記事

世界一充実した日本の育休制度が、女性のキャリアアップをかえって邪魔してしまうワケ

2/2

育休取得率の高い二カ国との差は歴然

ノルウェーではかつて育休取得率が4%と低かったものの、1993年にパパクオータ制(父親割当制度)を導入し、現在の取得率は90%です。給付金に関しては、期間に応じて給付率が変わる制度を導入しています。

スウェーデンでは夫婦で合計480日(約1年4カ月)の育休取得が可能ですが、それぞれが90日以上取得しなければなりません。給付金は、産休10日間が100%給付、390日までは80%給付となっています。現在は約88.3%の男性が取得しています。

この二カ国では、男性の育休取得率が日本の女性の取得率を上回っていることに愕然とします。北欧では、たとえ大臣であっても男性が育休を取得するのが一般的で、小泉進次郎議員が環境大臣就任中に育休取得を示唆しただけで、賛否が巻き起こった日本との違いは非常に大きいと言えるでしょう。

日本の男性育休は短すぎる

なお、「残業しない国」として知られるドイツの男性育休取得率は34.2%。取得率では北欧諸国に及びませんが、ドイツの制度にはユニークな点が多くあります。給付金を半額にする代わりに育休期間を倍にすることが選択できたり、復職後に両親ともに短時間勤務をすると別途手当が支給されたりと、単に育休取得の促進だけでなく、その後も持続可能な働き方が根づくような仕掛けがうかがえます。

小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)
小室淑恵、天野妙『男性の育休』(PHP新書)

また、日本とともに世界での出生率下位を争うポルトガルは、2009年に産後10日間の父親限定休業を義務化しました。義務化期間を除いた取得率は23.8%ですが、義務化の対象となる産後10日間の取得率は68%。義務化されているにもかかわらず、100%にほど遠い数字には疑問を持たれる方も多いと思いますが、これらの数値は、出生数に対しての比率であり、公務員や銀行員などが含まれておらず、実際の取得率よりも低く見積もられているようです。2000年における男性育休取得率は11%だった同国ですので、義務化によって取得率が高まった国として、日本が見習える部分は多くあると思います。

取得率もさることながら、私が注目しているのは、日本で育休を取得した人たちの取得期間です。

厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」によると、育休を取得して職場復帰した男性の実際の取得期間は、5日未満が約36%、2週間未満と合わせても約71%と、ごく短期間が大多数を占めていることが分かっています。2012年や2015年と比べると、5日未満の取得者数が減り、5日~2週間未満が増えたことは読み取れますが、2週間未満で括ると、2012年が約61%、2015年が約75%。つまり、男性育休の取得期間は、2週間以内が標準と言えるでしょう。女性の取得期間と比べると、その短さは歴然としています。

実は日本の制度は世界一

ここまで日本が世界的に見ても出生率が低いこと、そして同じように出生率が低い国と比べても、男性の育休取得率がいまだに一桁台と致命的に低いことを示してきました。

ただ、制度の中身に目を向けると、日本は世界的に見ても非常に手厚い男性育休制度を有しています。2019年に発表されたユニセフの「子育て支援に関する報告書」によれば、「有償の産休・育休取得可能週数」において、日本は30週と、取得可能週数で見れば世界第1位。2位の韓国(17週)、3位のポルトガル(12週)を大きく引き離しています。

とはいえ、報告書では、日本の低い取得率に対して厳しい目が向けられています。35%の男性が「取得したくても取得できない」という日本の実態が指摘され、人手不足、男性育休が歓迎されない空気、作業負荷、育休がキャリア形成に支障をきたすなどの理由で取得が難しいことも併せて紹介されています。

日本の育休文化は、女性のキャリアの邪魔をしている

世界ダボス会議が毎年発表する「GGGI(男女格差指数)」のランキングで、日本とともに毎年下位を争っている韓国。実は韓国では、2000年初頭に女性の育休取得率が20%を切る状況でしたが、法改正や給付金の給付率を上げるなど施策を重ね、女性の取得率はほぼ100%近くなり、男性も13%と上昇し、日本の倍の取得率となっています。

韓国の制度で面白いのは、最初に育休取得した親(主に母親)は3カ月間80%の給付で、次に取得した親(主に父親)は3カ月間100%給付となり、パートナーに育休のバトンを渡すと給付率が上がる仕組みになっていることです。

私は、待機児童対策のための法改正にあたり、2017年3月に衆議院の厚生労働委員会に参考人として招致された際、男性育休の普及につながる施策として「パートナーにバトンを渡すと給付率が上がる」韓国式を提案しました。ただ、残念ながら、その年の3月末に育児休業が2年まで延長可能となり、実質女性側が育休を延長する仕組みとなったため、男性育休取得推進にはつながりませんでした。

女性だけに休業させる育休制度は、女性の長期的なキャリア形成の妨げになります。育休から復帰した女性を補助的な業務に異動させ、昇進や昇格には縁遠いキャリアコースに乗せることを「マミートラック」と言いますが、女性のみが休業することを前提とした育児支援は、マミートラックを助長させることになるのではないでしょうか。

世界有数の手厚い制度が整備されているにもかかわらず、男性育休の取得率が圧倒的に低い現状は、マミートラックを生み出し、日本の女性活躍を妨げる一因になっているとも言えます。

----------

小室 淑恵(こむろ・よしえ)

株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長

資生堂を退社後、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立。1000社以上の企業や自治体の働き方改革コンサルティングを手掛け、残業を削減し業績を向上させてきた。その傍ら、残業時間の上限規制を政財界に働きかけるなど社会変革活動を続ける。著書に『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』(ダイヤモンド社)他多数。

----------

----------

天野 妙(あまの・たえ)

合同会社Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表

日本大学理工学部建築学科卒業。株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)等を経て、性別・役職・所属・国籍に関係なく、お互いが尊敬しあう社会づくりに貢献したいと考え、起業。ダイバーシティ/女性活躍を推進する企業の組織コンサルティングや、研修など、企業の風土変革者として活動する傍ら、待機児童問題をはじめとした子育て政策に関する提言を行う政策起業家としても活動中。

----------

(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵、合同会社Respect each other代表、みらい子育て全国ネットワーク代表 天野 妙 写真=iStock.com)

あわせて読みたい

「育児休暇」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    音喜多氏が居眠り謝罪 歳費返納

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  2. 2

    感染拡大するスウェーデンの日常

    田近昌也

  3. 3

    テレ東が先陣 マスク着用で好評

    BLOGOS しらべる部

  4. 4

    毎日が40億円超減資で中小企業に

    岸慶太

  5. 5

    SEXなく…夫に不倫自白した女性

    PRESIDENT Online

  6. 6

    プペルも? 泣くための映画に疑問

    かさこ

  7. 7

    菅首相 イエスマンだらけの失策

    毒蝮三太夫

  8. 8

    鼻マスク失格 秩序守った監督官

    木走正水(きばしりまさみず)

  9. 9

    医療整備に腹くくれない首長たち

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    慰安婦判決に感じる韓国の価値観

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。