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災害関連死をめぐる問題 - 津久井進

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1 災害関連死とは

 

「災害関連死」の明確な定義はない。「災害弔慰金の支給等に関する法律」は、「災害により死亡した者」(1条)と規定するだけで、定義規定も具体的要件も定めていない。

 

一般的には、津波や家屋倒壊など災害の直接的な被害ではなく、避難生活の疲労や環境の悪化等により病気にかかったり、持病が悪化したりするなどして死亡することと理解されている。復興庁は、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義付けたが、具体的内容はなお明らかでない。

 

災害関連死をめぐる様々な問題は、定義の不明確さにも一因がある。

2 災害関連死の実情


(1) 東日本大震災


東日本大震災では、平成24年3月31日までに1632人の関連死が報告された1)。都道府県別では、1都9県で事例があり、福島県で761人、宮城県で636人、岩手県で193人を数えた。死亡時年齢別では66歳以上が約9割にのぼっている。



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図1:災害関連死者数の県別割合2)


このうち1263人について復興庁が調査をしたところ、死亡時期は発災から1か月以内で約5割、3か月以内で約8割を数えた。


死亡原因は、全体で区分すると「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が約2割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割だった。


県別にみると、岩手県及び宮城県では、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割、「地震・津波のストレスによる肉体・精神的負担」が約2割。これに対し、福島県では、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が約3割、「避難所等への移動中の肉体・精神的疲労」が約3割、「病院の機能停止による初期治療の遅れ等」が約2割だった。原発事故に伴う避難等の影響は明らかだ。


また、自殺者は13人であった。(末尾の表1参照)


(2) 阪神・淡路大震災


阪神・淡路大震災では、兵庫県の死亡者総数6402人のうち919人(約14%)が災害関連死で、長引く避難所生活で体力が低下して感染症等を発症して死亡した例や、病院の機能低下や停電等によって死期が早まった例が目立った3) 。


神戸市などが計17人の自殺者を関連死と認定し、弔慰金の支給対象としたが、政府は災害死とは認めず、全6434人と公表した死者数に含めていない。災害における死の捉え方について課題が残った。


(3) 新潟県中越地震


新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人(約76%)が災害関連死であった4)。関連死を数多く認めたところに大きな特徴がある。


個別的に見ると、車中の避難者が下肢静脈血栓症・肺血栓症を発症して死亡した例や、地震による過労が原因となり交通事故で死亡した公務員の例などが特徴的である。



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図2:災害別/全死者数中に関連死の占める割合5)


3 災害関連死の判定基準


(1) 判定基準の必要性


災害関連死と判定されると、遺族に災害弔慰金が支給される。したがって、遺族にとっては勿論、支給事務を行う行政にとっても、関連死に該当するかどうかは重要な問題である。


ところが、確立された判定基準はない。厚生労働省は、「認定基準はそれぞれの自治体が独自に判断するもの」との立場だ6)。裁判例では「災害と死亡との間に相当因果関係が認められることが必要である」と判示しているが(大阪高等裁判所平成10年4月28日判決)、その具体的内容はなお解釈を付け加えなければならない。


(2) 解釈方針


災害弔慰金は、遺族に対する弔意及び支援の趣旨で給付するもので、損害賠償金や労災死亡見舞金等とは性質が異なる。


だとすれば、その支給対象となる災害関連死はできる限り広く緩やかに捉えるべきである。


また、相当因果関係の有無は自然科学的な因果関係とは異なる法律上の概念である。したがって、もっぱら医学的な見地から厳格な因果関係を要求するのは制度趣旨にそぐわない。災害がなければその時期に死亡することはなかったと認められる事案については、漏れなく災害弔慰金が支給されなければならない。


例えば、老人が体調悪化により亡くなったケースでは死因が老衰になることは多いと思われるが、たとえ老衰であるとしても、災害がなければその時期に老衰で死亡することはなかったと言えれば、災害関連死と認定されるべきだろう。


また、災害後に体調が悪化した場合は、一旦途中で退院できたとしても、それによって直ちに関連性が失われるのではなく、災害後体調を崩してから災害前と同程度まで回復することのないまま死亡した場合は、やはり災害関連死となるはずだ。


さらに、災害によるストレス等から自殺した場合も排除されることではない。


(3) 長岡基準


新潟県中越地震では、長岡市が独自の基準を立て、東日本大震災では、厚生労働省が一つの参考例として被災地に紹介をした。


長岡基準は、①震災後1週間以内の死亡は震災関連死と推定し、②1ヶ月以内の死亡は震災関連死の可能性が高いとし、③1ヶ月以上経過した場合は震災関連死の可能性が低いとし、④死亡まで6ヶ月以上経過した場合は震災関連死ではないと推定するという時的基準を設けている。


しかし、その科学的根拠は乏しく、あくまで新潟県中越地震を前提としたローカルな基準であって、どの災害にもあてはまる一般的な基準とするには無理がある。避難生活が異常に長引いている東日本大震災に当てはめるべきではない。


他方で、長岡基準は、因果関係について、偶然による事故、重過失、第三者の過失が介在した場合は否定的な要因と捉え、一方、環境の激変については肯定的な要因と捉えている。環境激変の例として、「病院の機能停止による初期治療の遅れ」、「病院の機能停止による既往症の憎悪」、「交通事情等による初期治療の遅れ」、「避難所等生活の肉体・精神的疲労」、「地震のショック、余震への恐怖」、「救助・救護活動等の激務」、「多量の塵灰の吸引」を挙げており、これらは個別案件については参考になる部分である。


特筆すべきは、自殺についても「故意であることだけをもって一概に関連性を否定するものではない」としている点である。発作的なものでなく精神的疾患に基づき、その疾患が震災を契機とするストレスによるものであるとしている点である。これは、労災における過労自死の実務基準に準じたものとして参考になる部分であると考える。


(4) 東日本大震災の判定基準の試み


災害には顔があり、一つとして同じ被害様相はない。災害現象、地域性、環境、社会背景が違えば、被害の有様も違ってくる。となれば、災害関連死のパターンも違ってきて当然である。東日本大震災には、その実情に即した判定のあり方が検討されるべきである。


日本弁護士連合会は、東日本大震災の災害関連死の実情を踏まえ、次のような判定基準を打ち出した。7)


すなわち、①災害がなければその時期に死亡することはなかったと認められる場合はもちろん、②因果関係の途中に因果関係の断絶につながるような事象が若干みられたり、事実認定が困難な空白時期が若干あったとしても、災害がなくても同時期に死亡したことが確実と言えるような場合以外は、弔意の趣旨に沿って災害関連死と広く認定する。③特に、以下の事実に関連して、死亡し、あるいは体調を崩し、あるいは病状を悪化させ、その後震災前と同程度まで体調を回復することなく亡くなった場合等は災害関連死と認めるべき、というものである。


(1) 地震及び津波(地震での怪我、津波で海水を飲んだ、風邪を引いたなど。)


(2) 原子力発電所事故(被ばく、被ばく及びその可能性によるストレス、事故収束作業又は除染作業に伴う疲労等。)


(3) ライフラインの断絶(自宅、避難所、職場、病院等を含む。主に電気の断絶等。)


(4) 避難所、避難先、仮設住宅及び被災した自宅等の住環境の変化(劣悪な避難環境、親戚宅への避難で遠慮して十分に暖がとれなかった、心理的ストレスで体調を崩した、寒すぎる仮設住宅、被災した建物の2階部分での生活、避難先の変更等。)


(5) 周辺の医療機関の状態及び対応の悪化(医療機関自体の被災及び停電により医療機器が使えなくなった、暖房が入らなくなった、災害対応準備のために入院患者を退院させた、必要な薬が不足した、必要な医療器具が使用できない又は患者多数等で転院を余儀なくされたなど。)


(6) 灯油の入手困難及び節電等で十分に暖をとれなかったこと


(7) 体調維持に必要な食事や薬等を入手できなかったこと(持病の薬、流動食、アレルギーに対応した食事等を入手できなかったなど。)


(8) 災害によって生じた人的環境の変化(家族が亡くなった、避難先に知り合いが誰もいなくなった、家族が二重生活を余儀なくされた、解雇された、生業を廃業したなど。)


(9) 災害によって起きた環境変化等によるストレスによる自傷行為等(自殺、アルコール依存等。)


(10) その他災害によって生じた平時にはない特殊な事象(救助活動、ボランティア活動、除染作業等。)



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