見のファンをいっぺんに集めた「共鳴」の場として機能しているのだ。

 このファンの動きは、さまざまな示唆に満ちているように思われる。

 ライブの前後に、ファンの心理をくすぐるコンテンツを投下することを、「公式」にするというのは一つのアイディアとして検討すべきだろう。特に、ライブイベント終了後にセットリストの公開することは、ファンの「共鳴」を促す上で、非常に重要な情報になる。コンテンツの内容次第では、動画サイトにおいて有料課金生放送で「視聴会」を販売するということも可能だろう。動画サイトの中でも、ユーザーの反応や一体感を共有する場として、ニコニコ動画は他のサービスに一歩先んじている。

 また、USTREAMでの視聴もtwitterのハッシュタグを介して、ファン同士の繋がりを促進する場となっている。秋葉原のアニソン・DJバーMOGRAや、東京・新宿で開催されている都市型音楽イベント『Re:animation』などでは、USTとtwitterを上手く利用して「共鳴」を起こした例となるだろう。どちらも、出演者・主催者により積極的に情報発信していることが、ファンとの距離を近くして、場の空気の一体感を形成していることは見逃せない。

 このように、ライブイベントとネットは親和性が非常に高く、パッケージ販売(ライブのBlu-ray Disc・DVD・CDなど)の促進だけでなく、LIVE自体のネットでのビューイングや、事前事後のイベントなど、「体験」を販売するといった可能性を秘めている。

 また、よりファンとの密着度を強める際に、著作権を弾力的に運用することも一つの考え方といえるだろう。ライブの模様を映した動画を削除するよりも、より「共感」「共鳴」を高めるための場となっているメリットの方が高い、ということを考慮する必要があるように思われる。

 いずれにしても、まだまだ音楽ビジネスにはネットにおいて未踏の場が広く残されていると個人的には感じているので、そのあたりを「音楽人」たちがどのように切り開いていくのか、楽しみになる一冊だった。

 さしあたっては、2012年11月8日に著者4名が集まるトークセッション『sensor 〜 it&music community』で、このエントリーで記したことに関連した質問をしてみようと考えている。


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