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「できないときは諦めます」「心の中でごめんなさい、って」永作博美50歳が明かす“強さ”の理由 映画『朝が来る』主演・永作博美さんインタビュー - 木俣 冬

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 カンヌ国際映画祭公式選出作品でもある河瀨直美監督の『朝が来る』。そこで永作博美が演じた役は、愛する夫との間に子供ができず、養子をもらい愛情こめて育ててきたある日、本当の母親と名乗る人物が現れて心揺れる主人公。

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 不妊、血のつながらない息子との関係、子供を手放さざるを得なかった若い母親……次々と訪れる難題にひとつひとつ向き合っていく主人公の強さは、永作本人の資質であろうか。

 仕事も家事も、すべて全力でやりながらも、「できないときはすぐに諦める」「心のなかで『ごめんなさい』と思いながらそっと調整します」と、からりと笑顔で語る永作に心が軽くなった。

 なんでもやろうと思い過ぎると心が折れてしまうものだから、適宜、柔軟でいること。それこそが永作博美をエターナルに輝かせる秘密かもしれない。

 もっと詳しく話を聞いてみよう。


永作博美

◆ ◆ ◆

まるで二重生活のような「役積み」

――『朝が来る』の河瀨直美監督ならではの演出方法「役積み」(撮影していないときにも役を演じて役の経験を積む)によって、撮影前に夫役の井浦新さんとデートをしたり、子役の佐藤令旺さんも交えてマンションで生活したりしたそうですね。

永作 まず、河瀨監督から「デートに行きます」と言われ、栃木県の大谷資料館に行きました。その際、「夫(清和)の誕生日プレゼントを買ってきて」とも言われたので、一生懸命悩んで選んだものを持参して。井浦さんの演じる役を想定して選んだものを井浦さんは役になりきっているかのようにすごく喜んでくれました。それから有明の高層マンションで一緒に暮らしました。

――実際に一緒に暮らしたんですか?

永作 井浦さんも私も各々家庭がありますので終日共に過ごすことはできなかったのですが、朝、マンションに来て、それぞれがなんとなく自分の定位置につき、「ごはん食べましょう」「お父さん、今日は仕事だから『行ってきます』しようか」などという日常の再現からはじまって、「今日はお休みだからママ友と一緒にみんなで遊ぼうか」という日もあれば、子供の誕生会をしてみたりもしました。

 映画のなかで部屋に飾ってある誕生会の写真は、実際に「役積み」したときに撮影したものです。その日、私は誕生会のために唐揚げをたくさん揚げました。

――実際にごはんまで作ることは大変じゃないですか。

永作 ふだんやっていることですからさほど苦ではなかったです。ひかり役の蒔田彩珠さんは、奈良の実家と設定されたところで家族役の俳優たち4人で1ヶ月間暮らして、地元の中学校に通っていますからね(笑)。それに比べたら私の「役積み」はたいしたことなかったです。

 ただ、子供の食の好みを知るまでは心配で……。何が好きかわからなかったのでプロデューサーに「お母さんと話をさせて!」とお願いして、「朝斗(子供の役名)が好きなものと嫌いなものを教えてほしいんです!」と電話してリサーチしたものを作りました。

――それをプライベートの家庭の支度などもしながらやっていたわけですか。

永作 そうですね。家に帰ればまたもう一回、家族の食事を作っていました。

――二重生活みたいですね(笑)。

永作 そうそう、まるで二重生活です。どちらが芝居なのかよくわからなくなりそうでした(笑)。このような経験は俳優人生ではじめて。ずっとその役として過ごせるという喜びは、役者としてはとても貴重でありがたい経験でした。映画はあくまで虚構ですが、そこに描かれるリアルに極限まで近づけてもらったことで演じるうえでの不安がなくなりました。

 ほかには、私たちが演じている夫婦は養子をもらう設定なので、実際に特別養子縁組の書類を書いて、NPOの団体の方に面接をしていただくという体験もしました。そういうことも含め、なにかあるごとに、どうしたらいいか井浦さんと相談して考えることで、撮影のときに本当の夫婦のような呼吸を作りあげることができたと思います。

「ごめんなさい」と思いながらそっと調整

――俳優は「自分とは違うものをやりたい」「これまで演じたものとは違うものを演じたい」という願望もあると聞くこともあります。今回の場合は自分と役が混ざっていくわけですね。

永作 確かに「自分と違うものをやりたい」という方も多いですね。でも私は、それがあまり得意ではないんです。そもそも、自分と全く違う人になれるのかなと思うんですよ。だから、役に自分に寄ってきてもらいつつ、私も寄り添うぐらいがちょうどいい。それを監督に気づかれないようにそっとやっています(笑)。

 監督のやりたい方向にはできるだけ応えたいんですよ。でも、ごくまれに、そこまで要望を聞いてしまうと、自分の中で少し違和感が残りそうだという思いがよぎることがあって。そういうときは心のなかで「ごめんなさい」と思いながらそっと調整します。

――素晴らしい調整力ですね。

永作 全然素晴らしい話ではなく、要望どおりにできなくてごめんなさいという話なのに?(笑)

――コトを荒立てない範囲で自分にも負荷をかけ過ぎないことは大事だと思います。『朝が来る』で監督にそっと「ごめんなさい」したところはありますか。

永作 今回の“役積み”に関しては、やればやるほどそこの大切さを感じ、なるべくミッションを遂行したいと思っていました。唯一、お断りしたのは、栃木にデートに行ったときです。監督に「井浦さんとふたりで温泉に泊まらない?」と提案されて、「ちょっと難しいです」と。

 井浦さんが「明日、朝から子供の学校行かないといけないんだよね」と言うから「じゃあ泊まれないね。私も帰らなきゃいけないしなあ」とこれもふたりで相談して決めました。

監督が感じた、井浦新との“上下関係”

――そもそも俳優が当人と全く違う人になれるのかということは興味深いです。

永作 それはかつて「自分は役者に向いてないんじゃないか」と思ったきっかけでもありました。20代後半から30代前半くらいでしょうか、自分とまったく違う人物を演じることができるものだろうかと悩んでしまって。

 そのときにある名女優の言葉を読んで「役だけど私」「私だけど役」でいいのだと確信して、以降はあまり迷わなくなりました。

――今回の佐都子という役は、次々と大変な体験をしながら、最終的に受け入れる度量と精神的強さを感じました。そこには永作さんらしさも入っていると考えて良いのでしょうか。

永作 年齢に限らず、なにかあったとき、やっぱり女性は強いと思います。

――女性が強いという一般論になるのか、演じている永作さんの強さなのか……。

永作 自分のことはあまりよくわからないですけれど(笑)。原作では夫の年齢が上で、妻の佐都子のほうが少し下という設定でしたが、撮影が始まる前の私たちの様子を見ていた監督が年齢設定を逆にしたんです。

 どうやら、私たちのやりとりに明らかな上下関係を感じたらしく(笑)。実際、井浦さんは年下だということもあって、そのほうが監督の求めているリアルに近づけると考えられたのでしょうね。

――「強いね」と言われることはないですか。

永作 そんなふうに私のことを誰もほめてくれないです(笑)。佐都子については、台本を読んだとき、ずいぶんしっかりした女性だと思いました。

 そこで、一見、なんでもよくできる優秀な人物が、実はまだまだ成熟していなくて、様々なことを体験して揺れながらようやく成熟の域に達する、その過程を演じるにはどうしたらいいだろうと。結婚前は仕事のできる女性だったのが、結婚してからはきちんと揺れて、きちんと悩んで、きちんと崩れるところを見せたかったんです。

――永作さん自身がそういうふうに悩んで、成熟の域に達した体験はありますか。

永作 成熟にはなかなか届きません。今はただ毎日必死なだけです。でもきっと、納得いくときがあると思うんですよね。ないこともあるのかもしれませんけれど……。たとえなかったとしても、寿命が来たとき、私の人生、「ああ気持ちよかった!」と思って死ねたらいいですよね。

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