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誕生した若き連邦最高裁判事をこれから待ち受けるもの。

連邦最高裁の最年長判事の訃報に接してエントリーを上げ、「後任選びはどうなるかな・・・」ということをボソッと書いたのは先月のこと。

あの時は、さすがの大統領も、それを支える共和党も、選挙を控えて多少は自重するのではなかろうか・・・という期待が半分くらいはまだあったのだが、現実は全く、だった。

「米議会上院は26日夜の本会議で、トランプ大統領が連邦最高裁判所判事に指名した保守派エイミー・バレット氏(48)を与党・共和党の賛成多数で承認した。トランプ氏は保守派有権者の価値観に近い判事の承認を通じ、来週に迫った大統領選へ巻き返しを目指す。」(日本経済新聞2020年10月27日付夕刊・第1面、強調筆者、以下同じ。)

一時代を築いた前任者の不幸を待ち構えていたかのような電撃的な候補者指名。そして、反対の声を押し切って淡々と進められた承認手続き。

現在の政権与党がわずかに多く議席を持つ上院で、最終的には野党系の議員が全員反対に回る、という異例の展開になってしまったが、それでもこれが民主主義の帰結。

かくして、若干48歳のAmy Coney Barrett判事が、女性として5人目の連邦最高裁判事に任命されることとなった。

大統領選を控えた時期、ということもあって、記事の中では予想どおり、

バレット氏の承認を受け、最高裁は長期にわたって保守寄りの判断を下す可能性が高まる。最高裁判事9人のうち少なくとも5人が保守派になるからだ。保守派は人工妊娠中絶やLGBT(性的少数者)の権利に否定的で、個人の銃保有に賛成する傾向が強い。低所得者に医療保険加入を促す制度にも批判的だ。判事は終身制のため死亡するか、辞職しない限り職務を続けられる。」(同上)

と今回の新判事の指名、承認が極めて「政治色」の強いものであることが強調されている。

そして、こういうトーンで就任した判事を評価しているのは決して外国メディアだけでなく、当の米国内での評価がまさにそうなのだ、ということは、現時点では英語版でしか読めない*1Wikipediaで書かれている一つ一つのトピックを読んでも良く分かる。

まもなく終わろうとしている1期4年の短い任期で悲願の「3人目」の指名判事を就任させることに成功し、大統領周辺はラスト・ミッションを果たしたとばかりに歓喜に沸いているのかもしれないし、長らく指摘されている社会の断層はこれでより深まった、ということなのかもしれない。

米国発のニュースでも、そんなにタイムラグなく知ることができる今の世の中だと、長年島国に閉じこもって暮らしている日本人でも、こういうニュースに接して「ああ保守派かぁ・・・」と、前の総理大臣の取り巻きの人々などを思い浮かべて何となくわかった気になってしまうのだが、そもそも自分も含め、そういう属性の人間が、かの国の”conservative"の概念をどれだけ理解できているかは疑わしいのであって、もしかしたら、呑気に想像している以上に壮絶なことが起きてしまう可能性は否定できない*2

ただ・・・


ギンズバーグ判事が亡くなられた時のエントリーでも書いた通り、「法に則って判断を下す」という大原則は、少なくとも成熟した司法の文化を持つ国では根底に流れている思想だと自分は信じている。

だから、Law Schoolを優秀な成績で修了し、教壇にも立ち、さらにCircuit Courtの判事として経験を積む*3、という前任者とも重なるルートを歩んできた彼女を、その「思想性」だけで批判するのはちょっと気の毒な気もするわけで。

仮に承認されたばかりの新判事が、故・ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事が亡くなられた歳まで最高裁判事を続けたとしたら、これまでの人生の長さに匹敵するくらいの間(約40年)、法廷意見を書き続けることになるし、彼女とほとんど同世代の自分がそれを最後まで見届けられる自信は全くないのだが、その過程では、「党派的」と思われる意見を表明することもあれば、法律家としての筋を重んじた判断をすることだって何度となくあるはずで、その結果、指名した人々の思惑とは異なる結論が導かれる事態が起きても全く不思議ではないだけに*4、表面的な報道の受け売りだけではない視点で彼女のこれからに注目してみたい、と思うのである*5

*1:正確に言うとフランス語版や中国語版はあるが、日本語版はない。

*2:もっとも、他のSeventh Circuitの判事との比較で、civil rights issuesに対してはより保守的だが、employment discrimination, labor and criminal defendants といったケースに対してはそうでもない、という分析もあるようだが。

*3:ただし、指名されたのが2017年のことだから、13年務めた前任者と比較すると経験は遥かに浅いのだが・・・。

*4:これが政治家なら「支持者への裏切り」ということで、次の選挙が・・・ということになってしまうわけだが、そうならないように連邦最高裁判事に「終身制」という身分保障を与えているところもまたアメリカらしいな、といつも思うところである。

*5:あとやっぱり自分にとっての関心は、これから湧き上がるであろう反トラスト法関係の事件とか、域外適用関係の事件とか、あるいはずっと続いているJava APIの事件等々で、どういう意見が示されるのか、というところに向いていたりするので、その辺も含めて注目している。

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