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世界でも珍しい「自殺予防担当相」を設置の英国 いのちを支える現場にコロナ禍の壁

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日本では、著名人の自殺報道をめぐり、厚生労働省が「子どもや若者の自殺を誘発する可能性」があるとして、メディアにセンセーショナルな報道を控え、支援方法や対策を正しく報じるように呼びかけている。

著名人の訃報を過剰に報じることで、「後追い自殺」を誘発してしまう可能性もある。筆者が住むイギリスの「医学会会報」に掲載された調査(今年3月)によると、著名人の自殺報道から1、2か月の間に自殺者が通常よりも13%増えたという。

自殺を選択肢にしない・させないためには、何ができるのか。

2018年から「自殺予防担当相」が置かれているイギリスの状況を見てみたい。

日本より自殺死亡率低いイギリスで命を断つ若者が増加

Getty Images

日英の状況を比較してみる。

警察庁の自殺統計によれば、日本における昨年の自殺死亡率(10万人あたりの自殺者数)は16.0で10年連続低下した。男性の死亡率は22.9で、女性(9.4)の約2.4倍だ。

自殺者の総数は20,169人(前年比3.2%減)。男性が14,078人で全体の69.8%を占めた。

イギリスの自殺死亡率は11.2と日本に比べて低い。国家統計局によると、自殺者総数は、2018年で6507人。イギリスの人口は日本の約半分の6700万人ほどで、これを加味しても2万人を超える日本よりはかなり低い。

日本同様、男性の比率が女性よりも高く(男性が75%、女性が25%)、男性の自殺死亡率は17.2だが、女性は5.4。年齢層では、45歳から49歳の自殺率が男女ともに最も高い。

一方、自殺者数は増加傾向にある(総数比較で前年比10.9%増)。近年、大きな懸念となっているのが若者層(16-24歳)の自殺者の増加だ。若者層の死因のトップとなっており、特に20-24歳に限ると、前年比で31%増加している。

自殺予防の電話相談などを行う慈善組織「サマリタンズ」の調査によると、自殺の主な原因として、「身近な人が亡くなった」、「暴行を受けた」、「自傷行為」、「心身の不健康」、「学業のプレッシャー」などがあげられる。自殺に関連する情報をネットで閲覧していた場合も高い比率となっており、若者がスマートフォンを使って利用する様々なサービスの弊害もありそうだ。

また、過去15年ほど、特に若い女性を中心に自傷行為が大きく増えている。サマリタンズはなぜ自傷行為が増えているのかは「不明」としているものの、感情が高ぶった時に、気持ちを落ち着かせる方法として使われており、これが長期間続くと自殺行為に陥りやすくなるという(サマリタンズ、「自殺統計リポート」、2019年12月)。

 

自殺予防担当相を設置したイギリス

2018年に自殺予防担当相を新設したテリーザ・メイ前首相:Getty Images

イギリスは2018年、自殺予防対策を担当する大臣(「患者保護・自殺予防・精神の健康大臣」)を新設した。話題にすることがタブーになっていたメンタルヘルスをめぐる状況の改善を重要視したテリーザ・メイ首相(当時)が設置を決めた。現在は、ナディーン・ドリーズ担当相の主導で自殺予防のために地方自治体、慈善団体、医療関係者とのネットワークが構築されている。

今年3月には、新型コロナウィルスの感染拡大を背景にリスクが高い人々への支援策を打ち出した。慈善団体に対しサービス拡充のために500万ポンド(約6億円)を拠出し、公衆衛生を担当する「パブリックヘルス・イングランド」のウェブサイト上に自殺予防のための新たなアドバイスを掲載した。エリザベス女王の孫にあたるウィリアム王子夫妻はメンタルヘルス向上のために積極的に活動している。

現在、自殺予防対策を主導するナディーン・ドリーズ担当相:Getty Images

新設からまだ2年程ということで、自殺予防担当相の設置効果を測るのは困難だが、専門の大臣を置いたことでメンタルヘルスについて語ることへのタブー感が薄れる効果はあったといえよう。ウィリアム王子夫妻、著名人などがメンタルヘルスの悩みをメディアを通じて語ったり、調査番組が制作されたりしている。

しかし、コロナ禍の影響で、心に問題を抱える人が支援を利用しにくい状態となり、孤立しやすい状況が生じている。

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