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似てるか似てないか、それが問題だ。

今年もまだまだある…と思っている間に、いつの間にか「12月号」になってしまったBLJ誌。

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BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2012年 12月号 [雑誌]


巻頭から、京大の潮見佳男教授が登場して高らかに「財産法の現代化」を唱える、というエキサイティングさには、さすがBLJ、という感もあるのだが(笑)*1、全体的には、これまでの何号かに比べると比較的落ち着いた、という印象を受ける号になっている。

そんな中、自分が一番注目したのは、やはり「FOCUS」というコーナー(?)の「似てる?似てない?著作権侵害の判断の基本」という特集。

メインは唐津真美弁護士*2が執筆された記事で、多岐にわたる「著作権侵害」の論点の中でも、特に「翻案権侵害」にフォーカスし、様々な判例を紹介しながら、「似てる」か「似てない」か、の判断基準について説明を試みようとする興味深い論稿である。

取り上げられている判例は、著作権法を学んだことのある人なら、大体頭に入っているようなシンプルなものばかりなのだが、そこは著作権の記事に関しては一味違うBLJ誌のこと、「翻案」の解説には必須の「原告著作物と被告作品の対比」をカラー刷りの紙面を存分に生かし、大きなスペースを割いて掲載することで、ビジュアル的にも美しい紙面になっている*3。

もちろん、著者ご自身が記事中で悩みを吐露されているように、いくら裁判例を並べて比較したところで、裁判所の判断基準というのが予測が難しい代物であることに変わりはないわけで、この記事を読んで、“気持ちがすっとした”という読者はそんなにいないのではなかろうか。

明らかに具体的な表現を離れて翻案権侵害を認めてしまっている「パンシロン」事件(大阪地判平成11年7月8日)のような判決が、今の知財部で出るとはちょっと考えにくいから、これについてはあまり深く考えなくてもよいと思うのだが*4、この記事の末尾でも紹介されている「釣りゲーム」事件のように、最近でも地裁と高裁とで、判断が大きくひっくりかえってしまったような事例があることを知ってしまうと*5、悩みはますます深くなってしまうことだろう。

そして、この後に続く、匿名の実務担当者名で書かれている記事も、そんなモヤモヤ感を払拭するものではなく、さらに輪をかけて、悩みを深くするような内容になっている。

たとえば、一番最初に出てくる「ゲーム会社」の担当者が

「参考にしたものと似ているかどうかの判断にあたっては、まず全体像(構図、印象)ではなく個々の要素(人物の目、髪型・髪の色、服装など)を比較します。」(24頁)


といったかと思えば、最後に登場する「映画会社」の担当者は、

「ストーリーや一連の映像、音楽などを総合的に組み合わせて作られたものは、全体を通じて見るものですから、コマ送りにしても意味がないでしょう。」(27頁)


と述べられるわけで。

扱っている著作物の内容に違いはあるとはいえ、コンテンツ業界を代表するような上記お二人のアプローチの違いには明らかに異なるところがある。そして、その真ん中に挟まれた「テレビ局」の担当者のコメントも合わせて読むと、混迷はますます深まってくる・・・。

法務の現場感覚の生の声は、大変貴重なもので、自分も読んでいていろいろ興味深く思えるくだりは多かったのだが、“オチ”がないのが、気になるといえば気になるところであった*6。

なお、個人的には、「テレビ局」の担当者が、今まさに文化審議会法制問題小委員会のWGで議論されている「パロディの個別制限規定の創設」に着目し、

「現在文化庁で検討されているパロディの個別制限規定の創設が、こうした「阿吽の呼吸」を無視して、番組制作を委縮させるような規定にならないかという危惧を覚えており、今後の改正動向を注視したいと思っています。」(27頁)



と述べているくだりが興味深かった、ということを、申し添えておきたい。

いずれにしても、著作権にかかわるものにとっては一読の価値がある、そんな特集であるのは間違いないところである。

*1:個人的には、「物権」の肝である物権的請求権について何ら条文が置かれていない上に、近年の多様な“情報財”の登場に何ら対応できていない物権法の見直しの方が、債権法の見直しよりもよほど急ぐべきことだと思っているから、何年か後に、潮見教授が今の某参与氏のような獅子奮迅の活躍を見せて、民法の物権編を一気に書き換えてくれないものか・・・と密かに期待したいところである。

*2:著者は福井健策弁護士率いる「骨董通り法律事務所」所属の弁護士。

*3:「みずみずしい西瓜」の写真は、何度か見たことがあったが、カラーで見たのは実は初めてだったりもする。

*4:元々、この事件は、「原告作品に依拠して作成された複製物」を被告側のデザイナーが“参考にして”新たな作品にした、という事件で、依拠性についてはあまり争う余地がないものだったゆえに、それに引きずられる形で「被告図柄が原告著作物の二次的著作物にあたる」という判断も、いともあっさりなされてしまったのではないかと思われる。判決を読んでも、争点はもっぱら「被告の過失の有無」の点に偏ってしまっているように読める(もちろん、二次的著作物であることをあっさりと認める判決のスタンスゆえ、当事者の主張が“編集”された可能性もあるが。

*5:個人的には、地裁の判決が異常に広く著作権侵害を認めてしまっただけで、最初から控訴審のような判決が書けたはずの事案だと思っているが・・・。

*6:ちなみに、自分が担当部署にアドバイスをする際には、「ちょっとでもクレームがついたらダメ」な案件なのか、それとも、「ギリギリのところまで攻めてよい」事案なのか、ということを必ず最初に確認するようにしていて、それにより、「似ている」のハードルの上げ下げをしている。「似ている」という感覚は、極めて主観的なものだし、自分の作品に思い入れが強い著作権者ほど、その範囲は広い(苦笑)から、そこを気にするのであれば、最初からこちらの作るものは、原作品から遠くへ、遠くへ、と持っていくに限る。逆に、その感覚が、法的に「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる」というレベルのものとして裁判所に認められるためのハードルはかなり高いから、少々のクレームなら受けて立つ覚悟があるなら、ギリギリまで攻めても、まぁ何とかなる。個人的には、本誌の特集にも、そういった点を踏まえたコメントが入っていれば、なおよかったような気がしている。

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