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無謬の政治家の陥穽について

石原慎太郎東京都知事が知事職を辞任して、国政進出めざして新党の党首となることになった。「第三極」を結集するとして、維新の会、みんなの党との連携・連帯を模索しているが、政策の擦り合わせがうまくゆかない。

原発稼働にしても、TPPにしても、消費増税にしても、領土問題へのアプローチにしても、三党間にはかなりの隔たりがある。政策上の差異は調整可能であるということで、とりあえず維新の会と石原新党は連携の方向だと今朝の新聞には書いてあった。維新の会はたしか、その前日に政策上100%の一致がない政治組織とは組織的な連携はしないということを各地の「維新の会」に対して通告していたはずだが、石原新党とはOKらしい。

政策上の差異は調整可能なのか、調整不可能なのか。判断はケースバイケースであるらしい。まあ、好きにすればいいと思うけれど、政党が重要な政治的決定を下すときの根拠についての説明をそのつどころころ変えるとあまりよいことはない。

選挙民にとってというより、政党ご自身にとって。政策が状況によって変わるのは当然のことである。前とは事情が違ってしまったのだから、判断も変わる。それを責める人はいない。

けれども、それでも、どこの「事情」がどう変わったのかについての説明責任は残る。判断が変わったということは、自分が以前になした「未来予測」が外れたということである。なぜ、自分は予測を誤ったのか。どのようなデータの入力を忘れたのか。どのファクターの現実性を過小評価したのか。どのファクターの現実性を過大評価したのか。なぜ、そのような評価ミスを犯したのか。どのような推論上の瑕疵があったのか。それが「失敗から学ぶ」ということである。

同じ失敗を二度と繰り返したくないと願うものは、自分の失敗について、ていねいな吟味を行う。誰のためでもない、自分のためである。だが、世の中には、自分の判断ミスを決してて認めない人たちがいる。石原慎太郎はそういう人の一人である。

つねに自分は正しい選択だけをし続けてきて、一度も失敗をしたことがないという「物語」のうちで彼は自分の政治家としての自己史を語っている。もちろん、彼が掲げた約束の中には実現しなかったものがあるし、無惨な失敗に終わったものもある。でも、それを彼は「失敗」とは総括しない。「邪悪な勢力による妨害工作によって」成功するはずのことが頓挫させられたという「物語」に回収して、話を済ませるのが彼の風儀である。

自分の選択も、その実現のための行動も100%正しかったのだが、それが成功しなかったのは、100%外部の邪悪な干渉ゆえである。そういう話になっている。とても、わかりやすい。今回の石原新党もうそうである。

「官僚」が諸悪の根源として、彼の「よき思念」の物質化を妨げているという「物語」になっている。だから、「官僚支配打破」が石原新党の党是の根幹となっている。あ、そうですか。

でも、この「諸悪の根源」にすべてを還元して話を単純化するのは、あまり賢いやり方とは思えない。というのは、それは都知事時代に「よい」政策を起案したり、実施しようとしていたときに、彼がこの「諸悪の根源」の組織力や行動を過小評価していたということを意味するからである。それほど巨大な「悪の組織」が現に活発に機能していることを、国会議員を20年やってきた政治家が「気づかなかった」というのは、あまりにナイーブに過ぎる。いや、気づいていたし、現にそれと戦ってきたのだと彼は抗弁するだろう。

でも、気づいていて、戦ってきて、その挙句に「いいようにされた」のであれば、それは彼が政治家として無力だということを意味してしまう。どちらにしても困る。自分の「敵」の力量や行動原則についてまったく知らぬまま政治家として何十年も過ごしてきたのであれば、彼は国政を議するにはあまりに愚鈍だということになる。わかった上で「敵」と戦ってきて、結果ぼろ負けしたというのがほんとうなら、彼は国政を委ねるにはあまりに無力だということになる。

誤解して欲しくないが、私は石原慎太郎が愚鈍であるとか無力であるとか言っているのではない。彼はなかなかにスマートで有力な政治家である。私は彼の政治的力量を過小評価したりしない。だからこそ「官僚が諸悪の根源だ」というのは彼の「つくりばなし」だと思うのである。自分の失政の理由をアウトソーシングしたくなるのは、「勝率10割」にこだわることができるほどにスマートで有力な政治家だけが罹患する「病気」である。

けれども、彼自身がスマートで有力であればあるほど、彼の政策の実現を妨害できる「敵」はその分だけ巨大で狡猾な組織にならざるを得ない。論理の経済がそれを要請するのである。これが「勝率10割にこだわる人間」すなわち「すべての失敗の理由を外部化しようとする人間」の陥るピットフォールである。彼が有能で賢明であればあるほど、そんな彼を効果的に妨害でき、彼が果敢な戦いを挑まねばならぬとされる相手もまた彼と同じように強力で狡猾なものへと競り上げられてゆく。

ここまでもけっこう怖い話だが、ここからあとがもっと怖い話になる。自分ほど賢く力のある人間の政策実現を阻止できるほどに賢く強い組織が「外部に存在する」という物語をひとたび採用したあと何が起るか。人は自分のついた「嘘」を補強するために行動することを余儀なくされる。彼のついた嘘を本当らしくみせるために一番効果的な方法は何か。それは失敗することである。

さまざまな「よき計画」を提言するのだが、それがことごとく阻害され、挫折させられるという事実が、彼の語る物語の信憑性を高めるもっとも効果的な方法なのである。ほら、ここでも、ここでも、サボタージュが行われていて、実現されるべき「素晴らしい政策」が葬り去られている。ああ、なんという悲劇であろう。

そう慨嘆してみせることで、彼は彼の作り出した「物語」の信憑性を維持しようとする。つまり、彼は自分が起案した政策が失敗した場合でも、その失敗から「利益」を引き出すことができるようになる。成功すれば、それは自分の功績である。失敗すれば彼の作り出した物語の信憑性が高まる。成功しても、失敗しても、成功する。それが「失敗を認めない」人が陥る「落とし穴」である。

「働いても、さぼっていても、働いていることになる」というルールで働かされている労働者の就労態度がどのようなものになるかは、想像してみればわかる。石原慎太郎は都知事の途中から、あきらかに都政に興味を失っていた。それはそうだろうと思う。「成功しても、失政を犯しても、何をしてもしなくても、つねに成功している政治家」という必勝モデルを自分のために作ってしまったのである。そりゃ、退屈するだろう。

だから、尖閣列島が彼を惹きつけたのだと私は思っている。これはとりあえずゲームの相手に総理大臣と外務省を引きずり出すことができうる。うまくすれば中国の国家主席がゲームの相手である。誰が出てこようとも、彼らが全力で石原慎太郎の「憂国の赤心」の実現を阻むことは間違いない。ほら、こんなふうに「巨悪」がいて、私のやりたいことを阻むのだ。

というふうに、ある時点を越すと、「成功しても、失敗しても、いつでも成功する政治家」は無意識のうちに「よりスペクタキュラーな失敗」を願うようになる。必ず、そうなる。そうしないと、話が「保たない」からである。領土問題の「スペクタキュラーな成功」は都知事の権能の範囲にない。そうである以上、彼にできる最大限のことは「派手な失敗」である。

彼の夢の実現が遠のけば遠のくほど、彼の理想の実現を阻む「諸悪の根源」はさらに全知全能のものになってゆき、「単身でその巨悪と戦うサムライ」という彼のセルフイメージはいっそう輪郭を鮮やかなものしてゆく。きっと楽しい人生なのだろうと思う。けれども、彼によって「外部化」され続けている「失敗」の代価はいったい誰が支払うことになるのか。それについて彼は考えることはあるのだろうか。たぶん、ないのだと思う。「失敗を外部化する政治家たち」こそが「諸悪の根源」であるという「悪の外部化」の言葉が今私の喉元まで出かかっている。

でも、「それを言っちゃあ、おしまい」なのである。彼らを生み出し、彼らにそのようなふるまいを許してきたのは私たちであり、その限りにおいて、彼らがなすすべての失敗は私たちの失敗なのである。その失敗を自分のものとして引き受ける以外に、彼らが犯すさまざまな失敗の被害を最小化する方法はない。

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