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政府の「ジビエ拡大」が一石二鳥どころか机上の空論であるワケ

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政府は鳥獣被害対策としてジビエ(野生鳥獣肉)の拡大を目指している。朝日新聞科学医療部の小坪遊記者は、「鳥獣被害対策を進めたい農村の立場は、おいしいジビエを食べたいという消費者の立場と逆行する。メディアが美談として取り上げるジビエ活用は、実際のところ机上の空論にすぎない」という――。

※本稿は、小坪遊『「池の水」抜くのは誰のため?』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

「自然と農山村を守る狩猟のつどい」でジビエのフレンチ料理を試食する菅義偉官房長官(中央)。左は大日本猟友会の佐々木洋平会長「自然と農山村を守る狩猟のつどい」でジビエのフレンチ料理を試食する菅義偉官房長官(中央)。左は大日本猟友会の佐々木洋平会長=2020年1月29日、東京・永田町の自民党本部 - 写真=時事通信フォト

被害減少と農村の所得向上を同時に狙うが…

あえて乱暴に言ってしまえば、「わかりやすい筋書き」に沿って描かれた話がメディアには溢れています。生き物との付き合いにおける誤った行為を美談として取り上げたり、勧善懲悪な視点で描いたりするものも少なくありません。

こうした記事や番組が、時に大きな反響を巻き起こし、場合によっては望ましくない方向に事態を導いてしまうこともあるのです。

ではどんな「メディアのストーリー」に気をつけるべきなのか。こう言うからには、私の所属する朝日新聞の記事にまず登場してもらいましょう。

「ジビエ拡大、官邸主導で 鳥獣被害対策、菅氏が旗振り役」(朝日新聞デジタル 2017年4月28日)
シカやイノシシなど、農作物に深刻な被害を与える野生の鳥獣。安倍政権きっての実力者である菅義偉官房長官が旗振り役になり、政府が対策に乗り出すことになった。目指すは野生鳥獣肉(ジビエ)の利用拡大。官邸主導で盛り上げ、被害減少と農村の所得向上という「一石二鳥」を追おうとしている。
菅氏は28日の記者会見で「スピード感をもって政府をあげて対応策に取り組んでいきたい」と強調。27日に首相官邸であった関係省庁による会議では「全ての省庁一体となって取り組んでいく」と発破をかけた。ジビエの利用拡大には、安全性の確保や肉のカットの共通ルール化、安定的な供給などが課題とされ、課題解決への対応を速やかにまとめる方針だ。

鳥獣害について聞いたことのある人は多いでしょう。動物が農作物や水産物を食べてしまったり、一部の動物が増えすぎることで生態系がゆがんでしまったり、貴重な生物が数を減らしてしまったりすることなどが主な被害です。

他にも生活圏に出て来た動物に感染症をうつされたり、道路に飛び出されて交通事故になったりすることも鳥獣害と言えるでしょう。農家の収益ややりがいに直結し、時に人命を脅かし、地域社会の存続にも関わる問題です。国や自治体としてはどうにかして抑え込みたい被害です。

本当にジビエは鳥獣被害対策の万能薬になるのか

代表選手はイノシシとシカです。農林水産省によると、2018年度の農作物の鳥獣被害は158億円。そのうちシカは約54億円、イノシシは約47億円で、サルが約8億円と続きます。

 国などは、これらの動物について、2011年度を基準として、シカを320万頭から2023年度までに152万頭、イノシシは98万頭を50万頭にまで半減させる計画を立てています。

 いずれも近年少し減る傾向にありますが、2017年度の全国のシカの頭数は310万頭程度、イノシシは約88万頭と推測されています。依然として多く、目標が達成できるかどうかは不透明な状況です。

道路上の鹿※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Carol Hamilton

そこで注目されているのが、「ジビエの活用」。捕獲されたイノシシやシカの肉は食べることができ、毛皮は製品に活用できます。駆除するだけではなく、命を奪うからには、その肉や毛皮を大事に使おう。あわよくば、それを産業にして、農村振興にもつなげよう、そんなコンセプトがうかがえます。

私も都内のジビエ焼き肉店を訪れたことがありますが、とてもおいしく、食べながら話のネタにもなり、楽しい会になりました。ジビエ活用は、消費者にとっても悪くない取り組みのようにも思えます。

記事にあった「被害減少と資源の活用という『一石二鳥』」だけでなく、農村の所得向上や、消費者の楽しみを増やすことも加えた「一石四鳥」くらいにはなりそうです。一見したところ、ジビエこそ鳥獣被害対策の万能薬のようにも感じられます。

でも、そう簡単には行きません。

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