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  • 2020年10月24日 10:56 (配信日時 10月24日 08:17)

バイデン氏が抱えた“爆弾”攻撃不発の大統領に反転の足掛かり - 佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

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11月3日の米大統領選に向けた最後のディベート(テレビ討論会)が10月22日、南部テネシー州ナッシュビルで開かれ、共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領が激論。逆転に意気込んだ大統領の攻撃はほぼ不発に終わった。だが、バイデン氏が「石油産業の閉鎖」に踏み込んだ発言をしたことで激戦州に“爆弾”を抱えることになり、大統領は反転への足掛かりを得た格好だ。

石油産業を破壊しようとしている

今回のディベートは投票日前の最後の直接対決の場だった。ディベートは当初、3回計画されていた。しかし、トランプ大統領が今月初め、新型コロナウイルスに感染したことから15日に予定されていた2回目がオンライン形式となり、これを大統領が拒否。結果として22日のディベートが最終回となった。

第1回目は大統領がバイデン氏の発言を再三妨害、これに同氏も反撃して中傷合戦になり、政策論争はほとんど行われなかった。このため今回は、主催者側が、討論議題のそれぞれの冒頭発言の際、一方のマイクを切る措置を導入。大統領も不規則発言を自重し、論戦を交わした。CNNのディベート後の勝敗調査によると、バイデン勝利が53%、トランプ勝利は39%だったが、ほぼ互角というのが一般的な見方だろう。

大統領はウイルス感染から復帰した以降、激戦州を中心に積極的に遊説を行い、その効果もあってリードを許しているバイデン氏との支持率の差が徐々に縮小。22日現在、世論調査をまとめている「リアル・クリア・ポリティクス」によると、全米平均で7.9ポイントの差となっている。激戦州では、7ポイント以上離されていた東部ペンシルベニアで4.9ポイントまで差を縮め、中西部オハイオでは大統領が逆に0.6ポイントリードしている。

バイデン氏がディベートで踏み込んだ発言をしたのは気候変動についてだ。同氏は争点になっているシェール石油のフラッキング(水圧破砕法)に関しての応酬の際、大統領から「石油産業を終わりにするのか」と問われ、「石油産業を転換するつもりだ。なぜなら、石油産業は大気を著しく汚染するからだ。新しいエネルギーへの転換のプロセスの一環とすべきだ」などと応じた。

これにトランプ大統領は鬼の首を取ったかのように「それは大きな話だ。ビジネス上、大きな間違いだ。基本的に石油産業を破壊しようと言っている。(石油ビジネスに依存する)テキサスやペンシルベニア、オハイオを忘れていないか」とたたみかけた。米紙は、これはトランプ氏が仕掛けた“罠”と指摘しており、早くも南部オクラホマ州から連邦議会に立候補している民主党候補はバイデン氏の発言に反対の考えを明らかにしている。

南部テキサスは共和党の地盤で、トランプ氏の優位は動かないと見られるが、シェール石油の生産地であるペンシルベニアやオハイオ、フロリダ各州はバイデン氏の発言に影響を受ける可能性がある。トランプ氏は今後、遊説でバイデン発言を大きく取り上げ、雇用を奪うとして徹底的に叩き、逆転につなげようとするのは確実だ。

ワシントン・ポストによると、バイデン氏はディベートを終えた後の空港で、発言について釈明。「化石燃料を排除するということではなく、石油会社への補助金を取りやめるということだ」などと記者団に語った。同氏は新エネルギーへの転換で、新たに何千万人もの雇用を生み出すとしているが、トランプ氏につけ入るスキを与えることになったのは事実だろう。

攻勢目立ったバイデン氏

今回のディベートでは、トランプ氏がバイデン氏を「副大統領を含め、47年間も公職に就いてきたのに何もしなかった」などと批判し、同氏の息子が外国から巨額の金を受け取っていた疑惑を繰り返して、「汚職まみれの政治家」というレッテルを張ろうとした。

これに対してバイデン氏は効果的なカウンターパンチを浴びせてはね返した。同氏は大統領が精力的に遊説を行っている間に、ディベートに備えて徹底的にリハーサルを重ねてきたとされ、その成果が出た格好だ。発言の間、マイクオフでトランプ氏に邪魔されなかったこともプラスになった。

新型コロナウイルスの感染拡大について、大統領が「ウイルスは中国のせい」「収束が見え始めている」などと自らの対応を弁護したのに対し、バイデン氏は「22万人もの多くの国民が死亡した責任を負うものは大統領職にとどまるべきではない」と、トランプ氏の資質に大きな疑問を呈した。

トランプ大統領が根拠を示さないまま唐突に、バイデン氏がロシアから350万ドル(3億6000万円)もらっているなどと金銭問題を追及した際には、大統領が納税申告書を公表していないことを引き合いに出し「何を隠しているのか。外国企業はあなたに多くを払っている」と逆襲した。

黒人差別などの人種問題では、大統領が「ここにいる誰よりも私は人種差別主義者ではない。(黒人奴隷解放をした)リンカーンを除いて、自分ほど黒人社会のために貢献した者はいない」と誇示した。これにバイデン氏は「この場にいる“リンカーン”は近代史上、最悪の人種差別主義者大統領の1人だ。あらゆる差別主義者に油を注いでいる」と皮肉交じりに反駁した。

選挙戦は残すところ10日を切った。ニューヨーク・タイムズによると、すでに4800万人が期日前投票を行っている。トランプ陣営のステペイン選対本部長は共和党関係者に対し、トランプ氏の再選の道が「危険なほど僅か」であることを認めているという。その意味で大統領は今回のディベートでバイデン氏を圧倒できなかったのは痛い。大統領としては激戦州で、同氏の「石油産業の閉鎖」発言を喧伝し、土壇場の大逆転につなげたいところだ。

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