
作業服専門店からアウトドア・カジュアルウェアを展開する派生店、そして10月16日には女性をターゲットにした新業態「#ワークマン女子」までオープンさせ、ますます勢いに乗るワークマン。だが、拡大一辺倒の戦略には不安もつきまとう。ファッションジャーナリストの南充浩氏が、ワークマンの現状と今後についてレポートする。
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新型コロナによる店舗休業から、まだまだ消費回復には程遠いが、中には好調な衣料品ブランドもあります。その筆頭格は何といってもワークマンでしょう。売上高の規模はともかくとして、伸び率は今でも高いものがあります。
8月、9月の月次売上速報では、既存店売上高の伸び率は8月が前年比10.9%増、9月が同9.6%増と幾分鈍化しましたが、これは昨年に大幅に伸びているためです。昨年8月は既存店売上高が54.7%増と驚異的に伸びています。9月度はそこまで大幅には伸びていませんが、それでも前年比16.1%と伸びています。一昨年の9月と比較すると実に27%増です。
毎年何十%増のペースで売上高を増やし続けることが不可能に近いことは、日々、ビジネスをなさっている皆さんには理解しやすいのではないかと思います。そのため、必然的に衣料品業界やそれに付随する業界、メディアなどからのワークマンへの期待値は高まり続けているといえます。
新素材を使った「ダウン」の機能性
実用性主体と少しのファッション性という点においては、ワークマンの商品への需要はまだまだ伸びしろがあると思います。
例えば、ダウン混の保温ブルゾン「フュージョンダウン」(税込み3900円)は個人的にも注目している新商品です。特に、針を刺してもその穴を指でこすると穴が塞がってしまう「リペアテック」という新素材を使用したフード付きダウンはメディアもこぞって取り上げています。ダウン混シリーズはこれ以外にも何型かありますが、リペアテック素材を採用しているのはこのフード付きだけです。
「ダウン」といっても純粋なダウンではありません。異素材と「フュージョン(融合)」させているわけです。中綿の組成は全型共通で、ダウン45%・フェザー5%・ポリエステル40%・アクリル10%という複合素材となっています。要するにダウンと高機能合繊をフュージョンさせた機能性中綿だということになります。通常のダウンよりも2度衣服内気温が高くなるとのことなので、冷え性の人には非常に良いのではないかと思います。
一方で、注目のリペアテックですが、注意書きとして「針の太さは直径0.9mmまでの対応」とカタログに書かれていて、これ以上の太さの針を突き刺すと穴は塞がらないということなので注意が必要です。
また、「ダウンの弱点だった洗濯ができるようになりました」と明記されています。水洗いできる機能性に喜んでいる人は多いと思いますが、もともとダウンは水洗いできるアウターなのです。
ダウンというのは鳥の羽毛です。とくに水鳥の羽毛やガチョウの羽毛が使われますが、水鳥もガチョウも池や湖で生活し、水面に浮かんだり潜ったりしています。必然的に体表にある羽毛は水に強いのです。水に弱い物質に覆われているはずがありません。
ですから、ダウンジャケットは通常、水洗いできるのです。水洗いできないダウンジャケットは中に詰められている羽毛の問題ではなく、覆っている外側の素材に問題があります。基本的にポリエステルやナイロンなどは水に強いですから、通常のダウンジャケットは水洗いできます。しかし、ウールやレザーのダウンジャケットは水洗いすると縮んだり変色したりする可能性が高いので避けたほうが良いのです。
「ワークマン女子」の課題は品揃え
このように、作業服で培った機能性を武器に一般ユーザーも幅広く取り込んでいるワークマンですが、アウトドア・カジュアルウェア業態の「ワークマンプラス」は、メディアへの過剰露出も相まって、かつてのような衝撃度は若干薄れてきた感があります。
そこで、今年10月16日、女性ターゲットの新型店舗「ワークマン女子」を横浜(神奈川県)にオープンさせました。
一般ユーザー向けの衣料品で売上高を拡大しようとすれば、レディース客を取り込む必要があります。ユニクロも20年前は男性購買比率のほうが高かったのですが、レディース比率を高めたことで今の成長があります。ですから女性向けというのはビジネスの理には適っています。
ですが、ワークマン女子の品揃えについてはいささか疑問です。同社によると、当初は女性向け製品数が足りないので、当面女性売上は全体の3割を目指し、ゆくゆくは〈女性4割、ユニセックス2割、男性4割〉にする方針だといいます。現状目標がレディース3割で中長期目標がレディース4割です。これが果たして「女性向け」でしょうか? ユニセックスも含めると男性比率のほうが高いのです。
ここから導き出される結論は、ワークマンがこれまでやってきた従来型店舗とワークマンプラスで同じ製品を置く(陳列する比率は変わるが)という政策は「レディース店」推進では破綻をきたしているということです。レディースの売上高を伸ばしたいなら、レディース専用商品の開発料を格段に増やさねばなりません。
もともと作業服というのは、どうしても男性比率が高くなります。そのため、ワークマン社内には男性向け企画に長けた人は多くいるでしょうが、女性向け、しかも一般女性ユーザー向けの企画ともなると、社内にノウハウも蓄積されていません。この部分は決して付け焼刃で対応できるほど簡単ではないでしょう。