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天覧試合で示された古馬の意地とデムーロの粋な心意気。

レースの内容よりも、レース後のミルコ・デムーロ騎手の“下馬&最敬礼”パフォーマンスの方に話題が集中している感がある今年の天皇賞(秋)だが、あのシーンの2分ほど前まで、話題の主役になっていたのは、「最強3歳馬対決」のはずだった。

前哨戦の毎日王冠では、未だ無敗のカレンブラックヒルが超ハイペースの展開を制し、春の時点ではクラシック戦線の脇役に過ぎなかった甘んじていたジャスタウェイが2着に食い込む波乱。

別路線組を眺めても、オルフェーヴルがいない古馬陣がどうにもこうにも魅力に欠ける顔ぶれだったゆえに、本番では、いまだ“無冠”のフェノーメノ(ダービー2着馬)が一番人気に推されてしまう状況で、本来は「挑戦者」の立場にあるはずの3歳勢が、むしろ“挑まれる”立場になってしまっていたのが、今年の天皇賞だったといえるだろう。

もちろん、G1では常に掲示板を外さない安定感を見せるルーラーシップや、昨年秋以来抜群の安定感を誇るダークシャドウ、といった古馬の面々に比べると、人気を背負っていた3歳勢の方が不安材料が遥かに多かったのは間違いないところだったのだが*1、それでも、未知の危うい魅力に懸けてみたい、という熱が、通常では考えにくいような“3歳優位”の状況を生み出したのだろう、と思う*2。

そして、万人が想像していたとおり、シルポートが壮絶な逃げを打ち、それを追ったカレンブラックヒルが少し後続を離し気味に追走してそのまま直線まで突っ込んでいった姿を見たときは、もしかしたら“無敗の天皇賞馬”の伝説誕生か?と一瞬思った。

だが・・・

インコースから気持ちよく抜け出したのは、“かつてのダービー馬”エイシンフラッシュ*3。

そして直線で少し追い出しのタイミングに入るのをためらった(ように素人目には見えた)カレンブラックヒルが、だしぬけを食らったかのようにもたつく間に、外側から一気にフェノーメノと古馬勢が襲い掛かる・・・

残念なことにカレンブラックヒルは5着に沈み、直線追い込んだフェノーメノも2着まで。

終わってみれば、軽んじられた5歳馬たちに*4、そして、粋なイタリア人、ミルコ・デムーロに見せ場を提供するだけのレースになってしまった。

もちろん、3歳勢だって、フェノーメノを筆頭に、カレンブラックヒル、ジャスタウェイ(6着)と、本来、挑戦者となるべき世代であることを考えると、十分過ぎる結果を残しているのだが、如何せん戦前の期待が強すぎた故に、何となく結果が色褪せて見えるのは残念というほかない。

第146回、という伝統の重さと、天皇皇后両陛下ご臨席、という特殊な状況が、ベテラン達の力を引き出した、と考えるのは、少しうがった見方に過ぎるだろうか*5。


なお、デムーロ騎手が入線後下馬して、メインスタンド前から天皇・皇后両陛下に跪いて最敬礼した、というシーンは、非常に印象的なものだったのは間違いないが、後になって聞くところでは、後検量前に故意に下馬するのは、規則上はNGのようである。

また、今回と同じく天皇皇后両陛下が観戦された7年前のレースでは、ヘヴンリーロマンスに騎乗していた松永幹夫騎手(当時)の馬上での一礼が話題となったが、松永騎手の場合、「下馬してはいけない」というルールに忠実に従ったうえで、馬上で最大限の敬意を示したもので、所作の美しさもあって、そこに全く違和感はなかった。

こういった過去の経緯に加え、馬にかかる負担等を考えると、多くの観衆が押し寄せているメインスタンド前で、騎手が下りるようなことは本来避けた方が良いのは間違いないところだから、手放しでデムーロ騎手の行為を賞賛するわけにもいかないのだが・・・


やっぱり、短期免許でさっと来日して、おいしいレースを持って行ってしまう確かな技能と、多くの日本人が期待していたような粋なパフォーマンスをあの一瞬でさらっとやってのける心意気は、素晴らしいの一言に尽きてしまう。

この先、両陛下が観戦する機会がいつ巡ってくるのか、は分からないけれど、松永幹夫騎手が引退して調教師になったからといって、いつまでも外国人騎手に任せておくわけにもいかないわけで、日本の若手騎手たちが奮起して、彼らの後を継げるような手綱さばきと風格を身に着けた人物へと成長し、同じ場所に立つ日が来ることを、一競馬ファンの日本人としては、ただ願うのみである。

*1:フェノーメノは、先述のとおり3歳戦線でもG1・2着が最高。古馬との対決実績はなし。カレンブラックヒルは3歳戦での実績ことずば抜けているものの、主戦場はマイルで、千八以上の距離での勝ち鞍がなく、しかも鞍上は大舞台での実績が決して豊富とは言えない秋山騎手。

*2:カレンブラックヒルに関して言えば、「エルコンドルパサーだって、ジャパンCを勝つまでは、“マイルまでの馬”という風評が立っていたじゃないか」という古い記憶が、自分も含めて、支持者の背中を押していたような気がする。もちろん、母方から欧州の重厚な血脈を受け継いでいるか、それとも米国のスピードタイプの血脈か、という違いは大きかったのだけれど。

*3:道中は比較的後方に付けながらも、内側の一番良いコースを突いて、しかも何の妨害も受けることなく、するすると恩恵を享受したのだから、鞍上のデムーロ騎手にとっても最高のレース展開というにふさわしかったのではなかろうか。そして、そんな勝ち方の“あまりの気持ちよさ”が、入線後のパフォーマンスにもつながったような気がする。

*4:勝ったエイシンフラッシュをはじめ、ルーラーシップ(3着)、ダークシャドウ(4着)と、5歳馬勢が上位をキープする、という結果になった。

*5:ちなみに、7年前もヘヴンリーロマンス、ゼンノロブロイという2頭の5歳馬が堂々のワン、ツーを飾っている。

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