- 2020年10月20日 07:22
「英国病」と「日本病」の大いなる違い
■「英国病」とは何かを理解するべき
「英国病」という有名な言葉がある。「ゆりかごから墓場まで」という同じく有名な言葉が示すように、イギリスは第二次世界大戦後、社会主義的な政策を押し進め過ぎたことによって、インフレ率がどんどん上がっていき、1970年代にはインフレ率が10%を超えたことはよく知られている。
行き過ぎた社会保障制度の構築によって、人々が真面目に働かなくなり、その結果、悪性のインフレ(スタグフレーション)が進んだ。そのインフレ不況を是正するべく颯爽と現れたのが、後に「鉄の女」と呼ばれ有名になったサッチャーだった。ハイエクを支持していたサッチャーが行った政策は「サッチャリズム」と呼ばれ、現代で言うところの「新自由主義」的な経済政策だった。
サッチャーは国営化されていた国のインフラ事業を続々と民営化し、規制緩和によって自由競争を押し進めた。
これら一連の政策によって「英国病」を克服したサッチャーは「名宰相」として歴史に名を残すことになった。その影響もあるのか、日本では多くの政治家がサッチャーに憧れる向きが強く、サッチャーのような政治を行うことが理想であり、英雄の条件だと思われている。
しかし、ここで立ち止まってよく考えなければならないのは、サッチャーは“インフレを退治した”ということである。これはどれだけ声を大にしても足りないくらいに重要なポイントでもある。これを理解するだけで、現在の日本の不況の正体がハッキリと見えるようになる。
■現代寓話としての『アリ(日本)とキリギリス(イギリス)』
ここで質問。
「現在の日本はインフレですか?」
答えはもちろん「ノー」であり、現在の日本は深刻なデフレだ。
日本の不況を「英国病」のようなものだと思っている人は意外にも多いと思う。一般庶民は言うに及ばず、著名な学者や政治家までもがそう誤解しているのではないかと思う。
サッチャーが活躍されていた頃のイギリスと、現在の日本は全く経済環境が違う。経済状況は正反対だということを知らねばならない。
「英国病」は、怠惰な人間がお金を浪費し過ぎたことで供給が追いつかなくなったインフレ病であり、「日本病」は、勤勉な人間がお金を浪費しなくなったことで需要が追いつかなくなったデフレ病である。
イソップ寓話に喩えて言うなら、イギリスは「キリギリス」であり、日本は「アリ」のような存在だと言える。怠惰な「キリギリス」にはサッチャリズムは有効だが、勤勉な「アリ」には全く無効どころか有害になる。
■政治家の役割は、インフレとデフレのバランスをとること
政治家の役割は、インフレとデフレの調整を行うことにある。どうすれば、行き過ぎたインフレ(デフレ)を抑えることができるのかを提案するのが経済学者であり、それを実行に移すのが政治家の仕事だ。ケインズはデフレ時代にインフレ政策を提案した経済学者だった。
逆にサッチャーはインフレ時代に現れた偉大な政治家であり、もし、サッチャーが現代の日本に生まれていれば、全く逆のデフレ対策(インフレ政策)を行っていただろう。
結局のところ、自由主義が行き過ぎるとデフレになり、社会主義が行き過ぎるとインフレになる。インフレやデフレが行き過ぎたところに国民の不幸が生まれるのだから、そのバランスを上手く調整することが経世済民に繋がる。
デフレ時代にサッチャーに憧れているような日本の政治家は、まず、その偏向したトンデモない思い込みをこそ是正しなければいけない。それができなければ、まともな経済政策は打てない。