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自己責任社会を変えなければ餓死・孤立死頻発も先進国最悪の若者自殺も子どもの貧困連鎖も止められない

いまの日本の「自己責任社会」を変えていかなければ、全労働者の3分の1に広がった非正規雇用の問題も、餓死・孤立死を頻発させる貧困問題 も、子どもの貧困連鎖の問題 も、20代の自殺率はどの世代より高く就活自殺と学生自殺が最多になり先進国で日本だけ若者の死因トップが自殺である問題 も、改善していくことはできません。急務なのは、「自己責任社会」を変えていくことです。そして、その「自己責任社会」の構造上の問題点は、先のエントリー「日本の労働者の賃金依存度を下げ脱貧困の社会保障をつくらなければブラック企業はなくせない」 で紹介したように、日本の労働市場にあります。この労働市場を変えていかない限り、「自己責任社会」から抜け出すことはできません。


先週土曜日に全労連主催で開催された「憲法をいかす国と自治体のあり方を考えるシンポジウム」で、シンポジストの長野県阿智村村長の岡庭一雄さんが「すべての住民が幸せに暮らせなければ公務員労働者に真の幸せは訪れない」と語っていたとおり、餓死・孤立死を頻発させる現在の「自己責任社会」を放置したままで、公務員労働者に真の幸せは訪れないでしょう。


なので、常に大本のところで、「自己責任社会」を変えていくことをめざさなければいけません。目の前でいろいろな問題が起きたときに、「自己責任社会」を変えていくことを大本の軸にして奮闘する以外に展望は開けないと思うのです。


それで、以前ブログで紹介した東京大学名誉教授・田端博邦さんの講演要旨 を再び紹介します。立命館大学教授・唐鎌直義さんの講演要旨「日本の労働者の賃金依存度を下げ脱貧困の社会保障をつくらなければブラック企業はなくせない」 とともに、ぜひ読んでみてください。(byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)


フランスのミッシェル・アルベールは、著書『資本主義対資本主義』の中で、資本主義には「ネオ・アメリカ型資本主義」と「ライン型資本主義」の2つがあるとしています。私は、前者を「自己責任社会」、後者を「社会的責任社会」「連帯社会」と考えています。


アメリカや日本を代表とする「ネオ・アメリカ型資本主義」は、社会生活におけるさまざまなサービスや財のほとんどを「市場財」として供給している市場中心の社会です。日本はまさに「自己責任社会」です。


一方、ヨーロッパ諸国を代表とする「ライン型資本主義」は、住宅・教育・医療・社会保障はもちろんのこと、「企業・賃金」についても「混合財」で供給される「社会的責任社会」「連帯社会」です。「混合財」というのは、民間市場にただまかせるのではなく公的な給付や公共的なあり方が組み合わせられているものということです。


「ネオ・アメリカ型資本主義」では「市場財」である「企業・賃金」も、「ライン型資本主義」では、なかば公共的な「混合財」となっています。それは、企業や労働の世界においても、ヨーロッパではただ自由な市場にだけゆだねられているわけではなくて、なかば公共的な世界になっているということです。


たとえば、労働者の賃金は、ヨーロッパでは産業別労働組合の力によって結ばれる全国的な労働協約で決められます。この労働協約をベースに、労働者の賃金は、仕事の内容とそれに対応する労働者の技能によって決定されますので、企業の大小の違いによっても、正規・非正規など雇用形態の違いによっても賃金格差は基本的には生まれません。パートタイム・有期雇用・派遣労働など非正規雇用であっても、同一の職場で同一の仕事をしていれば正規労働者も非正規労働者も同じ待遇です。北欧諸国の労働組合の組織率は80%以上で、北欧以外のヨーロッパ諸国においても産業別労働組合による労働協約は70%から90%の労働者に適用され、こうした労働組合の大きな力によって、正規・非正規の同一労働同一賃金、均等待遇原則が守られているのです。


賃金・労働条件が産業別に社会的に決定されるヨーロッパにおいては、失業も個々の企業の問題ではなく、社会的に解決すべき問題になりますので、手厚い失業保険や公共的な教育訓練制度の充実がはかられているのです。ところが、日本などの「自己責任社会」においては、失業した場合には、失業保険があるとしても、基本的には自分自身で生活を立てなければなりませんし、また再就職のための教育訓練なども自前の費用でまかなわなければならないというのが原則になります。日本の若者の貧困問題などは、こうした「自己責任社会」の負の側面を示していますが、北欧やヨーロッパでは、こうした場合に生活保障付きの教育訓練機会が提供されるのです。


そして、ヨーロッパでは産業別に労働者の技能によって賃金が決められますから、子どもを育てる際の支出については、賃金とは別に社会保障が必要となるため、労働組合は社会保障を充実・発展させていく役割も果たすことになります。つまり、ヨーロッパの労働者は、技能別のフラットな賃金ですから、子育てなどライフサイクルに応じてかかる支出については、賃金以外の社会保障によってカバーすることになったのです。そういう意味では、ヨーロッパで社会保障が発展した理由のひとつは、労働市場の構造にあるともいえるでしょう。


それから、教育のあり方の問題です。北欧をはじめとするヨーロッパでは、大学の授業料が無料というだけでなく、大学生に生活費が支給されます。つまり、大学に行きたい人は誰でも生活が保障されて通学することができるのです。


ところが、日本などの「自己責任社会」では、教育費はプライベートに負担する考え方が支配的で、とりわけ高額な授業料となっている日本の大学教育においては自己責任が貫徹しています。教育費が私的に負担される「自己責任社会」では、私的負担の教育費は個人がそれによって将来の利益を得るためだけの投資と考えられ、それで獲得した知識や能力は、個人の利益を追求するためだけに使われるべきものと考えられることが多くならざるをえません。その教育費を負担することができない個人は、そうした利益を得ることができませんが、投資をしていないのだからやむをえないという考えが基本的になってしまいます。


逆にヨーロッパなどの「社会的責任社会」「連帯社会」では、教育の機会が親の経済的地位で左右されるのではなく、社会の構成メンバーの経済的能力を高めるためにみんなで支え合う公的な教育を提供する必要があるとベースで考えています。「社会的責任社会」「連帯社会」では、教育への投資は、個人の「自己責任」ではなく、「社会の責任」ですから、教育の成果は、個人の利益だけに還元されるべきものではなく、社会に還元されるべきものとなります。ヨーロッパでは、大学まで含む教育全体が公共サービスと考えられているのです。


私は「自己責任社会」と「社会的責任社会」「連帯社会」の大きな違いが、この教育に対する考え方にあるように思えるのです。教育を提供する社会の考え方と、教育を受ける個人の考え方は、相互に強め合う関係になるのではないでしょうか。教育を自己責任にしないで社会の責任として提供する社会には、社会的な意識の高い個人が生み出され、そうした個人が構成する社会はさらに強い「社会的責任社会」「連帯社会」を生み出していき、まったく逆の流れで、教育を自己責任とする社会では、さらに強い「自己責任社会」が生み出されてしまうことになると考えられるかもしれません。


雇用や教育、社会保障、住宅などの公共的な支えが弱くなればなるほど、人々は「自己責任」で暮らさざるをえません。公共性の欠如は人々の利己心を増殖し、公共支出の増加は、利己心から人々を解放するといえるでしょう。


そして、雇用や教育、社会保障、住宅などの公共支出は、先進主要国の中で北欧がもっとも高く、日本がもっとも低い水準にあります。ところが、新自由主義の台頭や「大きな政府」批判は、先進国でもっとも「小さな政府」である日本において猛威をふるっています。


世界でもっとも「大きな政府」を持つ国のグループに入るスウェーデンで、2006年9月に保守政党が政権をとるという政権交代がありましたが、そのとき選挙で勝利した保守政党が掲げた政策は、「大きな政府」「福祉国家」を維持するというものでした。北欧では保守政党にまで「大きな政府」が国民の利益になると考えられているのです。


日本のようなもっとも「小さな政府」の国で、「大きな政府」への批判が起きるのは、政府に対する不信がベースにあるからだと考えられます。それは、日本における民主主義の欠如などから、政府支出をコントロールできないので、高い税金を払っても、国民のためには使われないだろうとする考え方が支配的になっているということでしょう。そうだとすると、日本において「大きな政府」「福祉国家」をつくっていくためには、政治的な民主主義をきちんと確立していくことと、自己責任ではなくて、お互いがつながっていく共同・連帯を、国民の間で発展させていく必要があるということになります。

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