- 2020年10月23日 09:57 (配信日時 10月23日 09:15)
「次につぶれるのはウチだ」トヨタ幹部が真顔でつぶやく自動車業界の危機感
1/2新型コロナウイルスの影響で打撃を受けた自動車業界は、大きな変革期を迎えている。トヨタ自動車の経営幹部は「上場企業で次につぶれるのはウチだ」と危機感を隠さない。長年トヨタを取材してきたノンフィクション作家の野地秩嘉氏が、その背景を解説する――。
※本稿は、野地秩嘉「「次につぶれるのはトヨタだ」|『トヨタ物語』続編連載にあたって 第1回」(note)の一部を再編集したものです。完全版はこちら。
広州モーターショーに出展された日産自動車のリーフ(左)とトヨタ自動車のコンセプト車=2017年11月17日、中国・広東省広州市 - 写真=時事通信フォト
「自動車製造」から3年で大変化
わたしが2018年1月に出した『トヨタ物語』の末尾の1行は次の通りだ。
「自動車製造はまったく夢のような仕事じゃないか」
確かに、その時点でトヨタは「自動車製造の会社」だった。
ところが、ほぼ3年の間に、トヨタは大きく変わった。自動車を作っていることは作っているけれど、いわゆる車を作るだけのメーカーではなくなった。
まず、車は次々とコネクティッドカーになっている。いわば走る通信機械だ。車が故障したり、調子が悪くなっても、通信サポートサービスを提供する関連会社「トヨタコネクティッド」のセンターから車の状態が診断できるようになっているし、カーナビなどソフトのアップデートも自動更新だ。
この場合、ドライバーはトヨタコネクティッドに通信料を払っている。この売り上げは製造業ではなく、サービス業としてのそれだ。
また、物流を見ると、部品を調達する物流、完成車の物流、サービスパーツの物流のいずれもがトヨタ生産方式のノーハウを生かして効率化された。物流革命とも言えるもので、ヤマト運輸、佐川急便の売り上げの何割かに相当するような巨額の原価低減となっている。
商品である車を売ることも大事だが、原価を低減すれば利益は増える。物流の大きな原価低減ができたのは、やはりサービス業としての自覚があるからだろう。
ライドシェアもコロナ禍で下火に
そして、販売である。新型コロナウイルスの蔓延もあり、世界的に車の売れ行きは見通すことはできない。
この間、販売に関する環境は大きく変わった。たとえば、新型コロナウイルス以前、車は自己所有からライドシェアへ変わるとされていた。ウーバー、グラブといったシェアビジネスの会社が時代の先端を走っていたのである。
ところが、状況は一変した。感染症を恐れることから、ライドシェアでも相乗りサービスがなくなった。今後も、感染症の脅威は続くから、相乗りサービスは復活しないだろう。そして、残ったシェアサービスにしても、これまでのように成長するかどうかは疑わしい。
ただし、ウーバー、グラブといった会社が消えてなくなることはない。どちらもライドシェアだけでなく、食事のデリバリーなど日常生活に関わるサービスをやっているからだ。ライドシェアよりも、生活サービスの部分が成長していくだろう。
ネットで車を買う時代がやってくる
新型コロナウイルスのために、世界の進歩には加速度がついた。時計の針が進んだのである。
世界中で在宅勤務は劇的に増えるだろう。店舗で買い物をせずにネットに頼る客もさらに増えていく。小売店、販売店といったところは増えるどころか減っていく。
むろん自動車の販売店も減っていくだろう。2017年、『トヨタ物語』の取材で米テキサスへ行った時、あるオーナーは「アマゾンが自動車を売るようになる日はすぐに来る」と言っていたけれど、ネットで車を買うことは当たり前になる。販売店は自動車を売ることよりも補修・修理サービス業としての比重が高まるだろう。
トヨタは販売店に対して、矢継ぎ早の政策転換を促している。
まず、どの販売店もすべての車種を売ることができるようになった。かつてはトヨタ販売店ではクラウンを専売し、トヨペット店はカムリを売っていた。もう、そういうことはない。どこでも、トヨタのすべての車を売ることができる。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomeng
そして、それもつかの間だろう。いずれはさらに進化する。トヨタに限らず、日産だろうが、ベンツだろうが、あらゆる会社の車を売る販売店が現れ、かつ、部品を揃えて、サービスや補修もするようになるだろう。
かつて日本各地の商店街にはナショナル、日立、東芝といった特定企業の製品を売る販売店があった。しかし、今はもう、多くの家電販売店はどこの会社の製品も売っているし、修理する。修理というよりも、あらゆる家電製品は修理するよりも新品を買う方がリーズナブルになっている。車だって、そういう風にならないとは限らない。
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