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UBSの1万人リストラとスイス政府の決断

Financial Timesが26日に、スイス最大手の投資銀行であるUBSが10,000人規模のリストラを断行すると報じた。僕が最初にこのニュースを見た時、誤報だと思った。UBSは傘下に商業銀行も資産運用会社もプライベート・バンクも抱える巨大な金融コングロマリットである。なぜ、誤報だと思ったかというと、UBSの全従業員数は6万人ほどしかいないからだ。だから、ゼロの数をひとつ間違えていると思った。

さらに、UBSは、日本でいう三菱東京UFJ銀行みたいなもので、従業員の多くがスイス国内のリテールビジネスに従事しており、投資銀行の従業員数は全世界で1万人ほどしかいないのだ。その記事は、リストラの多くが、投資銀行のトレーディング部門などで行われると書いてあった。つまり、ほとんど全員リストラすることになってしまう。しかも、UBSは2008年のサブプライム危機で記録的な損失を出したが、最近の業績はよくもないけど、そこまで致命的に悪いというほどのものではなかった。ますます、なぜそんなに大量のリストラを行わなければいけないのか、疑問だった。ちなみに、外資系証券会社の社員というのは、自社の重要な決定は、いつも外部のニュースから知らされるので、知り合いのUBSの社員に聞いても、リストラが本当かどうかは分からない(苦笑)。

しかし、その後、ロイターやブルームバーグも同様のニュースを報じ、どうやら本当であることが分かった。そして、今日、正式に発表された。僕にはひとつの確からしい仮説が思い浮かんだ。つまり、水面下で、スイス政府から強烈な圧力を受けていた、ということだ。

大統領選挙次第ではあるが、アメリカはかなり強硬な金融規制をやろうとしている。アメリカの投資銀行の主要な収益源である自己勘定トレーディングを大幅に制限しようとしているのだ。これは米系の投資銀行の手足を自ら縛るようなものだ。そうすると、明らかに大きすぎてつぶせないから、暗黙の政府保証があり、堂々と国民の金で博打が打っている欧州系のユニバーサル・バンクの方が競争上優位になる。だから欧州の金融当局は、なんだかんだいって規制改革をやってるフリをしながら、いまのやり方を変えないだろう、と思っていた。

スイスは小さな国だが、世界有数―もし世界1でなければ―の金持ち国であり、その富の源泉は、UBSやクレディ・スイスなどの世界的な金融業である。そのスイス政府が、自国の銀行を本気でつぶしにくるとは、あまり想像できない。そして明らかにこれらの投資銀行は、スイス国内でも強大な政治力を持っているのだ。ところが、である。

拙著『外資系金融の終わり画像を見る』にくわしく書いたように、UBSやクレディ・スイスの資産規模は自国のGDPをはるかに上回っている。2008年の世界同時金融危機では、スイス政府は、なんとかこれらの巨大金融コングロマリットを救済したが、他国からの資金援助が必要になっていた可能性も十分あった。スペインやギリシャのような、クソのような三流国家みたいに。

スイスは、永世中立国で、EUにすら加盟していない国である。主権というものを何よりも大切にしている。おそらくスイス政府は、自国の金融機関が規制などにより、国際金融マーケットでの競争力を多少なくすことになっても、次の金融危機でアメリカやEU、中国などに救済を要請しなければいけないかもしれないという屈辱的なリスクを無くす方を取ったのだと思う。他国に救済されれば、主権が脅かされかねないからだ。

他にも自国のGDPに匹敵する資産規模を持つ金融機関を有する国がフランスとドイツである。スイスやフランスやドイツは、これらの金融機関が破綻した場合、自国だけでは救済できな可能性があるのだ。僕の仮説は、何ら裏取りされたものではないが、UBSの恐ろしいほどの人数のリストラは、世界の金融システムを変えていこうという何か大きな力が働いているように思える。

これでオバマ大統領が勝利し、アメリカの投資銀行も解体の方向に行くとしたら、本当に世界の金融コングロマリットの終わりがはじまったのかもしれない。巨大金融機関を解体して、失敗しても納税者に迷惑をかけないような専門分野に特化した多くの小規模なプレイヤーにリスクを分散させていくべきだ、と『外資系金融の終わり画像を見る』に書いたのだが、それはあくまで机上の理想論であり、各国の利害が鋭く対立する国際金融の世界で、そのようなレギュレーションが整備されることはないだろう、と内心あきらめていた。

しかし、意外とはやく、巨大金融コングロマリットが解体されていく世界が訪れるのかもしれない。

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