- 2020年10月28日 09:14
【読書感想】ホークス3軍はなぜ成功したのか?~才能を見抜き、開花させる育成力~
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ホークス3軍はなぜ成功したのか? 才能を見抜き、開花させる育成力 (光文社新書)
- 作者:喜瀬 雅則
- 発売日: 2020/04/14
- メディア: 新書
Kindle版もあります。

ホークス3軍はなぜ成功したのか?~才能を見抜き、開花させる育成力~ (光文社新書)
- 作者:喜瀬 雅則
- 発売日: 2020/04/24
- メディア: Kindle版
21世紀の新たなる覇者・ソフトバンク。その「強さの原動力」として注目されたのは「3軍育ち」。育成選手としてプロ入りした、たたき上げのプレーヤーたちだった。千賀滉大、甲斐拓也、牧原大成、石川柊太、周東佑京、大竹耕太郎――3軍制を取る球団は数あれど、なぜホークスだけが大成功を収めたのか? 王会長をはじめ、多くの選手・関係者への取材を元に解き明かす。その源流は、やはり“あの男”へと行き着いた。
広島カープの大ファンである僕は、この本を読んで、なんだかもう白旗をあげてしまいました。
ここまでお金と人をつぎ込んで、頭と人脈も使って強いチームをつくろうとしているソフトバンクには勝てそうもない。
僕は「育成選手」について、「球団が選手を安い契約金で獲って、『活躍すれば儲けもの』みたいな博打をしている」と思っていたのです。
ドラフトで本指名された選手の契約金は、ドラフト下位でも数千万円、育成選手は数百万円レベルです。年俸も240万円くらい。そのくらいしか払うつもりがない選手をたくさん獲るなんて、「やりがい搾取」みたいなものではないか、とさえ考えていました。
この本を読むと、育成は、けっして「お金がかからない」わけではないのです。
獲った選手は、選手1人あたり、食費など育成にかかるコストとして、年1000万はかかるといわれている。ドラフト本指名の選手でも、育成選手でも、入団すれば「一選手」として同じだけのコストがかかる。
単純計算で、育成3年間で3000万円。10人なら3億円。
育成選手を増やせば、コーチもスタッフも増やす必要が出てくる。
いくら年俸を抑えたところで、育成のコストは現状よりも大きくなる。その投資のリターン、つまり、選手はモノになるのか。
親会社から経営を任されたフロントが、そのコストを是とするだけの理由は、なかなか見当たらないのが現実だ。
ソフトバンクは、そのコストセンターというべき「育成」に投資してきたのだ。
契約金は安くできても、入団してしまえば、選手1人あたりにかかるコストはドラフト1位でも育成選手でも、そんなに変わらないのです。1人年間1000万円。
しかも、選手を増やすだけ増やして、これまでと同じ1軍、2軍に分けての育成をしていこうとすれば、選手1人あたりの試合での出場機会は少なくなってしまいます。
ソフトバンクは、3軍だけでも試合ができるようにしたり、四国アイランドリーグとの交流戦を行ったりして、日本のプロ野球界の育成のシステムそのものを変革してもいるのです。
ただし、著者は選手数を絞って、「少数精鋭」で結果を残している日本ハムのやり方も紹介しています。
北海道日本ハムファイターズの遠藤良平GM(ゼネラルマネージャー)補佐は、こんな話をされています。
「絞ることで、あまり冒険がしにくいのはありますね。僕が思うのは、大学卒でドラフト上位指名を受ける投手でも、高校の頃には、名前を知らなかった投手がいる。高校時代は大したことがなくても、4年たったら、ドラフト1位になる。スカウティングをきっちりとやっても、未来予測がきちんとできるわけではないんです。
絞り込みが目的ではなく、1軍を優勝させるためですから、そのためには、選手が多い方がいい。3軍を作って試合ができるのであれば、それはもちろんいいんです。だって、どこからいい選手が出てくるのか分かりませんから。こういうのは思い通りにはいかないんです。ただ、どこまで増やせるかは、さじ加減次第なんです。身の丈に合った中で、何がいいのか。その答えはなかなか出ませんね」
「3軍には、公式戦がないですよね。ホークスはそこが大変なところだと思うんです。そのために、場所も造る。お金もかけて造らないといけない。そこまでやる覚悟がないといけない。人数をただ増やせばいいというもんじゃないですからね」
著者は、選手数と、その選手が「戦力」になる割合について、こんなデータを紹介しています。
2005年(平成17年)から2018年(平成30年)までのドラフトで、育成を含めた指名人数は、ソフトバンクが139人、日本ハムは107人。そのうち2019年シーズンまでに1軍でプレーしたのは、ソフトバンクが75人で、日本ハムは93人。その”昇格確率”は、ソフトバンクの「54.0%」に対して、日本ハムは「86.9%」。
さらに、2019年(令和元年)に、日本ハムで1軍の試合に出場した野手は27人、投手は30人。一方、ソフトバンクは野手30人、投手29人。総人数が日本ハム71、ソフトバンク90だから、その割合からすれば、日本ハムの方が1軍で出られる可能性は高くなる。
2016年(平成28年)の日本シリーズは、少数精鋭の日本ハムと広島。
2019年(令和元年)の日本シリーズは、3軍制のソフトバンと巨人。
育成のトレンドが、その出た結果によって、大きく一方に振れる傾向は否めない。ただ、どちらかにターゲットを絞らないと、結果が伴わないことだけは確かだ。
もちろん、母数が大きくなれば、1軍で出られる選手の割合が下がるのは致し方ないところではあるのですが、セリーグでは、育成選手をたくさん獲っている巨人がしばらく低迷しており(2019年はリーグ優勝しましたが)、「ただ、獲ればいい」というものでもないのです。
人数を増やし過ぎて、目が行き届かなくなるよりは、日本ハムのように「獲る選手を絞って、きちんとプランを練って、試合への出場機会も十分に与えて育成する」ほうが結果が出る場合もあるわけです。
球団経営、という観点からは、費用対効果も考えなければならない。
ソフトバンクの場合は、「一芸にでも圧倒的なインパクトがある選手は獲る」というのと、「大勢の選手を、出場機会もつくって、きちんと育成する」というのを両立させているからこそ「最強」なんですよね。