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「ずばりわかる」があふれる時代に、武田砂鉄氏がおぼえた違和感

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複雑な事象を噛み砕き、端的に説明する。時間を取らせないように、短くまとめる。ビジネスシーンではよくあることだが、いつのまにかニュースや書籍もわかりやすさをウリにしたものが増えている。

そんな状況に異論を唱えるのが、ライターの武田砂鉄氏だ。同氏はこのほど、『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)を上梓し、わかりやすさ重視の世の中に問いを投げかける。

わかりやすさを求める時代の問題点はなんなのか、同氏に話を聞いた。

BLOGOS編集部

「ずばりわかる」わかりやすい情報がど真ん中になった

——『わかりやすさの罪』拝読しました。読んでいて、なかなか難しい本だなと思ったのですが

わかりにくいですよね。自分で、できあがってきた本を読み返して、なんだかいちいち面倒くさい人だなと思いましたから(笑)。

——cakesなどで長年やっているような(cakes連載「ワダアキ考」)、他の連載とは少し違いますよね

cakesの連載もそうですが、今までは、人物や物事などの対象を定めて、その上で自分の見方を書くことが多かった。でも、今回は「わかりやすさ」という抽象的なものを捉えていく本なので、何かきっかけとなる出来事や言葉を見つけるたびに、そこを掘ってみて、これってこうじゃないかな、別の面から見たらどうかと、迷いながら書くこととなりました。

読んでくださる人も、なんだか、ついていくのがしんどいなと思うかもしれません。でもそれは「サクッとわかってもらっちゃ困る、こっちだってよくわかってないんだし」という、この本の背骨でもあるので、なんとかついてきてください、という作りにしたつもりです。

——このインタビューが載るのはネットニュースで、いわばわかりやすさの極地みたいなところです

確かにそうですね、いわれてみれば。

——多くの場合ネットニュースというのは、わかりやすいものをつくって、いかにたくさん読ませるかということに腐心しています。そうしたコンテンツがいまものすごく多いのですが、それについてはどうお考えですか

そういうニュースをつくっている側が悪い、という気持ちもどこかにはあるんですけど、ただただそれをつつきたいわけではないんですよね。

自分の危機意識は、わかりやすく、短く整理された情報が世の中のど真ん中に居座りつつある、ということなんです。そういうものって、これまではあくまでも補足的なものでした。導入部分に置かれているものでした。だからこそ、その補足や導入を見たとしても、周辺や奥地にある情報、すぐには目に入らない情報にも意識を向けていた。ところが今は、短く整理されたものをそのまま受け取って終わっちゃうんです。

この本の中でも、池上彰さんに触れていますが、池上彰さん本人の見解がどうのこうのというよりも、池上彰的な「ずばりわかる!」という情報が知性として一番素晴らしいものだという前提になってしまいそうで、果たしてそれでいいんだろうか、という気持ちがあるんです。

BLOGOS編集部

わかりやすい本は☆5、わかりにくい本は☆1?

——そう思うようになったのは、何かきっかけがあったんでしょうか

フリーのライターになる前、10年近く出版社で働いていたんですが、自分が担当した本のAmazonレビューを見ると、「よくわかりました」「よくわかりませんでした」という意見が年々目立ってきているように感じたんです。本に対する評価も、「わかる」が星5で、「わからない」が星1。一体これはどういうことなんだろうかと。

フリーになったあとも、最初に出した本『紋切型社会』のレビューに「何が言いたいのかわからない」、「できることなら凡人にもわかる明快な文章を書いて欲しいと思う」なんて書かれていた。それでも読んでくださったのはありがたいんですが、なんで、わかりやすくないといけないのか、と思ったんですね。

——本に対して、わかりやすさだけが評価の対象になっていたんですね

そうです。自分が勤めていたのは老舗の出版社でしたが、いぶし銀のベテラン編集者がずらりと揃っていて、それぞれがすさまじい知識を持っていました。で、その環境にいると、若手ながら、「いやー、わからないっす」と言うことは恥ずかしいことでした。

わからなくても、ちょっと無理して、「ああ、そうそう、あれですよね」なんてやり過ごして、あとで必死に文献を読んでみる、なんてことをしていたんです。

——わからなくてもその場では背伸びをして、あとで勉強するということですね

はい。でも今は「わからないです」とすぐに言い出せるようになってきています。知識の量で発言権の有無が決められる世界もよろしくないですが、かといって、「わかるように言ってくれないのが悪い」という態度をベースにしたくないというか。

——確かに、わからないことはわからないと言うというのは、今の雰囲気かもしれません

これは自分の見立てなんですけど、情報を発信する側が、「これでわかりますよね? とにかく時間はかけさせませんので、とにかく、ぜひ、これに触れていってくださいよ」をやりすぎたからではないかと思うんです。その姿勢が積もると、顧客がどんどん偉そうになって、わかりにくいものの価値が認められにくくなる。

こうなると、とりわけ分厚い本や長尺のドキュメンタリーなど、受け手に大量の情報を与えて、そっちのペースでじっくり咀嚼してください、というメディアや文化が生き残りづらくなります。それってなんだか寂しいなと思ってしまうんですね。

——そういう雰囲気が醸成されると、あらゆるところで自然と短い、サマライズされたようなものが増えてきますね

音楽もそうですよね。自分が20代前半の頃、ケータイの着信音を音楽にできる「着うた」が盛り上がり、サビだけ聞ければそれでいい、なんて時期があった。今はさらに進んでストリーミング文化になり、楽曲をつくる側も、とにかく即座に好きになってもらう意識が強く、これはこういう音楽だぞ、とわからせることを重視する。

自分はメタルやプログレのようなクドい音楽が好きで、場合によっては、一曲15分20分くらいあったりする。そういう曲って、何度か聞いても、その全体像がよくわからないんです。「なんだこの曲は」となる。でも聴いていくうちに、あのポイントが良いなとか、発見を重ねて、自分の体に馴染ませていく。学生時代から今に至るまで、そういう付き合い方をしてきたので、短い間でいい気分になってください、というものに対する抵抗感があるんです。ちょっとした中年の懐古主義みたいなところではあるんですけど(笑)。

BLOGOS編集部

わかりやすさが求められるようになったのはなぜ?

——なぜそんなふうに「わかりやすさ」が求められるようになっているのだと思いますか

ドーハの悲劇ってありましたよね。1993年、サッカー日本代表がイラク代表にロスタイムに追いつかれて、初のW杯出場を逃してしまった。当時、自分は小学生だったんですが、最後に失点した時、キーパーの松永成立がヘディングシュートに対して横っ飛びをせずにそのまま見逃した。理由は色々あったんでしょうけど、その翌朝、学校で友達と「松永はなぜ飛ばなかったのか?」という論争になったんです。なぜそういう論争ができたかといえば、その場で見られる素材や情報がなかったからですよね。今なら、すぐYouTubeで動画を見たり、あるいは検索したりして、プロの解説を目にすることができる。そういう状況だと、持論をぶつけ合いながら、ああだこうだと議論する事ができないですよね。これはスポーツだけでなく、ドラマや映画、ニュースでもそう。ひとつの話題に対して付随する情報がいくらでも手に入る環境だと、人と意見を揉む前に、「正解に近い、そして、わかりやすい情報」を得ようとしてしまいますよね。

それでいいのだろうかという疑いって、自分たちくらいの世代はなんとなく備わっているけれど、もっと若い人にとっては疑いではなく、デフォルトですよね。だから、「別にいいじゃん、それで」「みんなこう言ってるよ」になる。でもそれは、良い悪いではなく、そういうふうに育ってきたってだけなんですよね。

——もちろん、上の世代にもそういう人はいるだろうし

「ずばりわかる」がずっと流行っているのは、その証拠だと思います。今を生きる人たちの多くはとにかく忙しくて、頭の容量が常にいっぱいになっている。だから、少しの時間で有益なものをください、いちいち悩ませないでください、という傾向が強まっているんだと思います。

——本書には「少しの時間で有益なものを」というニーズを反映したサービスとして、要約ビジネスについても書いてありますね

「要約ビジネス」なるものがあって、この本のように長ったらしく書いてあるものを要約して、月に◯本送るんで、月額いくらで、とお金をとってるんです。受け入れがたいサービスなので自分の本に対する依頼があった場合は断っていますが、その要約にお金を払う人たちがいるんですよね。

本の内容を雑巾みたいに絞って、養分だけを飲み込みたいらしい。でも書いた人間からすれば、その養分は何か、なんで要約サービスに決められなきゃいけないのかと思うんです。かっこよく言えば、全てが養分のつもりでこっちは書いているし、読む人に自由に養分を絞り出してもらいたい。「なんの養分もないな」でも構わない。でも、勝手に養分を絞られてしまう。

もちろん書評や、雑誌などで紹介する際のあらすじというのはこの本に誘い出すものだから、要約ビジネスとは違います。「勝手にエキスを絞り出せる」とする態度、そして、それを商売にする態度に、一体何様だい、と思うんですね。

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