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中小企業金融円滑化法

最近、地元をずっと回っていて、中小企業の社長の方々と話していると一番の関心事項はこれです。政権交代後、亀井金融担当相が打ち出したイニシァティブが結実したものです。当時は「利払いのモラトリアム」といった報道がなされましたが、大塚耕平副大臣が実務的に非常にうまく纏めたものです。

 内容はと言うと、金融機関に貸付条件の変更を応じる「努力」義務を課すということが主たるものです。そして、金融機関にどの程度の変更に応じたか等に関する金融庁への報告義務を課しています。また、金融庁は特別検査ということで、本件に関する検査を行っています。その結果、実際の貸付条件の申し込みと実行の状況について聴取してみると、ほぼすべての申し込みについて貸付条件の変更に応じてきています。この法律により貸付条件の変更を行い、その間に事業を立て直した中小企業の方は多いと思います。亀井大臣はこの法律で、中小企業経営者の方のハートをグッと掴みました。

 ちょっと話が余談に流れますけども、私の有するお役所文学の常識において「努力義務」というのはとても扱いが下がります。外交の世界では「make efforts」と入った瞬間に「やっても、やらなくてもいい」ということで任意の扱いになり、その部分は条約等を国内制度に落とし込む時も視野から殆ど消え去ってしまいます。そういう文化観でいたので、この法律の努力義務についても「まあ、大した効果は期待できないかもな」と思っていましたが、現状にはちょっと驚きではあります。努力義務であっても、金融庁から言われると逆らえないのだな、という権力の強さを改めて感じました。

 ただし、この法律は時限立法ではありますが、二度の延長を経ています。前回の延長の際に再延長はないということを金融担当相が明言しており、来年3月末でこの法律は終わります。条件変更しても経営改善計画の策定を行わない中小企業者が多いとの指摘もなされています。金融庁は「貸付条件の変更の取組は定着してきている」と言っていますが、法律が切れた後、資金繰りが苦しくなった社の倒産ドミノが出てくるのではないかというのが現在の懸念です。ということで、金融庁から色々と話を聞いてみました。

 金融庁が強調していたのは「この法律がなくなっても枠組み自体はあまり変わらない」ということでした。本来ですと、貸付条件の変更を行った債権は不良債権扱いになるわけですが、現在、検査マニュアルの中で、基準金利がきちんと取れていたり、経営改善計画が策定されていたりすれば、債務者区分の中で不良債権扱いしないということが徹底されています。そこは円滑化法が終了した後であっても全く変化がないということです。「ここの誤解がなかなか解けないんですよね」と金融庁の方は言っていました。

 だとしても、金融機関の行動原理として、努力義務がなくなったら貸出条件の変更そのものに応じることが激減するのではないかという当たり前の疑問が湧いてきます。その入り口のところが狭くなってしまえば、どんなに債務者区分のところで従前の手厚い対応をするとしても意味がないわけですから。

 金融庁からは「金融機関に中小企業再建のためのコンサルティング機能をより発揮するよう求める監督指針は引き続き残る。その中で金融機関には企業の経営改善に向けた努力を求めていくし、再生できる企業には努力を傾注するよう求める。その一環として、引き続き貸出条件の変更には応じてもらいたいと思っている。」というような答えがありました。簡単に言うと、法律で努力義務を課していたものを、もっと下の監督指針のレベルで類似の効果を担保しようとしているように聞こえました。また、企業再生支援機構を活用したり、地域毎に中小企業再建のための協議会を設けたり、政府系金融機関の関与を求めたり、と色々なメニューを用意しているようではあります。

 私なりに、金融庁が「ポスト中小企業金融円滑化法」として考えていることを纏めるとこんな感じです(間違っているかもしれません)。私はしっかりとやっている中小企業の方が再生していけるように金融機関の方にもご尽力いただく必要があると思います。その一方で、過度のモラルハザードが生じるようなことがあってはならないとも思います。再生のための計画策定等、やるべきことをやらずに、ただ、この円滑化法で複数回貸付条件の変更をするのは、本来の金融機関に求めるべきものを超えているとも思います。実際、金融機関は「ポスト中小企業金融円滑化法」に向けて引き当てを増やしているとの話もあります。

 リーマンショック後の緊急措置として、中小企業金融円滑化法は十分にその役割を果たしたと思います。今後はどうソフトランディングを図っていくかです。金融庁は中小企業金融円滑化法終了の意味合いをミニマイズしようとしているように聞こえましたが、多分、相当なインパクトはあると思います。くれぐれも企業再生の可能性を有している中小企業の強制退出にならないよう、よく注視していきたいと思います。

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