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コロナで撤退しているのは強みのない「なんとなく出店した店」一等地の家賃が下がるチャンスを虎視眈々と狙う猛者も


2月末に銀座のフランス料理店に行った。店内には私たち2人ともう一組、2人客がいるだけでその日の客はそれだけだという。コロナ禍はまだ始まったばかりだけど、もう厳しい。今から融資を検討しなくてはいけないかもしれない、そんな話を聞いた。

それから緊急事態宣言を経て8カ月。都心の飲食店はどうなっているのか。

空室率は上昇しているものの、家賃は下がらず

千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区の都心五区で店舗、オフィスを扱う不動産会社サンライズの野里浩一氏に聞くと、これまで8割稼働していた店が3割、4割どころか、日によっては1人の客も来なかったこともあるほどの大打撃を受けているという。

だが、その一方で不思議なことがある。撤退する店舗が増加し、同社でも例年の2〜3倍の次回募集案件(簡単にいえば空き物件)があり、空室率は上がってきているというのだが、同時に家賃も4月以降8月くらいまでは上がってきていたのだという。

「9月に入り、高止まり傾向ながらも少し下がってきた感はあるものの、撤退が増えたからといってテナントの家賃は下がっておらず、むしろ上昇しています。それは撤退があっても店子の入れ替えが起きているだけだからです」

100坪を借りていた店舗が50坪に、50坪が25坪にと大半は縮小方向に移転しており、撤退があっても条件が良ければすぐに埋まるのだという。ただ、この背景にはコロナ禍での縮小傾向以外に、このところ続いてきた「プライベート化」の流れもある。

スポーツジムでいえば大型で設備が充実し、ブランド力、ステイタスのあるものと、一対一で細かいところにまで目が行き届くレッスンが受けられるパーソナルジムが併存している状況をイメージしていただければお分かりいただけよう。美容室や物販の一部でも同様の流れがあり、商品力次第だが、プライベート感を売りにした小規模店にもチャンスはありうるのである。

また、全般には縮小方向への移転が多いが、動画配信など波に乗っている業種では広い物件を借りる例もある。

今の時期ならこれまで出てこなかった好立地の物件や居抜きの造作代が無料、賃料の交渉の余地ありなど好条件の物件があるため、ここで良さそうな物件を抑えておきたいという前向きな事業者も少なくない。世の中では暗い話ばかりが流布されているが、一方でピンチはチャンスと受け止めている人たちもいる。私の友人の飲食店経営者でも、この春以降はせっせと物件を物色し、より良い条件の店舗を探している人は少なくない。

撤退しているのは強みのない「なんとなく出店した店」


もちろん廃業せざるを得ない店舗もある。だが、それは強みのない、人通りが多いからここに出そうとなんとなく出店を決めた店が多いと野里氏。

「弊社が扱っている都心五区はそもそも、ほとんどの業種が過多なエリアです。ただ、これまでは集まる人が多かったので、一見さん頼りでも、差別化できるような味や接客などの強みがなくても、なんとかやってこられていました。それがステイホームで客が蒸発。その後、人が戻るようになっても、なんとなくやってきた店に客は戻ってこず、撤退を余儀なくされている、そんな状況です」

新宿の場合でいえば家系ラーメンが総崩れだそうで、確かに向かい合って、隣あって同じテイストのラーメン店が並ぶ場所で生き残るのは難しい。また、沿線をテリトリーとしていた賃貸仲介事業者もターミナル駅近くの店舗を閉鎖している。通りすがりの来客が見込めなくなってきたのはここ何年かの傾向だが、それがいよいよ決定的になったということだろう。

都心五区内でも現状はまだら模様。総じてオフィスエリア以外の打撃が大きいという。「千代田区でいえばオフィスエリアはそうでもありませんが、秋葉原は大打撃といったように、オフィス街は人とともに客も戻ってきています。また、西新宿の高層ビル群周辺では数百円のランチの店には客が戻っていませんが、1000円、2000円する店は取り戻しつつあります。店舗利用者の属性などで格差が生まれているのかもしれません」

野里氏の話を聞いて連想したのは賃貸住宅の動きだ。このところ、複数の不動産会社から、学生やアルバイトなどが多い家賃数万円台の住宅で退居が続き、入居希望者がいないという話を聞いている。そのため、築30年など古くて狭く、不便な立地にあるワンルームの売り物件が目に付くようになっている。空室続きで投資家が手放しているのである。その一方で単身者向きでも10万円を超える物件は動いている。

つまり、安定した収入があり、先々に不安のない人は住み替えるなどして動いているし、飲食店も利用しているが、そうではない層は実家に帰るその他で家賃を節約、外食も控えているという状況が想像されるのである。

年末商戦以降に本当の景況が見えてくる


では、意外に景気の良い話が今後も続くかといえば、さすがにそれはないと野里氏。例年、飲食、物販ともに12月の年末商戦でひと稼ぎをしてそれを最後に廃業というケースが多い。今年はさらにそうした店舗が増えるのではないかという。

「4月、5月に持続化給付金を申請した店舗だと支給は6月、7月。受け取ってすぐに廃業したらまずいだろうと考えている人が多いのですが、支給後、どの程度営業を継続すれば良いかについては明確なラインは示されていません。ただ、なんとなく、半年続ければ良いかという雰囲気があり、そこから考えるとこの秋以降がちょうどそのタイミング。だったら年末に稼いで終わろうかということになるケースが多いのではと読んでいます」

店舗では解約の予告が半年前ということも多く、それも合わせて考えると、なるほど、この秋から年末、年度末くらいまでの状況を見れば飲食店の景況が見えてくるのかもしれない。

ただ、それ以降ももう一段の調整はあるだろう、必要だというのが野里氏の見解。

「このところ、家賃はずっと上がってきていて、現状はかなり高め。ですが、今後、これまでと比べて7割稼働、8割稼働が標準になるとして、しばらくはインバウンドも見込めないとしたら賃料も今の7割、8割くらいにならなければ成り立ちません。ソーシャルディスタンス、営業時間の短縮を考える必要があり、仕方ありません」

飲食店の収支は席数、客単価、回転数から考える。20席の店で客単価が5000円で2回転するとしたら、一晩20万円。それで月に25日営業したらと計算して家賃その他を考えていくわけだが、これまでより客席数、回転数が減れば売上は当然下がる。その分、客単価が上げられれば良いが、できる店ばかりではなかろう。となれば、年末、年度末の状況如何では家賃の調整が始まるかもしれない。

家賃下落と聞くとマイナスに思うかもしれないが、決して悪いことではない。これまでは高すぎて借りられなかった一等地の店を借りられるチャンスが生まれるということであり、その日を虎視眈々と狙っている人もいる。

「これまで賃料が高くて大名だけが得している状態だったものが、下剋上のチャンスのある時代になる。日本の飲食がもっと面白くなる時代が来るのかもしれません」

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